女神聖教にて

 女神聖教の神官、『聖典泰星せいてんたいせい』のリリィ・メイザースは、女神聖教本部の自室で、『人形作り』に没頭していた。

 リリィ・メイザース。

 外見年齢は14歳ほどで、長い黒髪は腰まで伸びている。可愛らしい顔立ちをしているが、今は人形造りに精を出しているせいか、真面目だった。

 人形作りは、リリィのマスタースキル『傀儡師パペティアー』による力で行っている。

 材料さえあれば、どんな人形でも作ることができる。


「この子は……ドラゴン」


 手のひらサイズのドラゴン人形を作る。

 材料は布、綿。手縫いの可愛らしいドラゴン人形を見て、ようやく顔をほころばせる。

 テーブルには、編みぐるみや木彫り、布で作った人形が大量にあった。

 数は千を超えている。全く飽きることなく、リリィは人形を作っていた。


「魔法、使わないの?」

「……エレナ、勝手に入らないで」

「いいじゃない。で、魔法は使わないの? わざわざ手縫いとか……」

「魔法だと簡単にできちゃうからつまんないの」


 いつの間にか部屋に入ってきたエレナが、リリィの両肩に手を置く。


「この世全ての魔法を操り、自ら創造することすらできるチートスキル、『聖典泰星せいてんたいせい』……人形なんて、いくらでも作れるでしょ?」

「だから、魔法じゃつまんないの」


 リリィはムスッとしてエレナの手を払いのける。

 

「ピアソラからいくつかスキルもらったんでしょ? それ使えば」

「だーかーら! スキルじゃつまんないの!」

「あーはいはい。ごめんね~」

「なでるな!」


 エレナはクスクス笑い、リリィの頭を撫でる。

 

「エレナ。わたしに構うのもいいけど……エレナ、二回も失敗してるから頑張った方がいいよ」

「あら生意気」

「次、どうするの?」

「そうねぇ……それ、使わせてくれない?」

「?」


 エレナは、リリィの作った人形を指さして微笑んだ。


 ◇◇◇◇◇


 女神聖教目神官長ピアソラは、子供のような笑みを浮かべていた。

 女神聖教の所有する大聖堂。女神ピピーナの聖像が安置されている部屋に、七人の男女が跪いている。

 その中に、ロシュオとサリッサもいた。


「はいは~い! では、使徒を率いる選ばれた『七聖使徒』のみなさん。あなたたちに、新しいスキルと、今持っているスキルのレベルを上げたいと思いま~す!」


 ピアソラは、手をポンと合わせニコニコ笑う。

 ロシュオが立ち上がり、ピアソラの前に立ち、再び跪く。

 ピアソラは、ロシュオの頭に手をかざす。


「どんなスキルを望む?」

「……強い身体、力を望みます」

「は~い」


 ピアソラの手に、虹色の光が集まる。

 そして、虹色の光はウィンドウになり、不思議な文字が高速で輝きだした。

 チートスキル、『神の如くゴッドマシン

 スキルを作り、与えるスキル。

 女神ピピーナの代理人としか思えない、不思議な力。

 光がロシュオを包み、消えて行く───……そして、ロシュオに新たなスキルが宿った。


「次は、スキルレベルを上げるね。キミのスキルは『剣聖』で、レベルは47……じゃあ、とりあえず70まで上げよっか」

「───……!!」


 ドクン、と……ロシュオは異変を感じた。

 スキルレベルが上がった感覚。


「はい、おしまい。じゃあ次の子~♪」


 チートスキル、『悪魔の如くハデス

 スキルのレベルを自在に操る。上げるも下げるもピアソラ次第。

 スキルを作り、レベルを上げる。

 この二つの力で、ピアソラは神官たちのレベルを最大まで引き上げ、新しいスキルも与えた。

 天使のような笑みを浮かべ、悪魔のような力を振う。


「じゃあ───……きみは、どんなスキルが欲しいのかな?」


 ◇◇◇◇◇


 ロロファルドは、手に持っていたカードを二枚投げる。


「二枚チェンジ」


 山札からカードを二枚取り、手札に加え……ムスっとする。どうやら、目当てのカードではなかったようだ。

 次に、ラピュセルが五枚全てをテーブルへ。


「五枚、交換します……」

「あはは、ブタなの?」


 ラピュセルはロロファルドを無視、カードを全て交換する。

 次に、タケルがカードを一枚投げた。


「一枚だ」


 山札からカードを一枚引き手札に。そして、酒瓶を取り直接ぐびぐび飲む。

 三人は、同時にカードをテーブルへ並べた。


「ツーペア」

「ロイヤルストレートフラッシュ」

「スリーカード」


 ロロファルドとタケルは唖然とした。


「ちょ、ラピュセル噓でしょ!? 五枚交換でロイヤル!?」

「これも女神様のお導き……」

「イカサマ女め。どんな手を使いやがった」


 三人は、カードで遊んでいた。

 何かを賭けているわけではない。純粋に、ただのカード遊びだった。

 ロロファルドは椅子にもたれかかり、タケルに言う。


「は~……ね、タケル。これからの予定、なんか聴いてる?」

「ピアソラは『補充期間』と言っていた。世界各国から若い男女を連れてきているぞ」

「だよねぇ。ガラティン王国ではけっこうやられたけど、他の国ではけっこう信者連れてきてるもんね。あーあ……エルクさんが邪魔しなければなぁ」


 カードをまとめたラピュセルは言う。


「現在、信者は五千名を超えました。それに……女神聖教の下に付きたいという組織が三つ」

「え、なにそれ初耳なんだけど」

「……オレも知らん」


 ラピュセルは、カードをめくる。

 一枚目は、ダイヤのキング。


「『プルミエール騎士団』」


 二枚目は、ハートのクイーン。


「『夜祭遊女よまつりゆうじょ』」


 三枚目は、スペードのエース。


「そして、『暴王アザゼル』」


 プルミエール騎士団。夜祭遊女よまつりゆうじょ暴王アザゼル

 世界に四つしかない、S級危険指定組織。

 その全てが、女神聖教の下に付いた。

 ロロファルドは、特に驚かず言う。


「S級危険組織ねぇ……でもさ、そこにいる連中とか、トップのやつはチートスキル持ってるわけじゃないんでしょ?」

「ええ。ですが、個々の戦闘能力は我らが使徒や聖使徒を遥かに越えます。組織の幹部や頭は、バルタザールよりも強い」

「ほう……」

「タケル、挑んじゃ駄目だからね」

「フン。それより、我らが神官長は、どうやって手懐けたんだ?」

「そんなの決まってんじゃん。洗脳でしょ」


 ピアソラのスキル『洗脳』は、他者を操ったり記憶を改ざんできる。

 それに……ピアソラのチートスキルを使えば、どんなことだってできる。


「じゃあさ、ボクたちの目的……女神様の召喚も、また一歩近づいたってわけだ」

「ええ。ですが……どんなに信者を集めても、下部組織を味方に付けても……最大の不安要素は残ったままです」

「…………オレの出番、か」


 タケルが立ち上がると、ロロファルドが止めた。


「まった待った。次はエレナとリリィの番だよ」

「む……」

「ま、あんまり期待できないけど、お手並み拝見しようじゃないか」


 女神聖教の目的はいくつかある。

 現在、優先すべきは二つ。

 一つは、信者集め。

 もう一つは……裏切り者エルクの抹殺。

 この二つが同時に進んでいた。

 ロロファルドは、ラピュセルからカードを受け取ってシャッフル。適当に一枚抜いてテーブルに置いた。


「エルクさん、またあなたの周りで、楽しい事件が起きちゃうかもね……」


 ロロファルドが引いたのは、黒いカラスのようなイラストが描かれたジョーカーだった。

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