女神とエルク

「ん~?」

「ピピーナ様?」


 ガラティン王国へ向かう途中の上空で、ピピーナは停止した。

 ピアソラ、リリィ、ロロファルド、ラピュセルは「?」を浮かべる。

 だが、ピピーナは気付いた……何かが来る。

 

「え、まさか」

「……きた」

「やっぱりねぇ」

「……試練なのですね」


 四人も気付いた。

 何かが高速で接近してくる。

 漆黒のカラスが、ピピーナたちの前で急停止した。


「……ピピーナ」

「あら、エルクじゃない! ふふ、久しぶり~」


 ピピーナはニコニコしながら手を振る。

 エルクは悲し気にピピーナを見つめ……ふと、眉を潜める。

 

「ん? どうしたの? わたしの顔に何か付いてる?」

「待て……ピピーナ?」

「ん? なになに、どうしたの?」


 エルクは、ピピーナを見つめ……信じられない者を見るような眼で言った。


「待て。お前……誰だ?・・・

「はぁ?」

「お前、ピピーナじゃない。お前……何だ?」

「いやいや、何言ってんの?」


 ピピーナは、わけがわからないと言うように笑う。

 エルクは、ピアソラに聞く。


「おいお前、こいつは誰だ!?」

「誰って、あはは。ピピーナ様でしょ?」

「ロロファルド!!」

「きみ、大丈夫?」

「そこのお前!!」

「ピピーナ様……」

「ラピュセル!!」

「どうやら、あなたは精神がおかしくなったようですね」


 神官たちも、気付いていない。

 エルクは確信した。


「こいつは……ピピーナじゃない!! お前ら、何を呼び寄せた・・・・・・・!?」

「はいはいは~い。ね、あたしがピピーナじゃないって何ぃ? あたしは、ピピーナだよ!!」

「違う。お前……何なんだ」

「むぅ、エルクってば変!! もう、わけわかんない」

「…………」


 話にならない。

 ともかく、こいつはピピーナじゃない。と、エルクは結論付けた。

 チートスキルをもらい、即別れた神官とは違う。

 エルクは、何年もピピーナと共に過ごした。そのエルクが、ピピーナを見間違えるはずがない。


「エルク。あんまり変なこと言うと、おしおきしちゃうからね!!」

「やってみろ。お前はピピーナじゃない!! これ以上、ピピーナを汚すんじゃねぇ!!」


 エルクは両手を広げ、念動力を解放した。


 ◇◇◇◇◇


「止まれ」

「なんで?」

「えっ」


 念動力でピピーナを拘束した。が……ピピーナは平然と、笑顔で近づいてきた。

 エルクの念動力による拘束が、通用しない。

 ギョッとするエルクに、ピピーナは人差し指をエルクに突きつける。


「えいっ」

「!?」


 恐るべき衝撃がエルクを襲う。

 空中に浮かんでいたエルクは、恐ろしい速度で地面に叩きつけられた。


「あ、がっ……!?」


 念動力で全身を覆っていたからこそ防御できた。が、エルクの防御を貫いた。

 吐血───……まともにダメージを受けた。

 すると、ピピーナが降り立つ。


「まったく。わたしを疑うなんて、エルクはダメな子!!」

「このっ……」


 エルクは周辺の木々を全て念動力で地面から抜き、ピピーナに向けて飛ばす。

 だがピピーナは、人差し指をピッと向けただけで、木は全て停止する。


「無駄。ふふ、全てのスキルはわたしが与えたんだよ? スキルの攻撃が、わたしに通用するはずないじゃん?」

「くっ……だったら!!」


 エルクは両手のブレードを展開。『念動舞踊』でピピーナに急接近し、ピピーナの喉を切り裂く。

 だが、ブレードは空を切る。

 ピピーナは、ほんの数センチ動いただけでブレードを躱した。

 完全に見切っている。


「この、この、このっ……!!」

「ん~……くぁぁ」


 ピピーナは欠伸しながら回避している。

 当たる気がまるでしない。

 次元が違う。八割の力でも、勝てる気がしない。

 エルクは攻撃を止め、バックステップで距離を取る。


「この、喰らえぇぇぇぇぇぇっ!!」


 渾身の『念』を飛ばし、動きを止める。


「お?」


 ピタリと、一瞬だけピピーナが止まった。

 だが、すぐに何事もなかったようにスタスタ歩きだす。

 エルクの目の前で止まる……エルクは、右腕を突き出したまま動けなかった。

 逆に、念動力で止められたのである。


「む、だ」

「…………ッッッ!!」

「エルクは、この先にある王国に住んでるんだよね?」

「……!!」

「罰としてぇ……そこ、壊しちゃいます」

「!?」

「大事なものがなくなれば、それはすっごい『罰』だよね」

「お……ま……え……ッ」

「じゃあ……行ってらっしゃぁ~い♪」

「───ッ!!」


 エルクは、念動力で念吹き飛ばされた。


 ◇◇◇◇◇


 ガラティーン王立学園、正門前広場。

 ここに、学園の全校生徒が集結していた。

 全校生徒を前に、戦闘服に着替えたポセイドンが立つ。


『わしが言うのは一つだけ……誰も死ぬな。これは、何に置いても優先すべきことである!!』


 普段のおちゃらけた感じが全くない。

 教師陣も、全員が戦闘服を着ている。

 王国内にいる冒険者、傭兵、騎士たちも、アドラツィオーネを迎える準備ができている。

 来るなら、来い。

 ガラティン王国は、完全な戦闘態勢に入っていた。

 

「……む?」


 ポセイドンは気付いた。

 こちらに向かって、何かが飛んできた。


「全員、戦闘態せ───……」


 何かが正門に激突した。

 それは、漆黒の少年だった。

 全校生徒が、見た。

 最初に叫んだのは───……ヤトだった。


「……エルク!?」


 ボロボロになったエルクが、学園の正門に激突し、気を失っていた。

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