はずれ

「チッ……してやられたわい」


 スカーは、『プルミエール騎士団』の本部へ踏み込み大暴れした。

 団員を殴り蹴り肉塊へ変え、騎士団の長であるS級賞金首を殴り殺そう意気揚々でアジトの奥へ踏み込んだのだが───……そこには、誰もいなかった。

 いたのは、下っ端中の下っ端だけ。

 本隊、幹部級の団員は全員消えていた。

 よく見ると、アジトは丁寧に片付いている。

 スカーは、片手で握っていた団員を持ち上げ聞く。


「おい、ボスはどこいった?」

「し、知らな……お、オレたちだって、こんな、もぬけの殻だなんて」

「ふーむ」


 そのまま頭を握り潰した。

 死体を投げ捨て、肉片がついたままの手で顎を撫でる。


「偽情報に踊らされたのかのぉ……本部をよそへ移したのか、別の目的があるのか、どっちにしろ、面倒なことになったようじゃ」


 はぁ~……と、ため息を吐く。

 すると、遅れてスカーの部下たちが駆け付けた。

 部下が何かを言う前にスカーは言う。


「後片付けじゃ。そのあと、念のためここの調査に入るぞ。プルミエール騎士団め……ワシに無駄な仕事をさせやがって」


 部下たちが死体の片付けを始めた。

 スカーはポケットから酒瓶を取り出し、中身を一気に飲み干した。


 ◇◇◇◇◇


 商業科では、『発表会』に向けての準備が進んでいた。

 冒険者を目指すスキル学科には関係ないイベントだ。きっと、武道大会やチーム戦が近い時の商業科はこんな気持ちだったのだろうとエルクは思う。

 現在、シャカリキの授業中だ。『砂漠型ダンジョンの特性と攻略手順』について熱心に話している。エルクは真面目に聞きながらノートを取った。

 そして、授業終了のベルが鳴る。


「では今日はここまで。今日のところはテストに出ますので、よーく復習しておくように。午後は体育ですので……ああ、今日は戦闘服に着替えての『アスレチック実習』ですね。ふふ、ジャコブ先生のアスレチックは楽しいですよぉ~?」


 相変わらず、余計なことを長々と話す先生だった。

 さて、お昼の時間。

 隣のヤトを見ると、エルクに視線も向けない。

 

「ヤト、お昼の時間だけど……何を食べる?」

「おだんご」

「ええ。じゃあ、ショッピングモールへ」


 二人は仲良く行ってしまった。

 エルクに身バレしてからというもの、あまり話しかけてこない。

 寮では普通に接するのだが……すると、エルクのカバンからシルフィディが出てきた。


「エルク、あたしフィーネと約束してるからまたねっ!」

「おう」

「フィーネーっ!」


 シルフィディはフィーネの元へ。

 フィーネの胸にダイブし、そのままフィーネと一緒にクラスメイトと出ていった。シルフィディも随分とクラスに馴染んでいた。

 エルクも、ガンボを誘ってお昼を……と思っていたが。


「エルク、ちょっといいか?」

「ん?」


 エルウッドが、エルクの肩をポンと叩いた。

 なんとなく、面倒くさそうな予感。だがエルクは頷いた。


「いいけど、メシ食いながらにしようぜ」

「あはは。もちろん……いろいろ話したいことがあるんだ」

「お、おう……」


 ガンボは誘わず、エルウッドと二人でショッピングモールへ向かった。


 ◇◇◇◇◇


 意外にも、エルウッドはショッピングモール裏通りにある小さな喫茶店に入った。

 エルクとエマが入った喫茶店と似たような雰囲気だが、こちらの店は初老のぽっちゃりした男性が経営している。

 本日のおススメランチは、トマトパスタ。

 エルウッドのおごりなので、二人分を頼んだ。

 

「ここ、気に入ってるんだ」

「へぇ……確かに、いい雰囲気だな」


 注文したトマトパスタも絶品だった。

 こんな店が裏通りにはいくつもある───……そう思うと、エルクの楽しみが増えた。エマではない、エルウッドでもない、自分で見つけたお気に入りの店があってもいいと。

 食後のカフェオレを飲みながら、エルウッドは切り出した。


「ロシュオに会ったよ……」

「え?」

「学園ダンジョンで、ロシュオに会った」

「……」


 え、それが用事?───と、エルクは思った。

 もはや、エルクにとってロシュオは何の障害でもない。キネーシス公爵家にはロシュオの裏切りを報告してあるし、学園にも「ロシュオとサリッサは自分の意志で女神聖教に付いた」と報告してある。仮に捕らえられたとしても、待っているのはテロリストとしての罰。

 投獄され強制労働の刑か、最悪の場合処刑……息子と娘が処刑されるとなると、キネーシス公爵家はもう終わりだ。

 エルクはカフェオレを飲む。


「ロシュオとサリッサは、自分の意志で女神聖教に付いた」

「ああ、間違いない。オレを勧誘した……当然、断ったけど」

「…………」

「ただ、おかしい。ロシュオのレベルが以前とは違った。この短期間に、どれだけレベルが上がったのかわからない。おそらく……いや、あり得ないけど……敵に、レベルを上げるスキルを持つ人間がいる……いや、そんなスキルはないと思うんだけど……」


 エルウッドは困惑していた。

 カフェオレを飲み干し、エルクは言う。


「大丈夫だ。どんなにレベルを上げようとも、ロシュオは俺の敵じゃない」

「……殺すのかい?」

「必要ならな。でも、できれば捕まえたい」


 犯罪者をキネーシス公爵家に突き出して、裁きを受けさせた方が効きそうだし……とは言わなかった。

 エルウッドはどう解釈したのか、エルクを真剣に見る。


「ロシュオは、オレが助けたい。サリッサも……」

「…………」

「あいつらの道を、正してやりたい」


 エルクは察した。

 エルウッド───こいつとは、分かり合えないと。

 エルクは席を立つ。


「ごちそうさま。ロシュオとサリッサの件は好きにしろよ」

「ああ……ところで、キネーシス公爵家は?」

「犯罪者に堕ちたって手紙は書いた。それっきり連絡はない」

「そうか。でも確か、商業科の発表会の参加貴族に、キネーシス公爵家の名前があったはず」

「……へぇ」


 エルクは、おぼろげにしか思い出せない父の顔をなんとか思い出そうとした。

 

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