女神聖教にて

「ぐうぅぅ~~~……ッっっ!!」


 エレナは、右腕を失った。

 全て計画通りだった。『水の宝玉』を手に入れ、世界中にS級危険組織が手を組んだと見せつけた。エルクを殺せれば最高だったが、やはりエレナとリリィではできなかった。

 撤退し、エルクの弱点を持ちかえれば終わり。作戦は完璧……だった。

 だが、最後の最後。エルクの銃によってエレナの右腕が吹き飛ばされた。

 転移したのは三人。エレナ、リリィ、アザゼルだ。

 転移した場所は、女神聖教の本部。地下転移場。

 エレナは右腕を押さえ、蹲ってしまった。


「あらら、大丈夫ですか? あー、医療スキル持ってる子、呼んできますね」


 アザゼルは心配する風でもなく、水の宝玉を見つめたまま適当に言う。

 そのままスタスタ行ってしまった。リリィは、心配そうにエレナを見る。


「腕、取れちゃった……」

「やられたわね……最後の最後、油断したわ」


 二の腕がねじ切られた。

 問題なのは、怪我をしたのがエレナということ。


「ぐっ……参ったわね。自分で自分の怪我は治せない、それが私のチートスキルの弱点……」


 すると、暴王の医療系スキルを持つ人間が何人かやってきた。

 全員、優秀なのは間違いない。だが、腕を生やすレベルの能力者はいない。

 ピアソラにスキルを与えられ、レベルを上げられた者もいるが……それでも、腕を生やすほどのスキルは誰も持っていない。

 エレナは、治療を受けながら呟いた。


「エルクくん……この借り、必ず返すから」


 エレナは、歯をギギギと食いしばった。


 ◇◇◇◇◇


 女神聖教、地下最深部。

 ここに、アザゼルとピアソラはいた。

 アザゼルは、手に持った『水の宝玉』をピアソラに渡す。それをピアソラは、地下の四方に設置されている台座の一つに納めた。

 台座に乗せると、水の宝玉は青く輝きだす。


「一個目、設置完了……ふふっ」

「理想世界の第一歩、だね」

「うん。ありがとね、アザゼル。大変だったでしょ?」

「まぁね。雑魚構成員をほとんど失ったし、最後の最後、エレナが腕をやられちゃったよ」

「うで?」

「うん。エルクくんに吹っ飛ばされた。今、治療してる」

「そっかー……腕を生やすほどのスキルは作れないなぁ。ま、死んでるワケじゃないからいいや」


 ピアソラは、それだけで興味を失った。

 そして、台座に納められた『水の宝玉』を見てニコニコする。


「あと三つ……」

「で、次はどこの狙う? 間違いなく、残りを保管してる国は厳戒態勢だよ?」

「三か所同時は無理かなぁ。残った構成員にも仕事あるし、うちの神官クラスじゃないと宝玉の奪取は無理かも」

「だよねぇ。ボク、ヒナギク、バロッコはそこそこ強いけど、残りは全員ダメだね。たぶん、数で押し切られる」

「うん。基本的に、アザゼルたちはうちの神官をサポしてもらうね。あと、次に狙う場所は決まってる。戦わせろ戦わせろってしつこいんだよねぇ」

「……誰?」


 ピアソラは、肩をすくめて言った。


「タケルだよ。というわけで、次の目的地はヤマト国にある『火の宝玉』だね。ふふっ、タケル……久しぶりの帰省で興奮しなきゃいいけど」


 ヤマト国。

 遥か東にある島国。そこにある『火の宝玉』を狙う。

 すると、ラピュセルが入ってきた。


「おお……!! これが水の宝玉……素晴らしい!!」

「あ、ラピュセル。ふふ、綺麗だよねぇ」

「ええ、ええ……素晴らしいです」


 ラピュセルは、うっとりしながら水の宝玉を眺めている。

 そして、思い出したように言った。


「ああ、先ほど入った情報ですが───……ふふ、敵ながら褒めるしかありませんね」

「ん? なになに?」

「四つのS級危険組織連合軍、名称を『女神を崇めし者たちアドラツィオーネ』とするそうです。なかなかセンスのある組織名です」

「ん、いいね! じゃあ今日から、この組織を『女神を崇めし者たちアドラツィオーネ』にしよう!」

「ええ。では、ピピーナ様に祈りましょうか」


 ラピュセルとピピーナは、水の宝玉に向かって祈り始めた。

 

「…………じゃ、ボクは休もうかな」


 アザゼルは、大きな欠伸をして部屋を出ていった。


 ◇◇◇◇◇


「来たか」


 タケルは、右手に持ったダイスを握り潰した。


「あ、何してるんだよ!! ダイス、それしかないんだぞ!!」


 ロロファルドが抗議する。

 二人は、ダイスゲームで盛り上がっていた。

 タケルの部下が、タケルに指令を持ってきた。それを聞いたタケルが歓喜し、ダイスを握りつぶしたのだ。ロロファルドは、砕けたダイスを手に取りいう。


「で、何?」

「次は、オレの番だ……クククッ、エルクめ、見てろ」

「……どこ行くの?」

「ヤマト国だ。そこにある火の宝玉を手に入れる」

「ふーん。あのさ、ヤマト国にエルクくん来るの?」

「…………あ」


 タケルは、たった今思い出したような顔で停止した。

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