癒しのエマ
エルクはスカーと一緒にショッピングモールの焼肉屋へ。
ポセイドンも同行しようとしたが、エルシに首根っこ掴まれ引きずられて行った。デミウルゴス、カリオストロ、エミリアも、今後の警備予定を話す会議を行うようだ。
エルクは、二十人前はありそうな肉の皿から、適当に肉を取って網に載せる。
スカーは、どう見ても生焼けの肉をガツガツ食べていた。
「いい汗流した後は肉がウマイなぁ! おいエルク、もっと食え食え」
「は、はい。あの……肉、ちゃんと焼いてます?」
「はっはっはっはっは!!」
スカーは生肉をガツガツ食べている。
エルクだけが肉を焼いて食べていた。
スカーは、十五杯目の生エールを飲み干し、お代わりを頼む。
「にしても、エルク。おめーのスキルはなんだ? 動けなくするスキルと、身体強化か?」
「いえ、念動力です」
「念動力ぅぅ? おいおい、冗談……じゃ、ねぇみたいだな。そうか、念動力かぁ」
「信じてくれるんですか?」
「そりゃおめーが嘘つく人間じゃねぇってわかるからな。あ、ねーちゃん肉追加!!」
エルクは、いい感じに焼けた肉を食べる。
ついでに野菜とキノコも注文し、冷たい麦茶を飲む。
「女神聖教か……ワシがブッ潰してもいいんじゃが、ワシもワシでやることが多くてなぁ。今日はたまたま金を取りに戻ってきたんだけどよ、ポセイドンのジジィが『ちょっと手伝っておくれ!』なんていうから学園に来てみりゃ、おめーがいたってわけだ」
エルクは肉と野菜を焼き、少しこげてしまったキノコを食べる。
「スカーさん、どこか行っちゃうんですか?」
「ああ。S級危険組織の『プルミエール騎士団』を潰しに行く。ケッ……何が騎士団だ。やってることはその辺の盗賊団と変わんねぇってのによ」
「S級、って……女神聖教と同じ」
「ああ、四つしかないS級危険組織の一つだ。へへ、明日で三つになるがな」
スカーは生肉をむしゃむしゃ食べながらエールを飲み干す。
そして、空っぽのグラスを掲げてお代わりを注文。
「エルク……お前との戦い、いい刺激になったぜ。帰ってきたらまたやろうぜ」
「はい。機会があれば」
「はっはっはっはっは!! さぁさぁ食え食え!!」
エルクは、スカーとの食事を楽しんだ。
◇◇◇◇◇◇
スカーと別れ、エルクはショッピングモールを出た。
ちょうど四時限目が終わったのか、生徒たちが校舎からゾロゾロと出てくる。
お昼休みを挟み、午後から授業がある。
エルクは、商業科の教室へ向かい、ニッケスとエマの元へ。
運が良かったのか、たまたまエマが教室から出てくる瞬間だった。
「あ、エルクさん」
「よ、エマ。これからお昼か?」
「はい。エルクさんもですか?」
「いや、俺は焼肉食べた……もう少し食えそうだし、学食行くなら付き合うぞ」
「ふふ。じゃあ、一緒に学食……いえ、ショッピングモールに行きましょう」
「ああ。あ、ニッケスは……ま、別にいいか」
たまにはエマと二人も悪くない。
エルクとエマは、ショッピングモールへ向かった。
ちょうどランチの時間帯なので混んでいる。すると、エマがエルクの手を引いた。
「こっちです。こっちに、おススメの喫茶店があるんですよ」
「へー、じゃあ案内頼むよ」
「はい!」
細い路地を通り、裏通りを進むと……可愛らしいこじんまりした建物へ到着した。
小さな看板にはコーヒーカップの模様が描かれている。その下に『カフェ・カップ』と書かれていた。
ドアを開けると、誰もお客がいない。
「いらっしゃい。あらエマちゃん、また来てくれたのね」
「おばさん、こんにちは」
「あらら……今日は彼氏も一緒かな?」
「ちち、違います! かか、彼氏とか」
「あっはっは。さ、座った座った」
窓際の小さな席に座ると、おばさんが水を出してくれた。
エマはサンドイッチのセット、エルクも同じものを頼む。
エルクは、店を見渡して言った。
「こんな裏路地に店があったんだな……」
「わたし、ショッピングモールで迷子になっちゃって……偶然、見つけたんです」
「へぇ~……」
「学園のショッピングモール、敷地が広いから、探せばこういうお店がいっぱいあるみたいですよ」
「なんだか面白いな。自分しか知らない店!って感じで」
「あっはっは。まぁ、あんまり儲けはないんだけどねぇ」
おばさんがサンドイッチセットを二人の前に置く。
さっそく手を伸ばして齧るエルク。シャキシャキしたレタス、甘いトマト、塩気のきいたハム、パンはカリカリに焼いてあり、なんとも美味かった。
「うまい……!!」
「本当に、おいしいです!! おばさんのサンドイッチ、最高です」
「褒めすぎだよ。ったく」
おばさんは、嬉しそうに笑った。
食後のコーヒーをサービスしてくれた。この時点で、まだお客が誰もいない。
おばさんは、カウンター席でコーヒー豆を挽きながら言う。
「この裏通りにある店は、商売っけのない、あたしみたいなのが多く出店しててねぇ。学園の補助金があるから飢えることはないし、趣味でやってるようなもんさ」
「そうなんですか? でも、そういうの……その、いいんですか?」
「ああ。ポセイドン校長が許可してくれたのさ。あの爺さん、裏通りにある小さな喫茶店みたいな店に入るのが、楽しみのひとつみたいでねぇ」
「わかる気がします……!」
エマはウンウン頷く。
確かに雰囲気がいい。表通りの店は華やかさを重視して、客数をさばくために席数を多くして対応している。裏通りの店はこじんまりしているが、対応は温かみが感じられた。
食事を終え、会計して店の外へ。
「俺、ここに通おうかな」
「ふふ、いいですね。実は……まだ、エルクさんしか教えてないんです」
「お、いいな。じゃあ、俺とエマだけの行きつけにするか」
「……はい!」
エマは嬉しそうに微笑んだ。
つい先ほどまでスカーと戦っていたのが嘘のように、エルクは穏やかな気持ちで午後の授業に臨んだ。
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