真実
「すまんかった……」
校長室に呼び出されたエルクは、ポセイドンから謝罪を受けていた。
仲間の無事を確認したり、残党の始末をしようと思ったのだが、いきなりの呼び出し、そして謝罪である。
呼び出されたのはエルクだけではない。
警備隊トップの三人も呼び出されていた。
まず、警備総隊長のデミウルゴス。
「ポセイドン、どういうことだ?」
「この一連の襲撃……全て、『水の宝玉』を奪うためだったようじゃ」
「……何だと?」
「一度目は武道大会、二度目はダンジョン化、そして三度目は商業科発表会。どれも学園を巻き込んだ大騒動じゃった。一回目と二回目は信者を集めるため、そして三度目はS級危険組織が一つになったことをアピールするための襲撃……どれも明確な目的のように見えたが、全ては学園内に保管してあった秘宝、『水の宝玉』を奪うためだったのじゃ」
「水の宝玉……確か、お前が見つけたダンジョンの秘宝だったな」
「うむ。武器や防具、金銀財宝ではない、スキルでも解明できない未知の宝玉じゃ。どうやら、最初からそれが狙いだったようじゃな」
デミウルゴスはため息を吐いた。
すると、カリオストロが挙手。
「ね、確か宝珠って四つ存在したわよねぇ? 地水火風の四つ……」
「うむ。ここのが奪われたとなると、残り三つもヤバそうじゃのう」
「あの……」
と、ここでエミリアが挙手。
「あの、その宝珠って……どんな物なんですか?」
「効力はシンプルじゃ。水の宝玉は、無限に水を吐き出し続ける」
「……そんなの手に入れて、何の意味が?」
「さぁのぉ……」
と、ここでエルクが挙手。
「あのー……アザゼルとかいう奴が言ってました。水の宝玉は、女神ピピーナがこの世界に置いたって」
「ほう、それは興味深いの。女神聖教が必要としている、か?」
「たぶん……」
「ふぅむ。エルシよ、残る三つの宝玉はどこじゃったっけ?」
「ヤマト国、神聖ローレライ聖国、亜人国の三つです」
「よし、『宅急便』の力を使うかの。三国に手紙を書くか」
「では、ペリカンギルド長に連絡をします」
「……ペリカン?」
と、エルクが首を傾げる。
エミリアがエルクに近づき、そっと耳打ちする。
「ペリカン様は、運輸ギルドのトップよ。荷物運び専門のスキル持ちを集めて、世界中に荷物を送り届ける『運輸ギルド』を作り上げた人なの」
「へぇ~」
マスタースキル、『宅急便』
遠く離れた地に、荷物を運ぶスキル。『運搬』スキルの最上位で、マスタースキルとなると時間、荷物の大きさに制限がない。
運輸ギルド『ペリカン』のギルド長、ペリカンのスキルである。
「エルクくん」
「あ、はい」
「此度も、よく戦ってくれた。女神聖教幹部の手首を落としたそうじゃな」
「まぁ……」
エルクは、左腕に装着された『銃』を見せる。
銃は無事だが、ブレードはドラゴニュートとの戦いで破損していた。手首を反らしても刀身は出てこないし、右手の短弓も展開しない。あの場で撃てるのは銃だけだった。
さらに、ぶっつけ本番。撃った後に気付いたが衝撃がすごい。しかも弾速が凄まじく、念動力で操作するのは至難だった。
だが、威力は折り紙つきだ。ニッケスの父グレアムに会ったらお礼を言おうとエルクは誓った。
「さて、デミウルゴスとカリオストロはこのまま残ってくれ。エミリアくんは三年生たちを率いて学園内の後始末を頼む。エルクくんは寮に戻って待機じゃ」
「え、俺……手伝いますけど」
と、エミリアが肩を叩く。
「いいから、こういうのは上級生の仕事。エルクくんは人一倍働いたんだから、ゆっくり休んで」
「人一倍って……俺、そんなに働きました?」
「……無自覚なの?」
エルク一人で、S級危険組織の構成員を半分以上倒している。
幹部クラスはエミリアたちが倒したが、それでもエルクの働きは誰よりも上だった。
あまり食い下がるのも変なので、エルクは寮へ戻る。
寮には、エルク以外の全員が揃っていた。
真っ先にエマが駆け寄り、エルクの無事に安堵する。
「エルクさん! おかえりなさい」
「ああ、ただいま……みんな、無事みたいだな」
まず、ガンボが舌打ちした。
「チッ……寝てる間に終わっちまったみたいだぜ。オレも戦いたかった」
「わたしも寝てた。エルク、お疲れ様」
ガンボ、ソアラは寮にいた。
ソアラは途中で起きたが、ガンボはずっと寝ていたようだ。
「あ~~~……マジで大変だったぜ」
「同感。アタシも少し戦ったけど、やっぱり丸腰じゃ無理ぃ」
「そうですわね……やはり、非武装というのはいただけませんわ」
ニッケスは首をコキコキ鳴らし、フィーネは背伸びする。メリーも疲れ切っていた。
フィーネの頭の上では、シルフィディがスヤスヤ寝ていた。
「……」
「……」
「お前ら、なんで黙ってるんだ?」
「「……別に」」
カヤ、ヤトはなぜか不機嫌だった。
エルクが視線を向けると、思いきりそっぽ向く。
すると、ソフィアがマーマと一緒にキッチンから現れた。二人は全員分のマグカップをトレイに載せており、マーマが全員に配る。中身はココアだった。
ソフィアは、全員を見ながら言う。
「皆さん、今日はお疲れ様でした。女神聖教、夜祭遊女、プルミエール騎士団、暴王……四つのS級危険組織連合を相手に、よく戦いました」
「戦ってないけどね」
ヤトが不機嫌そうに言い、ココアを飲む。
ソフィアに待機を命じられ、戦うに戦えなかった愚痴だ。だが、ソフィアは頷くだけ。
「先ほど、ポセイドン校長から連絡がありました。四つのS級危険組織連合軍を『
「アドラツィオーネ……」
「それと、恐らくですが……今後、ガラティーン王立学園が狙われることはない、ということです」
水の宝玉を奪ったことで、アドラツィオーネの目的は達成された。
エルクは、大きくため息を吐いた。
「はぁ~……さっさと潰したいな」
全員がギョッとしてエルクを見た。たった今命名されたばかりの、世界最大最強最悪組織を『さっさと潰したい』なんて、あまりにも無謀……だが、エルクはすぐにでもできそうな口ぶりで言った。
ソフィアは、こほんと咳ばらいをして言う。
「とりあえず、明日は休日。明後日から学園が再開されます。それと、エルクくん」
「あ、はい」
「……あなたのお父上、キネーシス公爵が面会したいそうです」
「……は?」
エルクは、猛烈に嫌な予感がした。
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