第4話

入口の扉を開くと、大量の本棚に大量の書籍が詰め込まれ、その奥に大型のサーバーや測定器などがひしめいている雑然とした室内が目に入る。


「まぁ確かにここでは無理でしょうねぇ。じゃあ僕の部屋を使えばいいじゃないですか。どうせ慣れるまでしばらくは二十四時間付きっ切りで面倒見なきゃいけないんですし、僕が世話をしながら観察記録を取りますから」


と奥の階段へと進む徹に、


「チッ……ちょっと山でイニシアチヴを取れたからって何を急に仕切ってるんだ。そもそもお前の部屋だって住み込みで働いてるお前に私が貸してやってるだけだろうが」


遊佐木が口を尖らせるが、


「何ですか、そんなこと言うなら僕はもう出て行きますから、この子は遊佐木先生が面倒見ますか?」


「……まずはどうする。やはりベタに餌でもあげて食性を確かめてみるか」


「スルーしましたね……。まぁいいですけど。っと、さ、着いたぞ。ちょっと散らかってるけど、ここがしばらくはお前のおうちだからな」


三階の徹の部屋へと辿り着き、徹は腕の中のもふもふを、部屋の中央に置かれたソファの上にそっと下ろした。


「さてと……でも餌と言っても、いきなり色々あげて中毒でも起こされたら困りますから、とりあえず水と、粉ミルクでもあげてみましょうか。帰りに寄った店で哺乳瓶も買っておきましたし」


言いながらキッチンへと向かい手際良くミルクを作り、軽く水を入れた小皿と共に両手に携え戻って来た徹が、


「さ、どうかなぁ?水は……うぅーん、警戒してるのかなぁ」


床に小皿を置き、もふもふの生命体をそっとその前に下ろすが、もふもふは戸惑った様子で徹を見上げるだけで口を付けようとはしない。


「じゃあ、こっちはどうかな、っと」


言いながらもふもふを優しく抱き上げソファに腰を下ろした徹が、右手の哺乳瓶をそっと口元に差し出す。


しかしやはりもふもふは困ったような表情で哺乳瓶と徹を交互に見詰めた後、済まなそうにうつむいた。


「あはは、緊張してるのかな?大丈夫大丈夫、焦って無理して飲まなくていいからな、欲しくなったら言うんだぞ?あぁ、超かわいいなぁ」


「……いや……かわいいとかそういうのはいいから、真面目に身体的特徴を確認してくれるか」


ずっと無言で徹の行動を見詰めていた遊佐木がとがめるように言う。


「あはは、すみません、わかってますよ。まずはですね、全身長い毛に覆われていて、足はあんまり長くなくて……肉球が無いです、そこはウサギと一緒ですね。顔はマルチーズとウォンバットとモモンガを合わせたみたいな感じで……耳は小さめで、なんか眉毛みたいな毛もあって、ヒゲは……無いのか。それから、尻尾は短め、性別は……ちょっとわからないな。っていうか排泄器官自体どこだ?ごめんね、痛いことしないから、ちょっとだけ」


そう言って仰向けに左腕に抱いたもふもふの後足の間を、長い毛を掻き分けて調べる徹に、


「どうした、まさか動物相手に性的に興奮しているのではなかろうな」


「んなわけ無いでしょうが。あれ……やっぱりほんとに無いな。どうなってるんだ?さすがにそんな動物はいないと思うんですけど……」


と、徹が首を傾げてもふもふを抱き直して正面から見つめ合った、その時。


もふもふの体内からあからさまに人工的で機械的な警報のような大きな音が鳴り響き始め、徹を見詰めるその目が赤い点滅を放ち出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る