女神聖教七天使徒『聖女』エレナ&『聖典泰星』リリィ・メイザース①/みんなにお任せ

 エルクはオルファンの背中を歩き、エミリアたちの元へ。

 茫然としているエミリア、デミウルゴス、カリオストロに聞いた。


「あの、俺の知り合いが中にいると思うんですけど、確認してもいいですか?」

「え、えっと……」

「たぶん、中に「貴様ァァァァァァッ!!」


 と───傷が癒えたオルファンが、怒り心頭でエルクを睨む。

 腰の剣を抜くと、眩い光に包まれた。


「よくも、よくも我が誇りである騎士団の紋章を足蹴にしてくれたな!!」

「誇り?」

「この『プルミエール騎士団』のマントに刻まれた紋章だ!!」


 オルファンのマントには、エルクの足跡が綺麗に残っていた。

 エルクとしてはどうでもいい。そもそも、敵の誇りなんて興味がない。

 オルファンは、剣を構え叫んだ。


「光よ、我が身を照らし力を与えたまえ!!」


 オルファンの全身が輝き、オーラに包まれる。

 純白のオーラに包まれたオルファンの圧が増した。

 すると、デミウルゴスが前に出る。


「相手にとって不足なし。カリオストロ、雑魚はお前と隊員たちに任せる。エミリア、お前は」

「わかってる。あっちでニヤニヤしてる女ね? 雑魚の影に隠れて隙を伺ってるようだけど……甘いわね。こっそりと博物館内に入るつもりだったのかしら?」


 エミリアが剣を向けた先には、煙管を加えた美女がいた。

 夜祭遊女、八人存在する幹部『八方美人』の一人、アヤメだった。

 アヤメは、煙管を加え煙を吐き出し、クスっと笑う。


「バレてもうた……」

「ふん。悪いけど、博物館には入れないからね。みんな、雑魚をよろしくっ!!」


 エミリアが飛び出し、剣に炎を纏わせる。


「『紅蓮剣』!!」

「ッ!!」


 アヤメは炎の剣をバックステップで躱すが、ほんの少しだけ炎に掠り、服の袖が燃え上がった。

 すぐに袖を千切り事なきを得たが、アヤメの余裕は消えていた。


「……女同士も、悪くないねぇ」

「火傷じゃ済まないかもよ?」


 エミリアとアヤメがぶつかり合い、戦いが始まった。

 カリオストロは、デミウルゴスとエミリアを確認し、部下たちに指示を出す。


「全員、博物館を死守!! 持てる力を全て出して戦いなさいっ!!」

「「「「「了解!!」」」」」


 警備隊員たちの心が一つになる。

 騎士団、冒険者、三年生たちが武器を構え、スキルを発動させ、S級危険組織連合軍に立ち向かう。

 エルクはどうすべきか少し悩む。すると、カリオストロがウインクした。


「エルクちゃんは、中をよろしくね!!」

「カリオストロさん……」

「ふふ、一人で頑張っちゃダメよ? 少しは休まないと」

「……はい!!」


 エルクはこの場を警備隊員たちに任せ、博物館の中へ向かって走り出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 博物館内は、静まり返っていた。

 大理石のロビー、受付ホール、休憩所や小さな展示室がある一階。おかしなことに、警備隊員も商業科の生徒も一般観客も誰もいない。

 エルクが博物館内に入ると、ドアが勝手に閉まり鍵が掛かった。

 ドアノブを捻るが全く開かない。


「……上等だ」


 もとより、引くつもりはない。

 博物館は十階建て。フロア内のどこかに、エマはいるはず。

 エルクは首をコキコキ鳴らし、一階から十階までブチ抜こうと念動力を込める───……が。


『ふふ、建物の破壊はおススメしないよ? どこに誰がいるかわからないしねぇ』


 どこか楽しむように、エレナの声が一階に響いた。

 エルクは手を下ろす。


『そうそう。キミの大事な子を守りたいなら、私の言うことを聞いた方がいいよ?』

「エレナ先輩……」

『あら、まだ先輩って呼んでくれるんだ。嬉しいな』

「先輩、エマを傷付けたらどうなるか……わかりますよね」

『どうなるのかな? ふふ、殺しちゃう?』

「殺しませんよ。どこに逃げようと必ず捕まえて、死にたくても死ねないくらい凄惨な拷問にかけます。ピピーナから教えてもらったんですよ……『脅す相手を選ばないバカは、死ぬことを恐れていない。死を恐れるようになるまで絶対に殺すな』ってね」

『…………』


 ほんの少しだけ、エレナの声が途切れた。

 だが、すぐにいつもと同じ声色になる。


『エマちゃん、学園の生徒、一般観客の皆さんは、最上階にいるよ。博物館は全部で十階層、階層ごとにリリィ渾身の『人形』があるから、それらを全部倒して登っておいで。言っておくけど、どれもかなり強いよ? 一体一体がバルタザールよりも格上だと思った方がいい』

「…………」

『最後、十階層まで来たら人質は解放する。ふふ、登っておいで……ああ、その前に』

『エルクさん!! 大丈夫です、みんな無事です!! だから───』

『はいおしまい。じゃあ、頑張ってねぇ~』


 エマの声が、少しだけ聞こえた。

 間違いなく、エマはここにいる。

 女神聖教……エレナと、リリィに捕まっている。


「野郎……」


 エルクは拳を強く握る。

 エルクなら、博物館を破壊してエレナとリリィを瓦礫で押しつぶすのも容易い。だが、それをやるとエレナたちはエマを殺すだろう。

 今は、従うしかない。

 エルクは、二階層へ向かう階段へ駆け出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 二階層に到着。

 二階層は大ホール。広い廊下にいくつもドアがあり、ドアの先は訓練場と同じくらい広いホールになっていた。訓練場と違うのは、新入生たちの作品が飾ってあるガラスケースが無数に並んでいることだ。

 ドアが一つだけ開いており、エルクは滑り込むように中へ。

 そこにいたのは───……白銀の鎧をまとい、大剣を持つ『首無し騎士デュラハン』だ。

 ガラスケースの間を、ゆっくりと歩いている。迷路のような大ホールに、エルクとデュラハンだけが存在していた。


「…………やってやる」


 エルクは、右手を反らしブレードを展開。念動力を纏わせる。

 

『…………!』

「っ」


 カシャン、というブレードを展開する音にデュラハンが反応した。

 エルクは身体を低くして、ガラスケースに隠れる。

 

(やってやる……ステルスキルだ)


 狙いは胴体、心臓部分。

 ガラスケースに反射するデュラハンの身体。

 エルクは、ケースに隠れながらゆっくりと、確実に背後を狙う。

 音を立てず、ゆっくり、確実に進み───ついに、デュラハンの背後へ。

 デュラハンは、ゆっくり前を向いて歩いている。目があるのかないのかわからないが、背後からゆっくり近づいているエルクには気付いていない。

 そして、エルクは静かに右手を構え───……右のブレードをデュラハンの心臓部分に突き刺した。


『!?!?』

「あれ、気付かなかったか?」

『ガ、ガガガ』


 右手を抜くと、デュラハンは崩れ落ち、デュラハンのぬいぐるみとなった。

 心臓部分に穴が空き、綿が飛び出している。

 

「よし、次は三階だ!!」


 エルクは、三階層の階段に向かって走り出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る