新装備

 ヤマト国から帰還し、十日ほど経過した。

 カヤは実家に戻り家業を継いだ。よって退学。寮生たちに言わなかったのは別れがつらいから。そう説明し納得させた……中には、納得していない者もいたが。

 ソフィアは、詳細な報告を学園にするだろう。もちろん、カヤの死についても。

 ヤマト国にあった『火の宝珠』は、すでにアドラツィオーネに持ち去られたこと、ヤマト国は完全な敵ということ、神官の一人を倒したことなど、全てソフィアが説明。

 当事者のエルクとヤトは、普通授業に出て学園生活を満喫していた。

 来たるべき戦いはやってくる。だからこそ、今という日常を大事にする。

 そんなある日。エルクはエマとニッケスに呼び出された。


「エルクさん、ようやく完成しました!!」

「へへへ、マジのマジで自信作だぜ!!」


 寮の空き部屋に呼び出され、見せられたのは……新しい戦闘服。

 デザイン、材質、装備を一新したエルクの戦闘服だった。

 エルクの頭に乗っていたシルフィディが叫ぶ。


『きゃーっ!! カッコいい!!』

「か、かっこいい……うん、かっこいい、うん」

「ふふふ。やりましたね、ニッケスさん!!」

「おう!! いや~苦労したぜ。な、エルク……そろそろ説明していいか?」

「お、おう」


 新しいエルクの戦闘服。

 漆黒のロングコートにはフードが付いており、背中にはカラスの紋章が刻まれている。

 素材はオリハルコン繊維と強化ダマスカス鋼糸のハイブリッド。この二つの素材により、斬撃と衝撃、対銃弾防御が可能である。さらに伸縮性にも優れており、通常の服と変わらない重さ、しなやかさである。

 手から肘までを覆う籠手。こちらには手首の下に隠しブレードが内蔵されており、手を反らすと刺突・斬撃用のブレードが飛び出す仕組みになっている。

 さらに上腕部分。右上腕には折りたたみ式の短弓が、左上腕には銃が装備されている。籠手そのものの素材も一新し、非常に頑強になっている。

 ロングブーツ。こちらの靴底には『トゥ・ブレード』という仕込みナイフが内蔵されている。つま先部分からナイフが飛び出し、蹴り技を繰り出す時に必殺の武器となる。

 マスク。こちらは左目だけを解放し、口元はガスマスク、右目はサングラスとなっており強い光を防御する。敢えて左目だけを見せることで、相手に威圧感を与える効果もあった。


「ぶっはぁ……い、以上。せ、説明終わったぁ」

「お、お疲れ。まとめると、素材を変えて足にブレード仕込んだってことか」

「端折るな!! ったく、大変だったんだぞ? エマちゃんが、ヤマト国に行ったお前のことを案じて、新しい戦闘服を作りたいって相談受けて」

「わーわーわー!! に、ニッケスさん!!」

「あ、内緒だった。わるいわるい」


 ニッケスはニヤニヤしながら頭をパシッと叩く。

 絶対わざとだ。と、エルクとエマは思った。

 ニッケスは、真面目な顔で言う。


「ま、ヤマト国でもいろいろあったんだろ……? いい装備にしておけば、いざという時にも命を守れる。まぁ、親父の命令だしな、お前への支援はちゃんとやるよ」

「……ニッケス」

「カヤちゃん、元気でやってるといいな」

「…………ああ」


 恐らく、ニッケスは知っている。

 情報を集めたのではない、なんとなく、察したのだ。

 もう、カヤには会えないと……だから、エルクは曖昧に応えた。


「ありがとな、ニッケス。それと……エマ」

「おう」

「はい。エルクさん」


 エルクは、新しい戦闘服を見つめ、ポツリと呟いた。


「『死烏』……アサシンか」


 この日の夜、エルクは学園長ポセイドンに呼び出された。


 ◇◇◇◇◇◇


 ポセイドンの部屋に呼び出されたエルク。

 いつもは副校長のエルシがいるのだが、今日はポセイドンしかいない。

 ポセイドンは、とても疲れているように見えた。


「まずは、辛い報告じゃ……デミウルゴスが、神官ロロファルドに殺された」

「えっ」

「そして、カリオストロ。神官ピアソラに殺害され、守っていた『風の宝珠』も奪われた」

「……え」

「そして、最後の『地の宝珠』……神官リリィ・メイザースとの戦いで上級生たちが命がけで守った。そして、エミリア嬢がここまで運んだ」

「…………エミリア先輩が」

「ああ。右手、右足、右目を失っても守り抜いた。彼女は英雄じゃ」

「…………」


 エルクは歯噛みした。

 神官は『チートスキル』の使い手。まともな人間が勝てる相手ではない。

 ポセイドンは、机の引き出しから黄色く輝く宝珠を取り出した。


「エルクくん。現在、この部屋にはワシとキミしかいない。ワシが今の状況をエルクくんに説明する。それだけのために呼んだということになっている」


 美しい宝珠だった。

 水の宝珠と同じく、ピピーナがこの世界に置いた神器の一つ。間違いなく本物だ。


「ワシの独断で、これをきみに預ける」

「えっ」

「きみしかいない。安置所には偽物を置いておく。どうか、守ってほしい」

「…………」


 エルクは、差し出された地の宝珠を受け取り、アイテムボックスに入れた。

 ポセイドンは頷き、にっこり笑う。


「間違いなく、宝珠を狙ってアドラツィオーネが来る。エルクくん……わしは、きみに賭ける」

「……俺に」

「うむ。ワシが戦えればいいんだが……ここの守りだけで精いっぱい。役立たずなジジイとののしってくれてかまわんよ」

「校長先生……」


 エルクは、決意した。

 拳を握り、強い眼でポセイドンを見る。


「校長先生。俺、決めました」

「……む?」

「俺、アサシンになります。この学園を守る、アサシンに。ガラティーン王立学園所属のアサシン、『死烏スケアクロウ』エルクに。そして、アドラツィオーネに不吉を届けるカラスになります」

「……エルクくん」

「俺も、友達を失いました……だから、もう、こんな気持ちを誰かに味わわせたくない。アドラツィオーネの幹部は残り五人。全員、俺が倒します!!」


 この日、ガラティ-ン王立学園に、漆黒のアサシンが誕生した。

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