本選開始
「はぁ……」
エルク、起床。
気分が良くない。理由は、昨夜サリッサに出会ったから。
正直、向こうから接触があるとは思っていなかった。なので、高ぶる気持ちを抑えきれず、ロシュオ以上に乱暴な扱いになってしまった。もちろん後悔など微塵もない。
問題は、二人に手を出したことで、キネーシス公爵が動く可能性があることだ。
デオ王国にいるキネーシス公爵に、ガラティン王国にいるエルクをどうこうすることはできないだろうが……後継者であるロシュオを叩きのめしたのがエルクと知れば、何かしら行動を起こす。
「ま、そん時は潰せばいいや。ふぁ~あ……それより、今日から本選か」
エルクは着替え、学生寮の食堂で朝食を食べに向かう。
すると、驚いたような顔のニッケスと会った。
「おす、ニッケス」
「おす、って……おま、なんでいるんだ?」
「いや、朝飯くらい食うだろ」
「そうじゃなくて。あのなー……本選出場決まった生徒は、普通は寮に戻らねぇぞ? 逆恨みの報復とか、同じ本選出場の選手を慕うダチに襲われないとも限らねぇからな」
「ふーん。お、今日の朝飯はフレンチトーストだって。俺、甘いパン好きなんだよな」
「……もういい」
フレンチトーストをほおばり、エルクは言う。
「ニッケス。本選出るのどんな奴らだ?」
「お前、ガンボ、メリーにフィーネ、エルウッド殿下にロロちゃん、それとヤトさん……しかわからん。悪いな」
「いやいいよ……って、あれ? ロシュオは?」
「ああ、そもそも参加してねぇよ。ちょっと前まで、エルウッド殿下と剣聖ロシュオ、どっちが優勝するか騒がれてたけどな」
「……俺のせいかなぁ」
「わかってんじゃん」
ニッケスはケラケラ笑い、牛乳を飲む。
牛乳を飲み欲し、グラスを置いた。
「下手に気合入れるより、お前は寮で飯食ってのんびり過ごす方がいいのかね」
「ああ。そうかもな」
「ま、頑張れよ。エマちゃんと応援してる」
「おう」
「あ!! でも一番はメリーの応援だから。おいお前……うちの妹に怪我させたら、その首ねじ切ってやるから覚悟しとけよ!?」
「こわっ……本選選手よりお前のが怖いわ!!」
エルクとニッケスは、ケラケラ笑い合った。
◇◇◇◇◇
エルクは、闘技場に向かった。
エマ、ニッケスは観客席で応援するそうだ。
個人戦のトーナメント控室。エルクは勝負服に着替え、ストレッチをする。
すでに、会場内では選手紹介や余興などで盛り上がっているようだ。歓声が地響きとなり、エルクのいる控室をも揺らしている。
すると、控室の壁に掛けてあるガラス板に映像が映し出された。
『それでは、本選トーナメントの組み合わせを発表します!!』
「お、組み合わせか」
『第一試合!! ガンボ対メリー!! チーム戦で優勝したガンボチームリーダーと、予選で雷を纏い戦った令嬢剣士の戦い、楽しみですねぇ~』
「ガンボとメリー……いきなり当たったか」
ガラス板を見ていると、ドアがノックされる。
「やっほ~」
「あ、エレナ先輩」
「ふふ。またエルクくんのお世話係になっちゃいました~」
「そりゃどうも……あはは」
「お? 照れてるね。かわいい」
「せ、先輩!」
エレナのからかいを躱しつつ、選手紹介を見る。
『第四試合!! エルク対マークス!! 謎の力を操るエルク選手と、格闘家マークス選手の戦いです!! エルク選手のスキルは『念動力』とされていますが……自身のスキルを隠すために別なスキルを隠れ蓑にすることは珍しくありません。一体どのようなスキルか、その正体が気になるところです』
「いや、念動力なんだけど……」
どうやら、嘘をついていると思われているようだ。
登録の際、スキル名を表記するのだが、そこに本当のスキル名を書けとは書かれていない。スキルを偽って記入するのは、上級レベルのやることだと賞賛されていた。
『不気味な戦闘服、眼帯、マスク。背中に刺繍された『カラス』の刺繍。両手に装備された隠しブレードの装備から「
「馬鹿にしてるのかな……?」
「ぷぷっ、似合ってるわよ?」
「エレナ先輩まで……」
このまま闘技場に出るのが恥ずかしいエルクだった。
その後も、選手紹介は続いた。
ヤト、フィーネ、エルウッド。そしてロロに、見知らぬ参加者たち。
全ての紹介が終わり、最後に学園長ポセイドンが言う。
『参加者諸君!! 怪我して死んでも大丈夫!! だが……死を恐れることを忘れてはいかん。死ぬ気で戦い、生き残るように!! では、よき戦いを……ここに、第一期武道大会・個人戦優勝決定戦を開幕する!!』
会場が一気に湧いた。
この中で、エルクたちは戦う。
エレナは、エルクの肩を叩いた。
「がんばってね、エルクくん」
「はい。がんばります!!」
個人戦、優勝決定戦が始まった。
◇◇◇◇◇
第一試合、ガンボ対メリー。
舞台の上で、互いに睨み合う。
ほとんど会話をしたことがない二人だが、互いの力量を察知していた。
「兄さんのご友人でしょうけど、手加減しません」
「そんな必要ねぇってわかんだろ?」
「ええ……言ってみただけです」
ガンボはトゲ付きナックルを両手に、メリーは長剣を抜く。
そして、審判の合図────。
『第一試合、始めっ!!』
戦いが始まった。
ガンボは両拳を打ち付ける。
「鋼鉄化!!」
ガンボの全身、そして装備品が鋼色に染まる。
『
それに対し、メリーは。
「『ライジング・タービュランス』」
バチン!! と、紫電の雷が全身を包み込む。
「雷使い……」
「ええ。正確には『雷電』……『雷魔法』がスキル進化したスキルです」
「へへ、やるじゃねぇか」
「そして、もう一つ───剣技、『空刃斬』!!」
「何っ!?」
空気の刃、だけじゃない。
雷の刃が飛んできた。
ガンボは両腕を交差し防御する……が。
「ぐ、おぉぉぉぉっっ!?」
いかに全身が硬くても、雷による痺れは別。
全身感電。ガンボは渋い顔をした。
「け、剣技に、雷を載せたのか……!!」
「正解。ダブルである私の、オリジナル剣技……『雷迅剣』です。剣技レベル78、雷魔法レベル30でスキル進化した『雷電』の力、見せてあげましょう」
「面白れぇ……!!」
ガンボは笑った。
強者との戦い。これほど熱くなれるものはない。
ガンボは、両拳をガンガン打って威嚇しながら、メリーに向かって走り出した。
◇◇◇◇◇
エルクの控室。
エレナは、気の毒な物を見るような眼でメリーを見た。
「あの年で、剣技レベル78、雷魔法レベルを30まで上げるなんて……日常が地獄だったはず。それこそ、冒険者に同行して、ダンジョンでレベル上げをしたとしか思えない強さね」
「メリー……すごいな」
ニッケスとメリー。
有名商会の兄妹としか知らないエルク。
きっと、彼らは彼らで苦労しているのだろう。そう結論付け、投影板を見る。
メリーの雷剣を全身鋼鉄化で防御するガンボ。だが、雷は防御できないのか、苦悶の表情を浮かべているのが分かった。
エルクはボソッと言う。
「メリーのが強い」
「あら、そう思うの?」
「ええ。メリー……全然、本気じゃないですから。その気になれば、ガンボの鋼鉄化した身体を一刀両断できるでしょうね」
「ふ~ん」
エレナは首を傾げた。
ガンボもそれに気付いたのか、何度か打ち合った後に挙手。
メリーの手が止まる。
「降参だ。今のオレじゃあんたは倒せないようだ」
「……そうですか」
「ったく、その気になればすぐ終わらせられただろうに。嫌味な奴だぜ」
『勝者、メリー!!』
会場が歓声に包まれた。
メリーは剣を収め、会場に応えている。
「あなたが強いと思ったのは間違いありません。最初の一撃で気絶させるつもりでしたけど……まさか、耐えられるだなんて思いませんでしたから」
「ケッ……」
メリーはニコリと笑い、ガンボはつまらなそうにそっぽ向いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます