女神の天罰

 正門に激突したエルク。

 いきなりのことで、誰も動けない。

 最初に動いたのは───エマだった。


「え、エルクさん!!」


 エマは、少しでも力になれればと、衛生兵として志願していたのだ。

 真っ先に駆け寄るエマ。遅れてガンボ、ニッケス、フィーネにメリー、そしてヤト。

 エマの頭に乗っていたシルフィディも慌てていた。


『なな、何があったのよぉ!!』

「ぅ……」

「エルクさん、エルクさん!!」

「う、え、エマ……」

「おい、しっかりしろ!! 何やってんだテメェ!!」

「ガンボ……」


 エルクは、ボロボロのまま立ち上がる。

 学園中の生徒が注目していた。だが、今は構っている場合じゃない。

 なぜなら───上空に、巨大な『隕石』が浮かんでいた。

 真っ赤に燃えがる巨石。あれば学園に、城下町に落ちればタダでは済まない。

 エルクは傷だらけの両腕を持ち上げる。


「───ふふ」

「!!」


 隕石の後方に、いた。

 女神ピピーナを名乗る『何か』が、右手をエルクたちのいる学園に向けていた。

 エルクは念動力を発動。

 ピピーナもまた、念動力を発動した。


「こ、のっ……!!」


 空中に浮かぶ隕石がピタッと止まる。

 エルクの念動力に押され、少しずつ後退していく。

 僅かだが、エルクの念動力のが強い。徐々に、徐々に押していく。

 だが───ピピーナは、クスっと笑う。


「確かに、エルクは強い。ここにいる誰よりも強いよ? ロロファルドも、ピアソラも、リリィも、ラピュセルも……四人がかりでも、エルクに傷一つ負わせられないだろうね」

「「「「…………」」」」


 ピピーナの背後にいるロロファルドたちが沈黙する。

 

「でもね、どんなにエルクが強くても……私には、敵わないの。だって私は、神様だからね」


 ピピーナが五指を開き、グッと握りしめると、隕石の落下する力が爆発的に上がった。


「!? ぐ、っぐぐぐ……ッ!!」


 エルクも、九割の力で念動力を発動する……だが、隕石の落下は止まらない。

 ピピーナは首を傾げた。


「ね、エルク。なんで本気を出さないの?」


 未だに本気を出さないエルクに訝しむピピーナ。そして、この状況で本気を出さないエルクに、ロロファルドたちは驚愕していた。

 エルクは、念動力を発動させ続けながら言う。

 生徒たちや教師たちも手を貸そうとするが、次元の違う能力に何もできない。できるのは、防御系スキルを持つ生徒や教師たちが、全力で守ることだけ。

 エルクは、はっきりと言った。


「約束、だからだ!!」

「……は?」

「ピピーナと約束した。本気は、出さないって……!!」

「……」

「俺は、もうあいつとの約束をいくつも破ってる……だから、最後の一つくらいは、守りたい!!」

「ふーん」


 ピピーナはさらに念を強めた。もう、エルクでは抑えきれないほど強い力になった。

 エルクの背後には、学園が、仲間たちがいる。

 守らなければ、ならない。


「お、ぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

「お? まだ粘るんだ」


 エルクの額から血が出た。血管が切れ、皮膚を破ったのだ。

 指の爪も剥がれ、口からも血が出た。

 最後の一線を越えない、限界ギリギリの念動力。

 だが───。


「無駄だってば」


 あっさりと、ピピーナはその上をいった。

 エルクの念動力による支配を逃れた隕石が、ガラティーン王立学園に直撃した。


 ◇◇◇◇◇◇


 瓦礫の山となった学園。

 エルクは、瓦礫に埋もれていた。


「…………」


 温かい何かを感じる。

 エルクの手には、エマの手が乗っていた。


「エマ……」

「エルクさん……大丈夫、ですか?」

「ああ。ごめん……エマは?」

「大丈夫、です。けふっ」


 エマは、吐血した。

 よく見ると、エマの背中に瓦礫の破片が刺さっていた。


「え、エマ……?」

「えへへ……なんだか、疲れちゃい、ました」

「あ、あ……」


 エマは静かに目を閉じ───そのまま、気を失った。

 そして、エルクも。


「ぅ、あれ……?」


 エルクも、瓦礫に押しつぶされたことで全身に少なくないダメージを受けていた。

 吐血し、めまいと眠気が同時に襲ってくる。


「…………ぅ」


 そして───そのまま、意識を手放した。

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