女神聖教七天使徒『飛天皇武』タケル・クサナギ①/死の念動力

 エルクは、ゆっくりした動きでタケルに近づく。

 対するタケルは、どこからか一本の刀を抜く。何の変哲もない普通の刀だ。

 そして、刀を構え狂ったように笑う。


「はっはっはっは!! 嬉しいぞエルク!! こうしてようやく貴様と命のやり取りができる!! オレの意志ではなかったが……以前は、人形に相手をさせて悪かったな。安心しろ、今回のオレは本当のオレだ!!」

「…………」


 エルクは無言で左手のブレードを展開、右手の銃に弾丸を込めた。


「『神回避』、『絶対無敵アンブレイカブル』、『飛天皇武』」

「ん?」

「お前のスキル、三つだったな」


 スキル、『神回避』

 あらゆる攻撃を自動回避するチートスキル。

 これによりタケルには攻撃が当たらない。


 スキル、『絶対無敵アンブレイカブル

 あらゆる攻撃を無効化するチートスキル。

 これによりタケルには攻撃が通じない。


 スキル、『飛天皇武』

 刀系最強の攻撃スキル。

 つまり、ヤマト国最強の武士であり剣士。


「攻撃を避けて、攻撃を無効化……つまんねぇ。逃げスキルじゃん。お前、ほんとに強いのか?」

「…………」

「お前は、強くなんかない」


 エルクは、タケルを否定した。

 まっすぐ指を突きつけ、左目だけで強く睨む。


「お前は弱い。避けるなり無効化するなりしてみろ。俺はその上をいく」

「───……ほざけ。それに、オレのスキルは三つだけじゃないぞ?」

「知るか」

 

 エルクは吐き捨て、銃口をタケルへ向けた。


 ◇◇◇◇◇


「ははははははぁ!!」

「───っ」


 ソフィアとビャクヤは、目にも止まらぬ剣戟を繰り返していた。

 互いの一撃をひたすらに捌く。それを繰り返しているだけなのだが……刀身が触れ合い、擦れ合う音が楽器の奏でるような旋律となる。

 互いの所作も美しい……まるで、魅せるための剣劇。

 ソフィアは黄金の剣エクスカリヴァーを掲げる。


「『太陽剣』」

「『絶氷』」


 エクスカリヴァーは、ダンジョンの秘宝。

 能力を宿す剣。それは、ビャクヤの『絶歌氷刃』も同じ。

 熱を発するエクスカリヴァーに対し、絶歌氷刃は冷気を発する。熱と冷気がぶつかり合い、互いの現象を打ち消した。

 ソフィアは爆発するようなダッシュでビャクヤの間合いへ。

 ビャクヤは───いつの間にか、剣を収めていた。


「居合技───……『絶断』」

「っ!!」


 ソフィアはコールブランドとエクスカリヴァーを交差させ、ビャクヤの居合を防御。

 カヤの数段上の居合。ちなみに、ビャクヤの居合レベルは90だ。

 ビャクヤは本気で驚いていた。


「驚いた……いや、本当に驚いたよ。ボクの居合を受け止めたのは、キミが初めてだ。父上ですら受けられなかったのにねぇ」

「……これほどの居合は初めてです」

「あはは、それはどうも」


 ビャクヤはケラケラ笑っていた。

 

「さて、もう少し遊べそうかな?」


 ビャクヤが消え、ソフィアの背後にいた。


「!?」

「スキル、『加速』……教えてあげるよ。櫛灘家の血は、必ず『居合』と『分身』のスキルを得る。ボクはそこに『加速』と、もう一つ───……」


 次の瞬間───……ソフィアの周囲が凍りついた。

 床も、空気も、四方も凍り付く。


「スキル領域展開。『絶対零度』……ボクを中心に、半径5メートル以内が凍り付く」


 ソフィアは瞬間的に、エクスカリヴァーの『熱』で全身を包み込んだ。

 氷が蒸発し、動けるようになるが……ビャクヤの斬撃が間近に迫っている。

 ソフィアは全力で回避───身体を屈めるが、刀の切っ先が背中に触れ、薄皮が切れて血が出た。

 

「……嘘ぉ」

「ぐっ……」


 そのまま距離を取る。

 ビャクヤは、信じられない物を見るような眼でソフィアは見た。


「全身氷漬けになって、ほんの一瞬で身体を『熱』で覆う判断、それらが終わってからボクの斬撃を避ける動作……? いやいや、人間の反射神経じゃないよ」

「ギリギリでしたけどね……くっ」

「……そういや、聞いたことあるなぁ」


 ビャクヤの目から、ソフィアを侮る色が消えた。


「ガラティン王国の伝説……双剣の騎士」

「…………」

五百年前・・・・、金と銀の聖剣を振い、最強最悪のS級危険組織『魔王』を滅ぼした勇者がいたとかなんとか……その剣、もしかして」

「…………」

「ま、おとぎ話として有名だね。もしかしてキミ、勇者の子孫とか?」

「…………」

「あはは。まぁ、どうでも」


 ぼとり、と……ビャクヤの右手首が落ちた。


「へ?」

「懐かしいですね」

「は? は? はぁぁ?……な、なんだ、これ?」

 

 ビャクヤは、落ちた右手首と自分の手首を交互に見た。血が全く出ていない。切断面を潰すような斬撃で、太い血管が全て潰れていた。

 ソフィアは、銀の聖剣を突きつける。


「このコールブランド、聖剣と呼ばれていますが……正確には、『呪の剣』です」

「え、え……」

「代償を支払うことで、あらゆる『願い』をかなえます。今回、私の血を代償にあなたの右手の切断を願いました。ふふ……少し、くらくらしますね」

「ぐ、あァァァァァッ!? み、右手がぁぁぁぁぁぁっ!!」

「ふふ、ヤマト国の武士の弱点は簡単です。全員、刀剣スキルで戦いますので、手を落とせばそれで勝ち」

「ぐ、あぁぁぁっ……」


 ビャクヤの剣が落ち、蹲る。

 汗をダラダラ流し、ソフィアを睨みつけた。


「お、まえ……くそ、勇者の剣が呪いの剣だと!? 勇者……とんでもない剣を使ってやがったのか!!」

「ふふ、聖剣と言ったことは一度もないんですけどね。魔王も、驚いていました」

「え」

「ふふふ。まぁ、あなたには関係ない話ですよ」


 ソフィアはビャクヤにゆっくり近づき、エクスカリヴァーを振り下ろした。

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