敵の元へ

 ニッケス、メリー、グレアムの一家と合流したエルクとフィーネ。

 エルクはフードと眼帯マスクを外しニッケスの元へ。


「大丈夫だったか?」

「あ、ああ。おいエルク……これ、何の騒ぎなんだよ」

「女神聖教なのは間違いない。くそ、こいつらマジでムカつく」

「女神聖教だけじゃないね」


 グレアムが、ニッケスとエルクの間に割り込みつつ言う。


「プルミエール騎士団。そして夜祭遊女も確認した。それと暴王……三つのS級危険組織と、新たに認定された四つ目のS級危険組織、女神聖教。この四組織が同時に、学園を襲撃してきた。間違いなくこれは偶然じゃない、何かの意志による襲撃だろうね」

「……何かの、意志」

「ああ。恐らく……考えたくもないが……この四つの組織が手を組んだ。そして、これは宣戦布告」

「お、おい親父、どういう」

「ただの推理さ。四つのS級危険組織が手を組み、世界最大の国であるガラティン王国を狙った。しかも、商業科の発表会を狙ってね」


 まさに、その通りだった。

 女神聖教の狙いはエルクの抹殺だが、三つの組織の狙いは『S級危険組織が手を組んだ』ことをアピールすることが狙いである。

 すると、メリーが挙手。


「あ、あの……エルクさん、あれはなんですか?」

「あ、忘れてた」


 メリーが指さしたのは窓の外。そこに浮かぶ巨大な肉団子だ。

 エルクは右手を向け、念動力を込めると───……肉団子はとんでもない速度で吹っ飛び、数百キロ先の山の頂上に激突した。

 エルクはそれに目を向けず、ニッケスに聞く。


「ニッケス、エマはどこだ?」

「エマちゃん? たぶん、博物館だと思うぜ」

「博物館……」


 博物館には、一年生の代表作が多く展示されている。

 すると、グレアムが護衛と何かを話し、エルクに言う。


「エルクくん。どうやら、敵はまだ多く残っているようだ。というか、新たに投入されたようだ。私の護衛のスキル『遠視』で確認したから間違いない」

「え……お、俺が吹っ飛ばしたの、かなりいましたけど」

「どうやら、この第二陣が本隊のようだね。最初は数で疲弊させ、第二陣で制圧する……投入された数こそ少ないが、手練れが多い」

「……く」


 すると、ニッケスがエルクの肩を叩く。


「何してんだ、さっさと行けよ。エマちゃんが危ないだろうが!!」

「でも、お前たちも……」

「馬鹿。こっちには護衛もいる。それにメリーもいる」

「ニッケス……」

「エルク、あたしも残る。一緒に行っても足手まといっぽいし……」

「あたしも残る! エルク、がんばれー!」


 フィーネとシルフィディも残るようだ。

 すると、教室のドアを蹴破り、一人の青年が入ってきた。


「見っけ……へへ、ガキ数匹に雑魚三匹、始末していいんだよなぁ? アザゼルぅ」


 血濡れの剣を持った男だった。

 すでに何人か斬ったようだ。間違いなく、強者。

 第二陣。暴王の構成員が、エルクたちに迫る。


「キャッキャッキャ!! 革命が始まるぜぇ? 平和ボケした連中に、暴虐なる王からプレゼントだ!! さぁ、あそぼ───……」


 ビシリと、男の身体が動かなくなった。

 エルクの念動力による拘束。そのままエルクの元に飛んでくる。

 エルクは両手のブレードを展開し、男の両肩を突き刺し両足を斬りつけ、空中で高速回転させた後に教室の床に頭から叩きつけた。

 床が陥没し、男の頭が床に突き刺さる。ピクピク痙攣しているが、エルクはもう見ていない。

 男の剣を念動力で引き寄せ、メリーに渡した。


「メリー、これ使え」

「……あ、はい」

「フィーネ、メリー、護衛さん……ここは任せる。俺は博物館に行く!!」


 エルクは眼帯マスク、フードを被り、教室の窓から飛び出した。


 ◇◇◇◇◇


 カリオストロ、エミリア、デミウルゴスの三人は、博物館に集まった。

 デミウルゴスは到着するなり二人に言う。


「生徒、一般人、貴族の避難は」

「七割完了したわ。残り三割はここと商業科校舎。学園側の教師たちと、警備部隊以外の騎士も動き出したわぁ……でも、ちょっとマズいわねぇ」

「ああ。ここまで何人かプルミエール騎士団と戦ったが、練度が違った。恐らく、こちらが本隊……最初の雑魚は我々を疲労させるためだろう」

「お父さん、どうする?」

「……隊長と呼べ。とりあえず、博物館内にいる人たちを守るぞ」


 プルミエール騎士団、夜祭遊女、暴王の正規部隊がゾロゾロ現れ、博物館を包囲する。

 エミリアは舌打ちする。


「マズいわね……どう見ても、あっちの数が多い」


 まだ、警備部隊は散り散りになっている。

 招集はかけたが、集まるのは時間がかかる。

 エミリアたちの人数は、二十名もいない。だが、三組織の数は五十を超えていた。一人一人が手練れで、このままでは全滅の可能性もある。

 そして……一人の男性が前に出た。

 騎士服にマント、立派な剣を装備した、可視化したオーラを纏う男だ。


「騎士団の紋章入りマント……幹部クラスね」


 カリオストロが顔を歪ませる。

 紋章入りマントを付けることが許されるのは、プルミエール騎士団の隊長格だけ。

 七聖騎士。プルミエール騎士団最強、七人の一人『光騎士』オルファンだった。


「降伏し、学園を明け渡せ」

「「「……」」」

「従わぬのなら、容赦しない」

「あ」


 エミリアが思わず呟いた。

 オルファンが怪訝な表情をした瞬間───背中に衝撃、激痛が走った。


「ごわっは!? ぐへっ!?」


 オルファンは気付かなかった。

 突如、上空から現れた黒い暗殺者アサシンが、オルファンの背中にブレードを突き刺し、そのまま押しつぶすように着地したのだ。

 カシャンと、右のブレードが隠れる。暗殺者に相応しい隠し武器だ。

 オルファンに気付かれることなく暗殺する……エルクは知らないが、『空中暗殺エアアサシン』と呼ばれる高等技術だ。

 エルクは囲まれるが、構わず叫んだ。


「エマ、無事か!! 助けに来たぞ!!」

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