戦いのあとに
五人の鎧武者と、『六天魔王』を構えるヤト。
「全員揃ったのは、あの時以来……あなた、光栄に思いなさい」
「ああ。ありがとな。俺も五割で行く」
「……馬鹿にしてるのかしら」
「そうじゃない。俺、六割までしか力出せないんだ」
「そう」
エルクは何一つ間違えていない。
だが、ヤトの勘に触ったのか、殺気が濃密になった。
エルクは両手を構え、念動力を全身に纏い……ふわりと、浮き上がった。
五割の力では、念動力による浮遊を混ぜて戦う。エルクの戦闘スタイルである。
ヤトは微笑んだ。
「浮遊系スキル。あなた、ダブルか……いや、トリプルね」
「いや、念動力だけど……」
「では───参る!!」
ヤトではなく、五人の鎧武者が迫ってきた。
空中にいるエルクは、右手を『一の剣』を持つ武者に向ける。
「えっ、マジで?」
驚いたことに、鎧武者は空を飛んだ。
分身で生み出した物は自在に操れる。もちろん、空に浮かぶことも可能。
一の剣、『
その剣は斬るのではない。突くことで真価を発揮する。
「───ふっ!」
キィン───と、念動力が発動。
鎧武者『
エルクの背後に、『
丸みを帯びた剣、扇のように広がった剣。どのような攻撃をなのか。
「チッ……」
ヤトは舌打ちする。
なぜなら、『
「援護」
ヤトが呟くと、『
すると、剣が伸び、エルクへ向かって飛んだ。
蛇腹剣。暗器であり、中距離攻撃用の剣。
だが───それすら、あっさり止まる。
まるで、エルクに向かう全ての攻撃が、見えない力で止まってしまうようだ。
「すごいな、これ」
「───ッ!!」
ヤトはエルクの視界から逃れる。
目を合わせれば、存在を視認されれば捕まる。
エルウッドですら、掠り傷一つ付けられず叩きのめされた。
ヤトは、エルウッドを認めていた。
エルウッド、ロシュオ。この二人は、新入生で最強だと。『武神分身』を三体ほど解放すれば勝てるだろうとも踏んでいた。
だが、目の前に浮かぶエルク……武神分身五体を出しても、相手にならない。
エルクは、遊んでいた。
それが、ヤトにとって悔しかった。
「『
ヤトは構え、『
「二刀流、『
六天魔王から放たれる空気の刃。
分厚い鉄の剣である『
二つが混ざりあい、風の衝撃波となりエルクを襲う。
「ふっ」
だが、左手を向けただけで、全ての暴風が霧散した。
エルクは四体の鎧武者を解放し、地面に降り立つ。
「ちょうどいいや。体術訓練の相手してもらうよ」
エルクは両手のブレードを展開。
かつて、数年間ぶっ続けで行ったピピーナとの『体術訓練』を思い出す。
純粋な体術系スキルには敵わない。でも、努力と根性と技術は時にスキルを上回る……かもしれない。ピピーナはそう教え、エルクはがむしゃらに体術を学んだ。
「舐めないでよね……『武神』!!」
五人の鎧武者と、ヤトが一斉に迫ってくる。
エルクは構え、念動力で身体を保護。さらに……
「念動力で自らを操作する技術。俺さ、必殺技とか持ってないし、技名を叫ぶとかもない。でも……ピピーナは、いくつか名付けてくれた。それがこれ……『
「三刀流、『絶交牙』!!」
第一、第二、第三の鎧武者による同時攻撃。
エルクは自らに念動力をかけ、爆発的推進力で前に出た。
それこそ、鎧武者たちが剣を振るよりも速く。
第一の鎧武者の懐に潜り込み、念動力で強化した拳を叩き付ける。
ボゴン!!
「な!?」
鎧武者が砕け散り、『
そして、エルクは自分の身体を高速回転させ、その勢いで回し蹴りを食らわせる。
バギャッ!! と、『
「お、二体同時。ラッキー」
「くっ……『
「おぉぉぉ!! だりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
バギグシャベギボギャッ!! と、エルクの乱打を浴びた鎧武者が砕け散る。
あり得ない速度、あり得ない硬さだった。『洞察眼』で見えても、身体が反応できない速さだ。
残りは、ヤトだけ。
六天魔王を鞘に納め、ヤトは構える。
「来なさい───勝負よ!!」
「…………」
エルクはスタスタ歩きだし、ヤトの間合いに踏み込む。
ヤトは目をカッと開き、刀を抜いた。
「六天魔王、居合奥義───『色即是空』!!」
居合の奥義。
目に見えない速度で三連続同時斬りする技。
ヤトの最大奥義であり、破られたことは未だにない。
「ごめん、ヤト」
「…………噓」
エルクは、ヤトの斬撃を右手で防御していた。
念動力の防御壁。
ヤトの斬撃よりも硬く、絶対の防御だ。
ヤトは全ての力が抜けたのか、六天魔王を落とす。
「負けたわ」
「ああ」
「……ふふ、あなた、本当にすごい。夢中になっちゃいそう」
「勝負したいなら、いつでも受けて立つぞ」
「ありがとう。ああ───この学園に来て、よかった」
ヤトは、右手を上げて言う。
「私の負けよ」
こうして、エルクは決勝に進出した。
◇◇◇◇◇◇
控室に戻ると、エレナがいた。
いや、エレナだけじゃない。
「エルクさん! おめでとうございます!」
「エマ?」
「よ、エルク」
「……フン」
「やっほー!」
「……本当に、強いですね」
「ニッケス、ガンボ、フィーネ、メリー? なんでここに」
「私が呼んだのよ」
と、エレナが言う。
エルクは眼帯マスクを外し、フードを脱ぐ。
「次で決勝戦だしね。お友達と一緒に次の試合を観戦しましょう」
「でも、いいんですか? その、不正とかなんとか……」
「大丈夫よ。エルクくんがそんなことする生徒じゃないってわかってるから。それに、ここだけの話……けっこう、一般生徒が参加生徒を激励しに来るのよ?」
「えー……」
「んなことよりエルクっ!! おま、すげぇじゃねぇか!! 決勝だぜ決勝!!」
「おわっ」
ニッケスがエルクと肩を組む。
「な、何お願いするんだ?」
「は?」
「お願いだよお願い。優勝者にはポセイドン校長が《なんでもお願い聞いてくれる》んだろ?」
「え、なにそれ」
「……知らなかったのか?」
「…………」
エルクはそっぽ向く。
そして、ガンボとフィーネを見た。
「……説明するまでもない話だろ」
「え、知らなかったの? 優勝者にはポセイドン校長の『ご褒美』もらえるんだよ? アタシ、優勝したら在学中スイーツ無料にしてほしかったのに」
メリーを見た。
「あくまで常識に則った『お願い』です。個人戦に出れない生徒や、商業科の生徒から不満が出るので、大勢の前では言いませんがね。優勝後、こっそりお願いを叶えてくれるみたいです」
「マジか……」
「で!! エルク、どんなお願いするんだ?」
「いや、まだ優勝してないし」
「馬鹿おまえ、お前で決まりだろ。ちゃんと考えとけよ?」
「むー……」
「あ、あの……エルクさん」
エマが、エルクの裾を掴む。
恥ずかしいのか、少し顔が赤い。
「その、ここ……少しほつれています。ごめんなさい、私の縫い方が甘かったみたいです」
「あ、ほんとだ。ま、試合終わったら」
「い、今! 今直しちゃいます。その、決勝戦ですし……」
「……うん、じゃあ任せる」
エルクはコートを脱ぎ、エマに渡した。
すると、ニッケスがニヤリと笑う。
「よし! オレら観客席で見ることにするわ。じゃ、行こうぜみんな!!」
「……そういうことか。オレはいいぜ」
「えー? せっかくだしみんなでもがっ」
「兄さん、気が利きますね」
「もがが、ちょ、メリー口押さえないでよー」
ニッケスたちは部屋を出て行った。
そして、エレナが言う。
「私、立場上いなきゃいけないけど……外で待ってるから。ふふ」
「?……はぁ」
「うぅぅ……な、治しちゃいますね!!」
エマは裁縫セットを出し、ちくちくと縫い始めた。
「…………」
「な、なんですか?」
「いや、腕前上がったかなって」
「……上がったかもしれません」
エマは柔らかく微笑んだ。
手は止めず、エルクに言う。
「お友達、いっぱいできました。私と同じ『裁縫』スキルを持つ子もいて、『デザイン』のスキルを持つ子もいて……私、あんなにお友達できたの、はじめてで」
「公爵家のメイドじゃ友達できないもんな」
「はい。だから、エルクさんには感謝してるんです」
「……違うよ」
「え?」
エマは手を止め、エルクを見た。
「感謝してるのは俺だ。エマが、死にかけた俺を救ってくれたから、俺はここにいる……エマ、お前は俺にとって最高の恩人だ」
「そ、そんな。エルクさんこそ、私の恩人で……」
「じゃあ、互いに恩人だな」
「……っぷ、ふふ、そうですね」
二人で笑い合っていると、投影板に映像が出た。
「お、ロロだ」
「お友達ですか?」
「ああ。けっこう強いナイフ使いなんだ」
ロロの相手は、上半身裸でムキムキの男子だった。
そして、試合が始まった。
◇◇◇◇◇◇
「コォォォォォ───ッ!! 『鋼鉄化』!!」
鋼鉄化。
ガンボと同じスキルを持つ少年は、全身が銀色に輝いていた。
肉体を変化させるスキルは、格闘系が多い。
ロロはナイフを構えた。
「クハハハハッ!! 我がスキル『鋼鉄化』にナイフだと!? そんなものは効かん、効かんぞ!!」
「あはは。そうですね」
ロロは軽く笑った。
鋼鉄少年はロロに向かって走り、飛び蹴りを放つ。
だが、ロロは軽く回避した。
「あの、質問いいですか?」
「なんだ!!」
◇◇◇◇◇◇
「あなた、
◇◇◇◇◇◇
鋼鉄少年は意味が分からず、首を傾げる。
そして、ロロを無視して反撃した。
「ちぇいぃぃぃぃぃっ!!」
「ハズレか。つまらないな」
「えっ」
スパン、と……鋼鉄化した腕が、切り落とされた。
鋼鉄少年は血を噴き出しながらゴロゴロ転がる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? う、腕、うでぇぇぇ!? なな、なんで、なんで鋼鉄化した腕、斬られ」
「あの、あなたは女神様を信じますか?」
「め、めがみ……?」
ロロはしゃがみ、鋼鉄少年と目線を合わせた。
「女神様です。あの美しい、女神ピピーナ様……ああ、もう一度お会いしたい。ああ、ああ……っ!! うっ……ふぅ」
「ひ、ひ……」
なんだこいつは。
それが、鋼鉄少年が見たロロへの感想だった。
顔を赤らめ、恍惚の表情を浮かべ、くねくねと身体を揺らす。
「あーああー……ごめんみんな、もうダメだ。ボク、言っちゃうね。メイザース!! 『切り離し』よろしくねぇぇぇっ!!」
と、ロロが叫んだ瞬間───闘技場が、『闇』に包まれた。
闘技場の中心に立つロロは、静かに言う。
『皆さん、初めまして。申し訳ございませんが、武道大会はここで中止とさせていただきます」
静かに話しているのに、ロロの声は会場内に響いた。
「ああ、改めて自己紹介を。ボクの名前はロロ。ではなく……『女神聖教』に所属する七天使徒の一人、『虚無』を司る神官、ロロファルドと申します」
ロロは優雅に一礼。
すると、舞台から教師が何名か飛び出してきた。
教師の一人が前に出て、ロロ……ロロファルドに言う。
「女神聖教……だと」
「ええ。女神復活を目標とする、美しき者たちです」
「ふざけるな!! この空間はなんだ!? お前、一体」
「これは我が同胞の『魔法』ですよ」
「魔法だと……?」
「そうです」
「……話は後だ。まずは、貴様を拘束する!!」
教師の身体が青く光り、ロロへ向かって走り出す……が。
「……何ッ!?」
ロロへ近づいた瞬間、青い光が消えた。
そして、ナイフを抜いたロロが教師の目の前に。
「無駄ですよ」
「ぁ」
スパン───と、教師の首が落ちた。
ロロは、変わらぬ笑みを浮かべたまま、闘技場全体に聞こえるように言った。
「ボクの身には、女神様より頂いた特別なスキル……『チートスキル』が宿っています。あなた方のような雑魚が、何人束になろうが無駄なことです」
女神聖教、七天使徒の一人。『虚無』を司る神官ロロファルド。
「さて、皆さん。これから大事な話をしますので……よく聞いてくださいね?」
ロロファルドは、優しく微笑み……優雅に一礼した。
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