まとめ殺し

 学園長ポセイドンは、頭を抱えていた。

 校長室で、盛大にため息を吐きだし……教頭のエルシに言う。


「マジで、呪われとるのかのぅ……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう!! 一般人、貴族の避難を優先!! 学園に入り込んだ不届き者を排除せよ!!」


 スキルの力により、エルシの声は警備部隊全員に届く。

 舌打ちをしながら、エルシはつぶやいた。


「医療班を待機させておいて正解だった。クソ……まさか、S級危険組織が手を組むとは」

「ふーむ。どうしたモンか……な、エルシ。ワシが出ていいかの?」

「駄目だ。ポセイドン……お前のスキルは強すぎる。学園を更地にする気か?」

「むぅ……神器を使っても駄目かの?」

「駄目だ!! ええい、スカーを行かせたのも悪手だった。今の戦力だけで、末端とはいえS級危険組織の構成員を相手にできるのか……?」


 エルシは、校長室で指示を飛ばす。

 事前に、エルシの声を警備部隊全員に聞けるようにしたのも正解だった。常に最悪の状況を頭に入れたうえでの行動は、今後とも必要になることは違いない。

 

「とにかく、今できることを「おいエルシ」……ん」


 ポセイドンが、窓の外を見ていた。

 

「……あれ、なんじゃ?」

「?……何を言って、え」


 エルシも見た。

 二人が見たのは、よくわからない光景。

 今、まさに学園がS級危険組織に襲われているのだが、それを忘れそうになるくらい、妙な光景だ。

 

「「…………」」


 二人がポカンとして見たのは……ガラティーン王立学園上空に浮かぶ、巨大な『何か』だった。


 ◇◇◇◇◇


「「…………」」


 リリィとエレナも、ポセイドンたちと同じモノを見ていた。

 ガラティーン王立学園上空に浮かぶ何か。

 地面から何か小さな物が浮かび、その『何か』に向かって飛んでいく。


「……まさか」

「え、うそ。え……え、エレナ、おかしい」

「……原因、あれしかないわ」


 エレナは気付いた。

 リリィも、ようやく気付いた。

 

「わ、わたしの、人形……?」


 リリィが生み出した『人形』のドラゴンが浮き上がり、巨大な『何か』に巻き込まれた。

 エレナは、ここに来て初めて顔を歪ませた。


「───……なんて奴!!」


 それが誰に向けられたのか───言うまでもない。


 ◇◇◇◇◇

 

「…………あ、あはは」


 フィーネは、笑うしかなかった。

 エルクが何をしているのか……実にシンプル、実にわかりやすかった。


「いたぞ!! うらぎ」

「あそこっ」「ころっ」「みつけっ」


 敵が出てくる。

 出てきた瞬間、恐ろしい勢いで上空へ吹っ飛んだ。

 視界に入った瞬間、エルクは念動力で上空へ打ち上げる。それが何度も、何度も、何度も繰り返されると……上空には、エルクが飛ばした人間たちが集まり、巨大な『塊』となっていた。

 巨大な、生物の団子。

 人間だけじゃない。リリィの生み出した人形魔獣も瞬時に上空へ飛ばし、一か所へまとめている。

 今や、直径数百メートルの肉団子となり、空中に浮かんでいた。


「エマ!! エマ、どこだ!!」

「たぶん校舎内だよ!! 外は───うん、もういない」


 もういない。フィーネが言ったのは『敵』という意味だ。

 というか、恐怖で隠れているのかもしれない。出会った瞬間に上空へ飛ばされるとなると、迂闊に姿を見せるわけにもいかないだろう。

 エルクとフィーネは商業科の校舎へ飛び込んだ。


 ◇◇◇◇◇


「はぁ、はぁ、はぁ……」

「くっ……」


 カヤとヤトは、ボロボロになりながらも『遊女』と戦っていた。

 武器もなく、体術のみ。

 ヤトは『洞察眼』で攻撃を躱し、素手の『武神分身』を囮にして遊女の一人を狙い。カヤは身体強化で素手で殴りかかる。

 カヤの攻撃は通った。だが……遊女の身体が、ゴムのようにグニャグニャしてダメージがほぼない。その一人が全ての攻撃を受け、残りの二人が攻撃をするという連携に、成す術がない。

 武器、刀さえあれば。ヤトはそう思うが、ない物はない。


「…………ヤト様、作戦が」

「……」


 カヤは、覚悟を決めた。

 これから行うことは、間違いなく『恥』と知りながら……それでも、決めた。

 カヤは、ヤトに全力で抱きつく。


「えっ!?」

「御免!! スキル領域展開、『虚空転身』!!」


 カヤのスキル領域が広がる。

 遊女たち三人がカヤに攻撃を仕掛けるが───カヤはすでに消えていた。

 

「な……消えた!?」

「空間系スキル……切り札を持っていたとはね」

「どうする?」

「……まぁいいわ。それより、まずは学園内を鎮圧しましょ」


 遊女三人は教室を出た。

 とりあえず、目に付いた一般人と生徒を片っ端から───。


「エマぁぁぁぁ!! ニッケスぅぅぅぅっ!! おー--いっ!! ん? 敵はあっち行ってろ!!」

「「「えっ」」」


 遊女三人は窓をブチ破り、上空に浮かぶ肉団子の一部となった。

 そして、カヤとヤトは、商業科の校舎外にある藪に飛び込んでいた。


「な、なんとか脱出できました……強く抱きつけば、ヤト様も私の『一部』として転移できるかもと……賭けでしたが、なんとか」

「そ、そう……驚いたわ、本当に」

「申し訳ございません。さ、武器を取りに戻りましょう。何かが起きているのは───」

「……どうしたの? って」


 カヤとヤトは上空を見て、巨大な肉団子に声を失っていた。


 ◇◇◇◇◇


 ニッケスは、父グレアムと妹メリー、グレアムの護衛二人と一緒に、プルミエール騎士団の騎士三人に囲まれていた。

 場所はニッケスの教室。

 机は薙ぎ倒され、生徒の作品が散らばり、踏み潰されている。

 さらに、校舎内から聞こえる叫び声。間違いなく、襲撃されている。


「くっそ……マジでどうなってんだよ!!」

「ふむ。背中に描かれた刺繍からして、S級危険組織プルミエール騎士団だね」

「お父さん、のんびり言ってる場合ですか?」

「こういう性格なものでね。オリバ、バスキー……勝てそうか?」


 オリバ、バスキーとは、グレアムの護衛である。

 武器は持ち込めないので、徒手空拳に秀でたスキルを持つ護衛を連れて来て正解だったと、グレアムは自分の判断に満足する。だが、オリバとバスキーは汗を流しながら首を振る。

 格上。間違いなく強敵。


「くっ……武器さえあれば」

「メリー、お前もなんとかできないのかよ。お前の雷でさ」

「兄さん、無茶言わないでください。私のスキルは武器があることを前提とした技で」


 と───騎士が動きだす。

 プルミエール騎士団の武器は『剣』に統一され、スキルも全て『剣』を媒介に発動させるという妙な決まりがある。オリバ、バスキーは何とか剣を捌き躱すが、少しずつダメージを受けていた。


「あぁぁヤバい……親父、どうする」

「……大丈夫。我々が勝つよ」

「マジでボケてんのかよ!! この状況で」

「ほら、来たぞ」


 すると、教室のドアが開き……全身黒の何者かが入ってきた。

 ニッケス、メリーはすぐにわかった。


「エルク!!」「エルクさん!!」

「ニッケス、メリー!!───……こいつら敵だな」

「「「っ!?」」」


 エルクが右手を向けた瞬間、三人の騎士は窓をブチ破って飛んでいった。

 すると、エルクの背後からひょっこりフィーネが顔を出す。

 グレアムは、ニッケスに言った。


「な? 我々の勝ちだろう?」

「……そういうことにしといてやるよ」


 グレアムの笑みが憎たらしく、ニッケスは悪態をついた。

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