式場 夜刀
『次の試合は、おっと! ヤマト国からの留学生、シキバ・ヤト……えー、ヤマト国では苗字が先に来るようなので、ヤト・シキバさんの登場です!! いや~綺麗な黒髪ですねぇ。ヤマト国の人は皆、黒い髪のようですけど……こうして見ると、実に美しいです!!』
ヤトの番が来た。
エルクは投影板に映るヤトを見る。
ヤマト国の衣装なのか、ヤトの戦闘服は独特だった。
ヤマト国の人間が見ればすぐにわかる。袖なしで肩が剥き出しの着物、腰に巻かれた帯にはヤマト国産の剣である『刀』が二本差してある。下半身はスカートを履いている。
だが、二の腕を覆う『籠手』に、足を覆う『具足』はとても厳つい。長い黒髪はポニーテールに結わえており、二本の簪が差してあった。
ヤトは、毅然とした態度で舞台に上がる。
対するは、エルクと一緒にAブロックを制した少年キシリオ。鎖付き鉄球という豪快な武器を持っている。
『対するキシリオ選手。鎖付き鉄球という凶悪な武器だ!! さぁ、この戦いどうなる!?……それでは、試合開始ッ!!』
今更だが、エルクは気になった。
隣にいるエレナに聞く。
「あの、この実況……誰が喋ってるんです?」
「ふふ。名前は知らないけど、武道大会での実況は推薦で決まるの。まぁ、お調子者がよく選ばれるわね~」
「へぇ~」
ニッケスとか来年選ばれたりして……と、エルクは思った。
そして、試合開始。
キシリオは、鎖付き鉄球をブンブン振り回し───上空へ投げる。
すると、鉄球が生物のように動きだす。
「武器スキルか、操作系スキルかな?……ん~、武器スキルかも。『鉄球技』スキルかもね」
「ヤト……大丈夫かな」
鉄球は、複雑な軌道を描きながらヤトへ襲い掛かる。
「喰らえッ!! 鉄球乱舞!!」
「───」
荒れ狂う鉄球を、ヤトは躱す。
これにはエルクも、エレナも驚いた。
「すごい……最小限の動きで、鉄球を躱してるわね」
「ええ。というか、わかります?……ヤトの眼」
「……眼?」
「ええ。あいつの眼、鉄球に合わせて動いています。まるで動きを見切っているかのように」
「……もしかしたら、あの子のスキルかもね」
「俺もそう思います」
エルクの予想は正しかった。
ヤトはトリプルスキル。つまり、三つのスキルを生まれながらに持つ天才。現在使用しているのは、そのうちの一つ、『洞察眼』である。
能力は、『見切り』で、物の動きがよく見えるスキル。飛び道具、接近戦で使用すれば無類の強さを誇る……が、それはヤトの身体能力があってこそのスキルである。
いくら見えても、躱せなければ意味がない。
「くっ……この!!」
キシリオは焦れ始めたのか、鉄球を手元に引き寄せる。
そして、鎖を鞭のように振り回し始めた。
それに対して、ヤトは───腰の剣に右手を添えた。
「喰らいやがれッ!!」
キシリオは、鎖の鞭をヤトへ向けて振るう。
「───ふっ」
「えっ」
キン───……と、鍔鳴りが聞こえた。
ほんの少し、ヤトの手がブレた。
それだけで、キシリオの鎖がバラバラに弾け飛んだ。
キシリオは、全く見えなかった。
ヤトの持つ二つ目のスキル、『居合』……ヤトの半径五メートル以内に入った対象を、自動で切り刻むオートカウンタースキル。
気付いた時にはもう遅い。
ヤトはすでに、キシリオの懐に入っていた。
「ま、まいっ」
「『閃華・
再び、キン……と、音がした。
ヤトは、キシリオのそばを通り抜けたようにしか見えなかった。
キシリオも、わけがわからずキョロキョロしている。
だが───次の瞬間。
「ぁっ」
キシリオの全身に切れ込みが入り、爆発するように大出血した。
その血は、まるで華のように舞台に広がり……キシリオは倒れた。
血の牡丹が咲き誇る。ヤトは、一瞬だけ……ほんの一瞬だけ、恐ろしいくらい深い笑みを浮かべた。
そして、倒れたキシリオに何の興味も持たず、静まり返る会場を後にした。
『しょ、勝者……ヤト』
勝者のいない舞台に虚しく、勝利のコールが響いた。
◇◇◇◇◇◇
「とんでもないな……」
「ええ。恐ろしいわ……」
エルクとエレナは、互いに顔を見合わせ苦笑い。
ヤトの強さはヤバい。新入生のレベルを遥かに超えていた。
エレナは、「う~ん」と首を傾げる。
「あの子、最後に笑ってたわよね……」
「あ、俺も思いました」
「なんか怖いわ……お近づきにはなりたくないわね」
「うーむ」
舞台の上では、清掃員が血の掃除をしている。
この次はエルウッド。そしてその次はエルクの番だ。
そして驚いた。エルウッドの相手はなんと、フィーネだったのだ。
『第三試合!! エルウッド対フィーネ!! さぁさぁ、注目の戦いです!! トリプルスキルの天才エルウッドか、スピード自慢のフィーネか!! 見逃せない戦いッ!!』
舞台の上に、双剣を装備したエルウッドと、素手のフィーネが上がる。
フィーネは会場に向かって手を振りまくり、エルウッドは軽く手を振って笑っていた。
『見逃せない戦いってのは、まさにその通り……会場のみんな!! この戦い、目を離すなよ!? では……はじめっ!!』
「行くぞ───ッ……」
開始と同時に、フィーネが消えた。
エルウッドは動かない。
だが、フィーネが走り回る音なのか、風がビュンビュン巻き起こる。
エルウッドの髪が揺れ───ひょいっと首を傾ける。そこに、何かが通過した。
エルクたちには見えない。
まさか、フィーネのラリアットをエルウッドが躱したなんて。
「へぇ、速いな」
エルウッドはにっこり笑い、頷く。
双剣は抜かない。一歩も動かない。
フィーネの走り回る音だけが聞こえた。辛うじて、何かが動いているのだけがわかる。
スキル『加速』の力。スピードの脅威。
「速いけど───まだまだレベルが低いね」
エルウッドは右手を手刀の形にする。
そして、半歩ずれて手刀を振り下ろした。
「ガッっ!?」
ダァン!! と、手刀を首筋に喰らったフィーネが、舞台に叩き付けられた。
フィーネはわけがわからないのか、目を驚愕に見開いている。
なんとか立ち上がり、フラフラとエルウッドから距離を取る。
「が、はっ……げほ、ゲほっ……み、見えてんの?」
「ああ。よーく見えてる。ああ、スキルじゃないよ。オレのスキルは───」
「え」
エルウッドが、消えた。
そして、双剣をフィーネの首に、背後から突き付ける。
フィーネにはわかった。
この、独特の……焦げ臭い。
一瞬で、エルウッドはフィーネの背後に回り込んだ。
地面が焼け焦げるような匂い、つまり。
「オレの一つ目のスキルは、『加速』がスキル進化した『神速』だ。キミの動きは速いけど……まだまだ、オレには及ばない」
「…………あー」
「悪いね。キミの負けだ」
「あーあ……わかった、負け。アタシの負け~」
『勝者、エルウッド!!』
格上の存在。
フィーネは敗北を認め、大の字になって転がった。
エルウッドはフィーネに手を差し出し、会場内は拍手に包まれる。
試合を見ていたエレナは言う。
「天才、ね」
「ええ。トリプルスキル……一つしかわからなかった」
「ふふ。エルクくんが次の試合で勝てば、二つめ以降見れるかもよ?」
「ですね。よし……俺の番だ」
エルクは、眼帯マスクを付けてフードを被った。
「じゃ、行きますか」
「気を付けてね~」
エルクは拳をパシッと打ち付け、試合会場へ向かって歩き出した。
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