個人戦

「では、チーム戦優勝を祝して……かんぱいっ!!」

「「「「「かんぱーいっ!」」」」」


 チーム戦後の夜。

 ショッピングモールにある一軒の飲食店で、エルクたちは祝勝会を開いていた。

 明日から個人戦が始まるので、夕飯を食べながらのお祝いだ。もちろん、店は貸し切り……ではない。そこまでする必要もないし、しなかった。

 エルク、ガンボ、フィーネ、エマ、ニッケス、メリー。そして意外なことにヤトもいた。

 優勝賞品の「飲食店無料券」を使い、たくさんの料理をテーブルに並べていた。

 ニッケスは、ピザをもぐもぐ食べながら言う。


「にしても、まさか優勝候補に勝っちまうとはなぁ」


 これに反論したのはメリー。


「ですが、純粋な勝利とは言えませんね。最初にサリッサさんが敗北を宣言しなかったら、負けていた可能性もありました」

「む、それはアタシが負けるかもしれないってこと~?」

「あくまで可能性の話です。あむ」

「まーまー、悪いなフィーネ、メリーのやつ、明日の個人戦が気になってピリピリしてんだよ」

「してません!!……その、フィーネさん、ごめんなさい」

「いいって。にしても、明日が個人戦かぁ……」


 フィーネはパンをもぐもぐ食べている。

 エルクは、ガンボに聞いてみた。


「な、個人戦ってトーナメント方式だよな? でも、参加者めちゃくちゃ多いんだろ? 一日で終わるのか?」

「終わるわけねぇだろ。戦闘系スキル持ちはほとんど参加するはずだ。数百人以上はいるだろうぜ」

「マジか……」


 すると、ニッケスが補足する。


「個人戦は、四つの会場で同時進行するらしいぜ。それぞれのブロックで、上位四名が本選トーナメントに参加できるようになってる」

「お前、詳しいな」

「情報は武器だぜ? ま、調べりゃすぐわかるだろうけど」

「つまり、十六人で本選トーナメントか」

「ああ。ま、ここにいるメンバーは全員出れるだろ」


 エルク、ガンボ、フィーネ、メリー、ヤトの五人だ。

 つまり、あと十一人。

 エルウッド、ロシュオは出てくるだろうか? とエルクは思う。

 エルウッドはともかく、ロシュオはわからない。


「あ。あの……エルクさん?」

「ん? どした、エマ」

「その……戦闘服、どうでした? 着心地とか、気になったところとか」

「ああ、すっごくよかった。あの両手ブレードとか、かなり使いやすかったよ」

「よかったぁ。えへへ……ヤトさん、資料、ありがとうございました」

「別に……というか、アサシン衣装作るなんて思わなかったけど」


 ちなみに、エルクの衣装を見てヤトは驚いたそうだ。

 ヤトは、エルクに聞く。


「ね、エルク」

「ん?」

「あなた、あのロシュオとかいう剣士と戦った時……本気だった?」

「いや、別に」

「やっぱりね。あなた、まだまだ底が見えない……ふふ、戦うの楽しみ」

「んー……底、ねぇ」


 エルクは、ヤトを見て曖昧に笑った。


 ◇◇◇◇◇


 祝勝会を終え、エルクは寮に戻った。

 部屋には、修復され洗濯された戦闘服があった。戦闘服は、一度完成させて学園に登録すると、学園側が無償で修理修復、洗濯までしてくれる。

 それを壁にかけ、エルクはシャワーを浴びてベッドへ。


「個人戦、か……」


 エルクは仰向けになり、右手を伸ばす。

 

「どこまで、やっていいのかな……」


 エルクは、ピピーナとの約束を思い出した。


 ◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇

 

 ◇◇◇◇◇


「五、ん~……六割かな」

「え、何が?」


 生と死のはざまの世界。

 修行が間もなく終わる頃、ピピーナはエルクに言う。

 なんのことかわからないエルクは、首を傾げる。


「忠告。いい? 目を覚ましたら、エルクのスキルは超強力になってるから。人間界で出す全力は六割にすること。それ以上はダメよ」

「六割……少なくないか?」

「あのね。今のエルクは、世界最強レベルの念動力使いよ。まともに相手できる人間は限られてくる」

「…………」

「ま、実感湧かないんでしょうね。とにかく、全力は六割ね。それ以上はダメよ!」

「わ、わかった」


 エルクは、自分が『強者』という自覚が全くない。

 スキル『念動力』が強くなったのは間違いないと思う。だが、ピピーナにかすり傷すら付けられない念動力が、果たして強いのかも疑問だった。


「普段使いの念動力は三割、少し本気は四割、全力で戦う場合は六割にしておきなさい」

「わ、わかった」

「よし! じゃあ新しい特訓。『念動力』を全力で抑え込みつつ戦う特訓しよう!」

「お、お~」


 こうしてエルクは、『全力で手加減』する方法と、『全力を六割に抑える』ことができるようになった。


 ◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇


 ◇◇◇◇◇


「本気、出していいよな」


 ヤト、メリー、エルウッド。

 間違いなく強敵だろう。

 他にも、強い生徒はいるはずだ。

 

「俺のスキルで、この学園の生徒とどこまで戦えるか……やってやる」


 エルクは拳を握り、気合をいれる。

 

「個人戦。目指すは───優勝だ。おやすみ!!」


 エルクは自分に言い聞かせ、布団をかぶって眠りについた。

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