個人戦、開幕

 個人戦、当日。

 エルクは朝食を食べ、戦闘服に着替えて部屋でストレッチをしていた。

 準備を終え、部屋を出る。

 寮の外に出ると、ガンボとフィーネ、メリー、ニッケス、エマがいた。

 昨夜、寮の外で待ち合わせをして会場へ向かう約束をしたのだ。

 制服のままのニッケスが言う。


「確認するぜ。抽選会場は中央広場。そこで、予選会の会場をくじで決める」

「いちいち確認しなくても知ってるっつの」

「そう言うなって。エルクが忘れてるかもしれないしな」

「いや、忘れてないし」


 ガンボがフンと鼻を鳴らし、ニッケスはエルクの肩をポンと叩く。

 すると、騎士風の鎧に身を包んだメリーが言う。


「では、私は先に行きます。ここからはライバルですので」

「おいおいメリー、一緒に行こうぜ?」

「兄さんにはわからないかもしれませんが、ガンボさんとフィーネさんも、同じですよ?」

「え?」


 と、ガンボとフィーネを見ると……表情が違った。

 力強く笑みを浮かべ、ほぼ同時に頷いたのである。


「そういうこった。いちおう、元チームメイトだからな……エルク、フィーネ、個人戦で当たったら容赦しねぇぞ」

「アタシも、チーム戦で活躍できなかったから、マジでやるからね! メリー、当たっても手加減なしだよ!」

「当然です。では……」

「オレも失礼するぜ」

「アタシもっ!」


 三人は行ってしまった。

 残されたのは、エルクとニッケスとエマ。


「あの、エルクさん……大丈夫ですか?」

「ああ。俺はいつも通りだよ」

「お前が普段通りなのが助かるぜ……待ち合わせに同意したのは、顔合わせでもあったんだな」

「みたいだな。よーし、行こうぜ」

「おう。オレとエマちゃんは、抽選終わるまで一緒にいるぜ。お前の応援してやるからよ」

「ありがと。と言いたいけど、お前はメリーの応援しろよ」

「ばーか。メリーは本選で応援するからいいんだよ」

「ふふ、勝利を確信してるんですね」


 そういうこと、とニッケスは笑った。


 ◇◇◇◇◇


 ガラティーン王立学園、中央広場。

 正門を本校舎をつなぐ、学園内で最も広い場所。この中央に、武道大会・個人戦トーナメントの抽選が行われていた。

 参加者は、新入生の『スキル学科』所属生徒。

 制服の生徒も何人かいる。だが、大多数は戦闘服に武器を装備していた。

 抽選会場には大勢並んでいる。

 ここで抽選をして、四つの予選会場のどこかに割り振られる。

 エルクも抽選カウンターへ並び、抽選カードを引いた。


「えーっと、A5です」

「はい。では、訓練場Aへお進みください。そこで予選トーナメントが行われます」

「この数字は?」

「A会場、予選番号5、っていう意味です。では、いってらっしゃい」

「はーい」


 カードを手に、ニッケスたちと合流。

 訓練場A、と書かれた案内看板に従い進み、会場へ。

 会場受付でカードを見せると、少し驚いた。


「あ、エレナ先輩」

「やっほ。エルクくん」


 受付にいたのは、チーム戦でエルクの案内をしてくれたエレナだ。

 美人の先輩に、ニッケスが「おお……」と笑みを浮かべる。


「エルクくんのお友達かな?」

「は、はい! 商業科のニッケスです!」

「えっと……同じく、商業科のエマです。あの、エルクさん……こちらの方は?」

「ああ、エレナ先輩だよ。チーム戦で、俺の案内をしてくれたんだ」

「よろしくね、二人とも」


 エレナは受付を済ませ、エルクにカードを返却。

 そして、軽く咳払いして説明した。


「これから予選会が始まります。ルールは簡単、戦闘中に二回倒れるか、舞台の外へ出たら負けね」

「簡単ですね……」

「ま、数も多いし、今日中に予選終わらせちゃう予定だからね」

「なるほど。でも、わかりやすくていいや」

「ふふ。がんばってね、エルクくん」

「はい! ありがとうございます!」


 エレナに礼を言い、会場内へ。

 ニッケスとエマは、観客席へ向かう。


「エルク、頑張れよ」

「ああ、ありがとよニッケス」

「エルクさん、がんばってください」

「ああ。エマも、ありがとう」

「……その、エレナ先輩とは」

「え?」

「おーっと、そろそろ始まるぜエマちゃん、観客席行こうぜっ!!」

「あっ……むぅ」


 ニッケスに引きずられ、エマは観客席へ。

 エルクは首を傾げたが、すぐに気合を入れた……なぜなら、参加者の視線がエルクに集中したからだ。


「あれ、チーム戦で優勝した」「ロシュオ、あいつにやられたよな」

「強いよな」「なんのスキルだ?」「要注意ね……」


 と、エルクを警戒する視線が多かった。

 ガンボとフィーネも同じなのだろうか。そう思っていると。


「うわっ!?」

「ん? っと」


 エルクにぶつかり、誰かが転んだ。

 

「あいたたた……すす、すみません!! 前見てませんでした!!」

「あ、ああ。大丈夫か?」

「は、はい」


 手を差し伸べると、少年はエルクの手を掴んで立ち上がる。

 白っぽいコートに、腰には数本のナイフが差してある。顔立ちは幼く、ブラウンの髪がサラサラと揺れていた。なんとなく、女っぽい少年だ。


「すみません。緊張しちゃって……」

「大丈夫大丈夫。俺も緊張してるし」

「そ、そうですか? あはは……あ、ボク、ロロっていいます。よろしくお願いします」

「俺はエルク。よろしく」

「エルクさん、ですね。あの……昨日のチーム戦で優勝したエルクさん、ですか?」

「ああ。そうだけど」

「おお!! すごい……こんな強い人がいるブロックなんて……うう、ついてない」

「いやいや、そうでもないって。それに、お前……じゃなくて、ロロも強いんだろ?」

「いえ、ボクなんて。『短剣技』スキルで接近戦しかできないし、レベルも9だし……ははは、一回戦負けしちゃいますね」

「やる前から諦めるなって。大丈夫大丈夫」

「は、はい……」


 なんとなく、放っておけない雰囲気の少年だ。

 エルクは、ロロの肩をポンポン叩く。


「ロロ、一緒に本選行こうぜ」

「うう……が、頑張ります」


 と、ここで会場内に響く声。


『抽選が終わりましたので、これより予選会を始めます。会場内のみなさん、会場内の画面をご覧ください』


 と、会場の壁に掛けられていた大きなガラス板に、映像が出る。

 それは、トーナメント表だ。

 かなりの数がいる。二回ダウン、場外が適応される理由がよくわかる。

 

「あ、ボクの名前!」

「俺のもあった」

「よかった……エルクさんとは正反対の位置」


 ロロは安心していた。

 エルクも、なんとなくロロとは戦いたくなかったので安心する。


『それでは、第一試合を始めます』


 生徒の名前が呼ばれ、舞台に上がる両名。

 一人は剣、もう一人は斧を持っている。


『それでは、第一試合───始めっ!!』


 始まった。

 新入生たちによる、武道大会個人戦が、開幕した。

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