次なる火種
エルクがバルタザールとの戦闘を終え、タケルの人形が壊された直後。
人形を作ったリリィ・メイザースは、タケルの人形が壊された気配を感じた。
「あ、壊れた」
たまたま会議中だったので、神官が全員集まっていた。
正確には全員ではない。バルタザールを除いた六人の神官だ。
リリィの一言で、タケルは言う。
「オレの人形か」
「うん。タケルの半分以下の力に弱体化したスキルを持ってたけど、それでも遺跡内にいる冒険者を皆殺しにできるくらいは強かったよ。でも、エルクに瞬殺されちゃった」
「瞬殺か……やはり、オレが直接出向くべきだった」
と、ここでピアソラが「あはは」と笑う。
「ダメダメ。タケルくんが死んじゃったらマズいからねぇ」
「オレは死なん」
「死ぬって。タケルくんが負けたってことは、バルタザールも死んじゃったんでしょ?」
「待って……はい、タケル。これを」
リリィが、右手に小さな白い球を持っていた。
それをタケルに差し出し、タケルは飲み込む。
「……継承完了。ふむ、バルタザールは始末できたようだ。ふん、あの醜悪な怪物め……エルクに懐柔されかかっていたぞ。やはり、始末して正解だった」
人形の経験、記憶を封じ込めた玉を飲み込んだことで、エルクに破壊された《傀儡人形》の戦闘データや見聞きしたことをタケルは引き継いでいた。
そして、エルクが最後に吐き捨てた言葉を聞く。
『臆病野郎……俺の前に出る勇気もないクソ集団が』
タケルは、青筋を浮かべて立ちあがる。
「わわ、どうしたの」
「……あの野郎」
タケルはキレかけていた。
黒い刀を握りしめ、目をぎらつかせる。
「次は、オレが直接出る。この『
「待ったまった。なにキレてんのさ。ほら座って」
「…………」
タケルは座った。
そして、困ったように笑う。
「あのさ、やっぱりエルクは真正面からじゃ無理っぽいと思うのよ。どんなチートスキルを持ってるかわかんないし、やるなら……こっそり背後からブスッと」
「ピアソラ。エルクのスキル、『念動力』だよ」
「リリィちゃ~ん……そんなクソスキルなわけないでしょ? 何度も言うけど、エルクはチートスキルを隠してる。リリィちゃんの『鑑定』でも見破れないチートスキルをね」
「…………」
リリィは黙り込む。
すると、ロロファルドが挙手。
「じゃぁさ、次は信者たちを使おうか。上手くいけば、さらに信者を増やせる」
「ロロファルド、何か考えあるの?」
「うん。ぼくとエレナは学園に潜入したから、大体の行事は把握してる。ダンジョン実習が終わったら次は、商業科の新入生たちによる『発表会』があるんだ」
「発表会?」
「うん」
と、ここでエレナが話を引き継ぐ。
「スキル学科がダンジョン実習をやっている間、商業科の新入生は『何か一つでも、自分のスキルと能力で新しきを作る』って課題でいろいろ作るのよ。その発表会が、ダンジョン実習後にあるの」
「で、それがなに?」
「イベントを利用して、派手にやらない? 例えば───……」
エレナは、両手を組んで静かに祈りを捧げる『愛教徒』・ラピュセル・ドレッドノートに視線を向ける。
ラピュセルは、静かに目を開いた。
「私に、何をさせるつもりですか?」
「『試練』」
「───……」
「ガラティーン王立学園の生徒たちに、『試練』を与えるなんてどう? あなたの試練に耐え抜いた人間は、新しい使徒になる可能性がある。確か……『ヒトは試練によって試される。試練を超えた者こそ、真なる使徒』だっけ?」
「…………」
「ね、ラピュセル。動いてくれない? あなたが動けば……ガラティーン王立学園の生徒を、丸ごと信者として迎えられる。女神様のために、あなたの力を貸してちょうだい」
「…………」
ラピュセルは、エレナをチラリと見た。
その表情は一切読めない。そして、静かに頷く。
「いいでしょう」
「ありがとう」
「ただし……試練を受けるのは、エレナ、ロロファルド。あなたたちもです」
「はぁ? なんでボクが」
「あの学園に通っていたあなたたちは、私の試練を受ける義務があります」
「い、意味わかんない……エレナ、なんとか言ってくれよ」
「いいわ。私とロロファルドも受ける……それでいい?」
「……では」
ラピュセルは立ち上がり、会議室を出ていった。
当然、ロロファルドは不満だった。
「エレナ、どういうことだよ」
「ふふ、いいじゃない。人形任せも飽きたでしょ? エルクくんに本体でご挨拶しましょうか」
「……いいね。前の人形がボクの実力だって思われるのも嫌だしね」
「決まり。じゃあピアソラ、次は私とロロファルドとラピュセルで出るわ」
「いいけど……マジで死なないでね」
「ええ、引き際はちゃんと見極めるから」
こうして、ガラティーン王立学園に、新たな危機が迫ることになった。
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