ビーストの狂乱

『何ダ、コノ、姿、ハ……』


 アザゼルは、変わり果てた自分の姿に驚愕していた。

 突如、身体が動かなくなったと思った瞬間、身体が変化した。

 爪が生え、牙が伸び、皮膚が鱗になり、尻尾が生え、ツノが生え……完全な異形と化した。

 自分だけではない。ヒナギクも、仲間たちも皆、変わった。

 人質たちが愕然としている。

 聡明なアザゼルはすぐにわかった───……嗅覚が発達したせいか、匂う。


『ピアソラァァァァァァァァァァ───ッ!!』


 窓を突き破り、元凶の女の元へ。

 そこにいたのは、地の宝玉を片手で弄び、ケラケラ笑うピアソラ。そして、同じく異形と化したエレナの憐れな姿だった。

 許さない。許さない。許さない。

 無邪気な目が、アザゼルに向き───嘲笑った。


「ばいば~いっ」

『───っ』


 身体が爆散し、頭だけとなったアザゼルは落下する。

 もう、ピアソラはアザゼルを見ていなかった。

 薄れゆく意識の中、アザゼルは思った。


『───チクショウ』


 本当は、ただ普通に……平和な世界で生きたかっただけ。

 どうして、こんなことになったのか───もう、わからない。


『ガァァァァッブ!!』


 落下したアザゼルの頭を、異形と化したエレナの大口に食われ、咀嚼……アザゼルは死んだ。

 

 ◇◇◇◇◇


 エルクは、巨大化しバケモノとなったエレナと対峙する。


『アア、ピアソラ……許サナイ。デモ……マズハ、エルククン、アナタカラ!!』

「エレナ先輩……っ!!」


 ブレードを展開し、構えを取った瞬間……エレナの背後でジャコブが飛びあがり、竹刀を頭に叩きつけた。


「だらぁっしゃい!!」


 竹刀が触れた瞬間、爆発した。

 エレナの頭が吹き飛び、首だけになる……が、頭が一瞬で再生。


『邪魔』

「ぬぐぉぉっ!?」


 尻尾で薙ぎ払われ、ジャコブは校舎に向かって吹き飛ばされる。

 だが、エルクの念動力により急停止し、念動力で誘導されエルクの傍まで飛んできた。


「先生、大丈夫ですか!?」

「すまんな。なぜお前が地の宝玉を持っていたのか問い詰めたいところだが……今は、こいつを何とかするのが先決だ!!」


 すでに、回復役の教師たちが生徒の誘導を始めていた。

 いかに強くなろうと、まだ実戦は無理だ。現に、一目散に逃げる生徒や腰を抜かした生徒が多くいる。そんな生徒に喝を入れ、教師は逃がそうとしている。

 だが……そうじゃない生徒もいる。


「……ずいぶん硬そうだけど、斬れるかしら」

「フン、私の剣の錆にしてあげましょう」

「よぉぉっし!! やっちゃうぞ!!」

「へ、おもしれぇ」

「食べちゃおっと」

『すっごい大きいね~』


 ヤト、メリー、フィーネ、ガンボ、ソアラ、そしてシルフィディだ。

 そして、もう一人……剣を鞘から抜き、王太子エルウッドが現れた。


「授業に遅れたと思ったら、こんなことになってるとはね」

「エルウッド。久しぶりだな」

「ああ、エルク。いちおう、王太子なんでね……やりたくもない仕事がある。授業に遅れた謝罪は、この剣で返そう」


 エルウッドが剣を構えた。

 ジャコブは一喝する。


「生徒は下がれ!!」

「先生!! ここは俺たちに任せて、学園内にいるバケモノをお願いします!!」


 ジャコブに被せるよう、エルクが叫ぶ。

 さらに、ジャコブが何か言う前に追撃する。


「商業科には非戦闘スキルの生徒が多くいます。すでに騎士や傭兵、先生たちが動いていると思いますけど、指揮に優れた先生が行けば、少なくとも先生たちは迅速に動けると思います!!」

「ぬっ……」

「大丈夫です。先生、知ってるでしょ……俺がしてきたこと」


 フードを深くかぶり、左目だけでジャコブを見る。

 ガラティーン王立学園のアサシン、『死烏スケアクロウ』の話はジャコブも知っている。たった一人の生徒が、アドラツィオーネの襲撃を一人で防いできた話も。

 ジャコブは歯を食いしばり、叫ぶ。


「絶対に死ぬな!! 以上!!」

「「「「「「はい!!」」」」」」


 ジャコブは生徒を信じ、この場から走り去った。


 ◇◇◇◇◇


「おいエルク、どうす───」


 ガンボが言い終わる前に、エルクは飛び出した。

念動舞踊テレプシコーラ』で身体能力を上げる。頭を潰されても死ななかったエレナの弱点を探すため、まずは銃に弾丸を込め、飛び上がり口の中に向けて発射した。


『ガッ!?……痛イジャナイ!!』

「チッ」


 口の中を貫通し、後頭部から弾丸は飛び出した……が、エレナの傷は一瞬で治り、そのまま口から炎を吐いた。

 すると、『加速』したエルウッドが横から現れ、エルクの身体を掴んで着地。

 純白の騎士服にマントの姿は、まるでエルクと正反対だ。


「大丈夫か? と言いたいが……むやみに突っ込むのは危険だ。あれは頭部を破壊されてもすぐに復元した。策を練らないと」

「わかってる。そうだな……せっかくみんないるし、みんなでやるか」

「当たり前だろう。何を言ってるんだ───来たぞ!!」

『ガァァァァァァァッ!!』


 エレナが走り出した。

 その巨体が走るだけでも脅威。

 エルクは訓練場にある客席の長椅子を、念動力で大量に引っぺがし、エレナの全身を包み込むようにくっつけた。

 エレナは転倒し、バタバタ暴れる。徐々に椅子が砕け、自由を取り戻し始めた。


「一刀流───『流星刃』!!」


 接近したヤトが、神速の抜刀でエレナの両足を切断。

 ヤマト国で手に入れた新しい刀の切れ味は抜群だ。

 そして、フィーネとガンボが拳を握り、エレナの頭を狙って拳を放つ。


「「『ダブルバスター』!!」」


 それぞれの腕を『硬化』させ、『加速』を付与させた連携技。

 フィーネの加速もスキル進化し、『加速付与』となっていた。

 ガンボの『硬化付与』との相性がよく、必殺技を『フィーネが強引に』作ったのだ。

 二人の拳がエレナの頭に命中……破壊はできなくても、脳を揺らした。


『ガッ……』


 口から泡を吐き、ピクピク痙攣するエレナ。

 エルクは、念動力でエレナの身体を高く浮かせ、そのまま猛スピードで地面に叩きつけた。

 爆音が訓練場に響く。地面を念動力で保護しての激突だったので、地面が砕けることはない。

 頭の潰れたエレナがピクピク痙攣する。

 だが───エレナの頭が光に包まれ、綺麗に治ってしまった。


『フフフ、無駄ヨ無駄。痛イケド……コノ身体、死ナナイミタイ。ピアソラハ食イ殺ストシテ、アナタタチモ食ッテアゲル!!』

「バケモノめ……」


 エルウッドが舌打ちする。

 不死身の怪物となったエレナ。

 だが……エルクは、小さく鼻を鳴らした。


「くだらない。エレナ先輩……ここで終わらせてやる」


 エルクは右手をエレナに向け、念動力を発動させた。

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