久しぶり(1日しか経ってないけど)の学園

 エルクたちは、ようやく学園に戻ってきた。

 学園正門前で解散。明日から通常授業……なのだが、学園の守衛にエルクは声を掛けられた。


「Aクラス、エルクだな? 学園長が、お前が戻り次第、学園長室へ来るようにとのことだ」

「……え、なんで?」

「知らん。それと、Aクラス、ソアラ。お前も一緒にとのことだ」

「はーい」


 何故かソアラも一緒に学園長室へ。

 エルクは、ガンボたちに言う。


「じゃ、そういうことだから……」

「お前も苦労してるな。じゃあな」


 帰り道、エルクはある程度の話をガンボたちにしていた。

 女神聖教に襲われたことだけを話し、シルフィディのことは伏せておいた。

 いつかは話さねばならない。だが……まだ言えない。

 そして学園に到着したと思ったら、学園長からの呼び出しだ。

 エルクは、ソアラと一緒に学園長室へ。

 ドアをノックすると、教頭のエルシがドアを開けた。

 部屋に入ると、ボードゲームの駒をいじっているポセイドンがニッコリ笑う。


「大変だったようじゃの」

「え、ええ。まぁ」

「女神聖教……やれやれ、冒険者たちの被害が多かったわい。幸い、生徒たちに被害が出なかったようじゃがのぉ」

「…………」

「エルクくん。さっそくだが……何があったか、話してくれるかね?」

「…………」


 エルシを見ると、厳しい目でエルクを見る。

 生徒が狙われた以上、やはり見過ごせないのだろう。ただでさえ、学園は一度、大規模な誘拐事件を起こされている。

 ソアラを見ると、エルクをじっと見ていた。判断は任せるということだろう。

 エルクは、小さくため息を吐いた。


「女神聖教の神官を一人……倒しました」

「パパは倒されたんじゃない、負けたの! エルクのせいじゃないし!」


 エルクが言うと……シルフィディが、ソアラの胸から飛び出した。


「「「「…………」」」」

「エルク、パパはエルクのこと恨んでないからね! 友達って言ってくれて、すっごく喜んでた。きっと……今頃、女神様のところで、笑ってるよ!」

「あ、ああ……そ、そうだな」

「えへへ」

「……エルクくん、説明してくれるかの?」

「は、はい……」


 シルフィディは、ソアラの頭の上で寝そべっていた。


 ◇◇◇◇◇


 エルクは全て話した。

 ダンジョン実習でボブとはぐれ、ソアラと一緒に最深部へ行ってしまったこと。そこでバルタザールと戦闘し勝利したこと。もう一人の神官タケルが現れ、バルタザールを処刑したこと。エルクが怒りタケルの人形を破壊したこと。そして、バルタザールの最後の力で、シルフィディが生まれたこと。

 全てを聞き、ポセイドンは「ほほう」と頷く。


「きみとソアラくんが迷子になって、その後戻ってきたと報告があってのぉ。ダンジョンで何人も冒険者が死んだとも報告が入った。それで、何か起きているとは思っておったが……」

「バルタザールは、話せばわかるやつでした。それと……洗脳された生徒たちも、女神聖教の印が入ったローブを着てました」

「わたし、二人倒した……本気で、わたしを殺そうとしてた」


 ソアラは俯く。

 エルシは顎を撫でながら言う。


「強力な洗脳は、自身が洗脳されているということすら自覚できないというが……」

「バルタザールは、『ピアソラ』とかいう奴が洗脳したって言ってました」

「ふむ。二百名以上を同時に、強力な洗脳をかけるとは只者ではないな」


 ポセイドンは顎鬚を梳きながら、ボードゲームの駒をいじる。


「とりあえず、ご苦労じゃったの」

「あの、シルフィディですけど……どうしますか?」

「あたしはエルクとソアラが一緒じゃなきゃイヤ!」

「ふむ、危険はなさそうじゃな。エルクくん、ソアラくん、しっかり世話をしなさい」

「あ、ありがとうございます」

「ありがとうございます。よかったね、シルフィディ」

「うん!」


 シルフィディは、嬉しそうに部屋を飛び回った。


「さて、疲れているじゃろう。明日から通常授業に戻る。今日はゆっくり休みなさい」

「はい。じゃあ、失礼しました」

「───……ああそうだ。エルクくん」

「はい?」

 

 エルシは、懐から手紙を取り出した。


「……キネーシス公爵家から手紙が来た。きみ宛てだ」

「…………」


 エルクは無言で手紙を受け取り、ポケットにねじ込んだ。


 ◇◇◇◇◇


 寮への帰り道、エルクは言う。


「ソアラ、お前さ、俺たちの寮に入るか?」

「おれたちの寮?」

「ああ。実はさ……」


 エルクは、個人戦の優勝で学生寮を手に入れたことを言う。

 すると、ソアラは嬉しそうに言った。


「入る! わたしも、そっちに行きたい!」

「いいぞ。部屋は余ってるから、いつでも来てくれ」

「うん! よーし、荷物まとめよっと。エルク、またね」

「エルク、またねーっ!」


 ソアラとシルフィディは行ってしまった。

 エルクは一人になり、深呼吸をして───……呟いた。


「腹減った……」


 ダンジョン実習が終わり、日常へ帰還したと実感するエルクだった。


 ◇◇◇◇◇


 寮に戻ると、エマが出迎えてくれた。


「おかえりなさい、エルクさん」

「……ただいま」


 エマはニッコリ笑う。

 寮内を見ると、ガンボ、フィーネ、ヤト、ニッケス、メリー、ソフィアがいた。いい匂いがリビングを満たしているので、調理場ではマーマが腕を振るっているのだろう。

 寮に入るエルク。


『エルク』

「……」

「エルクさん?」

 

 ふと、そんな声が聞こえたような気がした。

 エルクの隣に、バルタザールがいたかもしれない。

 そんな未来があったのかもしれない。


「……腹、減ったなぁ」

「はい! マーマさんがいっぱいご飯を作ってます。ふふ、ダンジョン実習のお話、聞かせてくださいね!」

「ああ」


 この浮かれようから、ダンジョン実習で何があったか知らないようだ。そもそも、ポセイドンの情報収集力はどうなっているのだろうかと疑問に思う。

 

「あ、戦闘服。後で出してくださいね。修理と洗濯しちゃいますから」

「ああ、頼む」


 エルクは自室で着替え、再びリビングへ。

 ソファに座ると、意外なことにヤトが隣に座った。


「頼みがあるの」

「いきなりだな……なんだよ」

「寮に、入れたい子がいるの」

「ああ、カヤな。部屋は余って───……」


 と、ヤトから殺気を感じた。

 思わず顔を見ると、怖い顔で睨んでいた。

 そしてエルクは「しまった」と思う。


「……どうして、カヤだと思うの?」

「あ、いや、その、なんとなく。俺のチームにいたし」

「……それだけ?」

「あ、ああ」

「……「エルクさん、お茶です」……まぁいいわ」


 エマがお茶のカップを差し出したおかげで、追及は終わった。

 先日のヤトとカヤの会話は、二人しかしらない。エルクがしってたらおかしいのである。

 思わず即答したことで、疑われてしまった。

 すると、マーマが料理の大皿を器用に五枚ほど持ちテーブルへ並べた。


「さぁさぁ、みんなお腹減っただろう。い~っぱい食べておくれ」

「やったぁ! メリー、ご飯だよ!」

「私が待ちきれなかったような言い方はやめてください」

「はっはっは。待ちきれないって顔してたんじゃね?」

「兄さん、黙らないと斬りますよ」

「こわっ」

「……腹減った」

「ガンボ、お肉いっぱいあるよ!」

「見りゃわかる。つーか、お前は落ち着け」

「…………お団子」

「ヤトさん、お団子もいっぱいありますね」

「ええ……ふふっ」


 なんとも、騒がしい夕食となった。

 エルクたちはダンジョン実習での話をしたり、ダンジョンで出会った魔獣との闘いを話し合ったり、見つけた財宝の話をした。

 エルクは、バルタザールのことは話さなかった。

 もしかしたら、仲間になっていたかもしれない。そんな話をしても、むなしいだけ。


「明日から普通授業かぁ……」


 フィーネがぐったりすると、ソフィアが笑う。


「そうですね。スキル学科組は、しばらく普通授業です。次は、商業科の皆さんの番ですよ」

「その通り!! オレとエマちゃんが輝く舞台が近いぜ!!」


 ニッケスが興奮する。

 エルクは、オレンジジュースを飲みながらエマに聞いた。


「輝く舞台って?」

「えっと、商業科の新入生イベントです。『発表会』って呼ばれています」

「発表会?」

「はい。『何か一つでも、自分のスキルと能力で新しきを作る』っていう趣旨で、自分で作ったものを発表するんです」

「へぇ~……」


 この『発表会』が女神聖教に狙われているなんて、エルクはまだ気付かなかった。

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