女神聖教七天使徒『飛天皇武』タケル・クサナギ②/刀殺し
「な、なんで……なんで、なんで?」
ヤトの妹、ヒノワ。
ヒノワは跪いていた。その眼前には『七星神覇』の切っ先が突き付けられている。
ヤトの背後には、両腕が砕かれ気を失っている姉のユウヒが、ヤトのマスタースキル『阿修羅王』の六本の腕で拘束されているのが見えた。
そして、足元には……二人の砕けた刀が転がっている。
「『刀殺し』……それが、『七星神覇』の能力。この刀に触れた剣は、問答無用で砕け散るの……防げるのは同格の剣のみ。そうね……ソフィア先生の剣なら、防げるかしら」
「う、うぅ……」
「ソフィア先生が言ったの聞こえた? ヤマト国の武士は全員、刀剣スキルと身体強化スキルしか使えない。だから、両腕を切り落とすか、刀を破壊するだけでこんなにもあっさり終わる」
「さ、サクヤお姉ちゃん……あ、あたしを殺すの?」
「ええ」
スパンと、ヒノワの両手……親指と人差し指以外の指が、綺麗に切断された。
指がボトボト落ち、ヒノワは絶叫する。
「刀士としてのあなたを殺すわ。親指と人差し指があれば物をつまむくらいはできるでしょ? 姉として、最後の慈悲よ」
「あァァァァァッ!? あ、アァァァァァ……ゆ、ゆびぃぃぃっ!!」
「もちろん、こっちも」
ヤトが剣を振ると、ユウヒの左腕が手首から、右手の指が親指と人差し指を残して切断された。
「ギャァァァァァァァァァァァっ!?」
「あなたには恨みがあるから、左手はもらう。右の指は慈悲……そういえば、こんなことわざがあったわね。『武士の情け』……ふふ」
落ちた手と指を全て『阿修羅王』が拾い、握りつぶす。
ヤマト国には医療系スキルを持つ人間が存在しない。薬草などで薬を生成し、外傷などは手術で取り除く古いやり方での医療しか存在しない。
切断された四肢をつなぐことはできるだろうが、切断肢の原型がなければまず不可能。さらにヤトは、肉塊となった切断肢を外へ投げ捨てる。すると、たまたま飛んでいたカラスが咥えて飛んで行った。
「う、うぅ……うっ」
「泣いてるの? 不思議ね、あなたみたいな子が泣くなんて。ああ……自分のためにしか泣けないのね」
「ひどい……ひどいよ、お姉ちゃん。う、うぅ」
「カヤを殺したあなたたちがそれを言う?」
殺意を帯びた声だった。
ヒノワはゾワリと背筋が凍る。
ヒノワは間違いなく、ヤマト国で最高の素質を持った刀士だ。スキルを四つ持ち、そのうちの一つはマスタースキルにまで進化した。
姉のサクヤと違い、将来を期待された刀士だった。
臆病で無能な姉、サクヤ。初陣で死んだと聞かされても、何とも思わなかった。
だが……こうしてヤマト国に戻り、目の前にいる。
恐ろしい殺意を、妹に向けて。
「約束しなさい。二度と、私に関わらないと。二度と、私をサクヤと呼ばないと。私の名前は式場夜刀……わかった?」
「う……う、うん」
「そっちのあなたも、いい?」
「ひっ……」
ヤトはガタガタ震えていたユウヒを睨む。
姉であり、容姿はヤトに酷似している。だがヤトはすでに姉とも思っていない。
阿修羅王が掴んだ手に力を込めると、全身がミシミシ鳴る。
「あ、ガァァァァァァァ!? やや、やくそく、約束するゥぅぅぅっ!!」
「そう」
ボトリと阿修羅王がユウヒを落とすと、阿修羅王は静かに消えた。
怯えからか、ヒノワがユウヒに駈け寄る。
「『
「む、無理を言う……タケル様が、許さない」
「問題ないわ」
「え……?」
「見てわからない? エルクが負けるわけがない」
ヤトの視線は、手を失いソフィアの前で跪くビャクヤへ向き、タケルと対峙する黒いカカシのような少年……エルクへと向けられた。
◇◇◇◇◇
エルクは右手をタケルへ向け銃を発射。
通常の人間なら回避不可能の弾丸を、タケルは首をほんの数センチ動かすだけで躱す。スキル『神回避』によるオート回避だ。
通常の人間なら、弾丸が発射された瞬間に命中している弾速だ。
エルクは回避されることを想定として行動していた。
左のブレードを展開し、タケルに接近する。
「シッ!」
「ふん、躱すまでもない!!」
エルクのハイキック、からのブレードによる刺突。
ハイキックを躱し、ブレードは腹で受けるが『絶対無敵』による効果か、ブレードが突き刺さるはずなのに弾かれた。
タケルは刀を構え連続で斬りかかる。
「『残光時雨』!!」
「っ!!」
エルクは念動力で畳を浮かせ、盾のようにする。
念動力で強化した畳は切り裂かれるが、畳はいくらでもある。
タケルが畳を斬る間に、エルクは左手をソフィアはが切り刻んだ武士へ向ける───正確には、武士が持っていた『刀』に向けた。
刀が十本浮き上がり、タケルに向かって飛ぶ。
「ふん!! 『逢魔斬』!!」
刀身ではなく、逆刃にしての素振りは、暴風を生み出す。
飛んできた刀が暴風で巻きあげられ、刀同士がぶつかり刀身が砕け散った。
エルクは走り出し両手のブレードを展開、連続で斬りかかる。
突き、キック、薙ぎ払いの連続攻撃を繰り出すが、全てタケルは躱す。
「ははははははぁ!! 素晴らしいぞエルク!! スキルを使わず、身に付けた技術のみでの攻撃、感服した!! だからこそ、オレも全力で斬る!!」
「やかましい」
回転を加えたハイキックが躱された。
エルクは着地し、『念動舞踊』でバックステップ。距離を取る。
「なるほど。念動力で身体を操作しているのか……その身のこなし、大したものだ。念動力を加えただけで、スキル以上の身体能力を得ている」
「…………」
手首を反らし、ブレードを展開する。
エルクは身体を限界まで低くした。
「斬るのも、突くのも、蹴りも拳も通用しない。念動力で攻撃しても無効化される」
「ははは、理解したようだな。お前は、オレを楽しませることしかできない。勝つなんて無理な話だ」
「そうかな? いくつか検証してみたけど、お前は気付いていない……これで確信した。お前は弱い。次の一手で、俺が勝つ」
「ほう、面白い」
エルクは狩りをする小型の肉食獣のような姿勢で、タケルに向かって飛びかかった。
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