女神の戦争

「あはははっ!! ピピーナ様、すっごぉい!!」

「まぁね~」


 ピアソラは、瓦礫の上ではしゃいでいた。

 たった今、一つの国が滅んだ。女神ピピーナによる魔法で、国民も、王も、騎士も、何もかも消滅してしまったのだ。おかげで、王国がほぼ更地になっている。

 ロロファルドは、辺りを確認した。


「いや~、何もないね。マジで綺麗さっぱり消えちゃった」

「確かに、寂しいね。じゃあこうしよっか」


 ピピーナが指を鳴らすと、瓦礫が砂になり地面に消え、地面から草花がにょきにょき生えてきた。さらに、死体の肉や骨がリス、子猫、子犬などになり、嬉しそうに花畑を駆けまわり始めたのだ。

 リリィは、子猫の一匹を抱き上げる。


「……かわいい」

「ふふ、気に入った? 私の子供たち」

「うん。ピピーナ様、ありがとう」

「どういたしまして~」


 ピピーナはリリィを撫でる。

 ラピュセルは、花畑に向かって祈りを捧げていた。


「これが女神の奇跡……素晴らしい」

「そんなことないよ? ただ、命を消して新しく作っただけ。まったく、こんな瓦礫だらけ、欲望だらけの国なんて必要なし。世界は綺麗なままにしないと!」


 ピピーナがふわりと浮かぶと、ピアソラたちも浮き上がる。

 ロロファルドは、言いにくそうに言った。


「あの、ピピーナ様。一つお願いが」

「ん、なーに?」

「その、ぼくらは人間なので、やっぱり必要な物は必要でして……大きな国を一つだけ、残していただけないでしょうか?」

「え~? 仕方ないなぁ。じゃあ、一個だけね?」

「ありがとうございます!」

「じゃあ……ここから近くにある国は残そっか。でも、ヒトは消しちゃうからね」

「はい。あ───……」

「どうしたの?」

「いえ。ここから近い場所……ガラティン王国ですね」

「ガラティン王国?───……くんくん、あ!! あそこ、私の匂いする」

「はい。エルクくん……あなたの子が、いますね」


 ロロファルドは、ニヤリと笑った。


 ◇◇◇◇◇◇


 エルクは、寮の部屋で寝ていた。

 何度も寝がえりをするが、全く寝れない。

 

「…………」


 寮生は全員、学園へ残り防衛に回るそうだ。

 エマとニッケスも残り、支援するという。

 エルクだけ、戦う意味を見出せなかった。


「ピピーナ……」


 どうすればいいのだろうか。

 ピピーナを、倒せるのか? 

 というか……この学園が、傭兵が、冒険者たちが、何もかもが力を合わせても、ピピーナに傷一つ負わせることができないのではないか。

 エルクは、そう思っていた。

 すると、ドアがノックされる。


「エルクさん、入ります」

「エマ……?」


 エマが、食事のトレイを持って現れた。

 

「マーマさんが『腹減ってるだろうし、無理やり食わせな』って。ふふ、お腹、空いてますよね?」

「あ」


 エルクの腹がグゥ~ッと鳴る。

 エマからトレイを受け取り、食べ始めた。


「……うまい」

「はい。マーマさん、食事係として残るそうです。私も、お手伝いを」

「……そっか」

「エルクさん……エルクさんは、頑張りました」

「え……?」

「だから、もう休んでください。ここからは、私が頑張りますから!」

「え、エマ?」

「エルクさんは、いっぱい傷付きました。だから……これ以上は」

「…………」

「私、エルクさんに会えて幸せでした。だから、これからはエルクさんが幸せになるために、私なりに戦いたいと思います」

「…………っ」

「エルクさ「もういい!!」


 エルクは、エマの肩を掴む。


「もう、いい……死ぬみたいな言い方、するなよ」

「……え、えへへ。エルクさんの傍なら大丈夫かと思ったんですけど、やっぱり……こ、怖いです」


 エマは、震えていた。

 いくつもの国が壊滅し、ガラティン王国も狙われていると知ったのだ。怖くないわけがない。

 それだけじゃない。他の仲間たちもみんな、同じ気持ちだ。


「え、エルクさん……う、うぅ、私、死にたくないです。エルクさんが辛いって知ってるのに、私……エルクさんに、助けてほしいです」

「…………」

「ごめんなさい、ごめんなさい……う、ぅ」

「……馬鹿だな、エマ」

「え……?」

「もう、吹っ切れた。俺も怖い……でも、守りたい」

「……エルクさん」

「俺、行くよ。俺……ピピーナを、止める」


 エルクは立ち上がる。

 服を脱ぎ捨て、戦闘服に着替える。

 ロングブーツを履き、コートを着て、籠手を嵌める。

 そして、眼帯マスクを装備。


「俺は守る。エマ……絶対に、お前を、みんなを死なせない」

「……エルクさん」

「じゃあ───……行ってくる」


 窓を開け、念動力を使い空を飛び───……エルクは、女神の元へ向かった。

 女神ピピーナと話すために。

 女神ピピーナを、止めるために。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る