再会

『勝者!! エルウッド!!』


 七分四十秒。

 それが、ガンボとエルウッドが戦った時間だ。


「頑張った方だと思うよ」


 そう言って、エルウッドは『双剣』を腰に納める。

 血塗れで倒れたガンボを称賛し、手すら差し伸べていた。

 

「チーム戦だけど、まさか最後が個人での戦いとはね……先生たちも意地が悪い。それとも、他に狙いがあったのかな?」

「…………冒険者なんてモンは、結局は一人ってことなんだろ」


 エルウッドの手を掴み立ち上がるガンボ。

 意外にも、ガンボの話を聞きたいのか興味津々だ。

 

「冒険者はダンジョンに潜って調査したり、お宝を探すのが仕事だ。でも……お宝を前にして、仲間同士で殺し合わねぇとも限らねぇだろ。だから、チーム戦は最初の予選だけで、最後は総当たり戦にしたんだろうよ」

「なるほど……そういう考えもあるな。うん、きみ、すごいな!!」

「…………そりゃどうも」


 ガンボは照れているのか、そっぽ向く。

 王太子エルウッドに喰らいつき、さらに褒められたのだ。

 悪い気はしない。


「きみとはまた話をしたいね。じゃ」

「…………」


 エルウッドは、無傷で舞台を降りた。

 ガンボも降り、エルクとフィーネの元へ。


「わりーな。負けちまった」

「そんなのいいって。ってか、お前めちゃくちゃ強くなってるぞ……俺と戦った頃の何倍も」

「そうか?」

「うんうん。ガンボ、すっごく強かったよ~!! ああ、アタシも暴れたいなぁ!!」


 何もしていないフィーネは、モジモジムズムズしていた。

 そして、次はいよいよエルク。

 エルクは、ここまで戦ってくれたガンボとフィーネに言う。


「二人とも、ここまで戦ってくれてありがとう」

「なんだ、急に」

「特にガンボ……爽やかに終わったけど、たぶんブチ壊す。俺、ロシュオにいろいろ聞きたいことあるし」

「…………」

「フィーネも、ごめん」

「いいよ。それよりエルク、頑張ってね!」

「ああ」


 エルクは舞台に上がり、深呼吸した。

 大歓声に包まれている。聞こえてくるのは『ロシュオ』を応援する声。


「「「「「ロシュオ!! ロシュオ!! ロシュオ!!」」」」」

「ふふ、いい歓声だ」


 ロシュオが、手を振りながら舞台に上がった。


「「「「「きゃぁぁーっ!! ロシュオ様ぁぁぁっ!!」」」」」

「ははは、人気者は辛いね。そう思わないか、そこのお前」

「…………」


 エルクは、ロシュオを見た。

 騎士の礼服のような勝負服。腰の鉄製ホルダーに装飾の施された立派な剣が下がっている。

 身長も伸び、体格もよくなった。

 きっと、努力したのだろう。手には豆がいくつもできて潰れた跡が残っている。

 

「ボクの勝利は決まってるから、速攻で終わらせることもできる。でもさ、それじゃ盛り上がらない。な、お前……ボクに協力してくれないか? もちろん報酬は支払おう」

「…………協力?」

「ああ。ドラマチックに勝利したい。だから───少しだけ苦戦するんだ。そうして、華々しい逆転勝利!! どうだい? ただ瞬殺されるより、ボクに健闘したって称号も手に入る。悪い話じゃないと思うよ」

「…………ふっ」

「あ? なんだお前、笑ったのか?」


 ロシュオは邪悪に笑う。

 やはり、こんなものだ。

 外見がよくなっても、中身は変わっていない。

 エルクは構えを取る。


「……まぁいい。少し、遊んでやる。光栄に思えよ? このキネーシス公爵家の『剣聖』が、テメェを切り刻んでやるんだからな」

「…………」


 エルクは両腕のブレードを展開する。

 ロシュオも、剣を抜いて構えを取った。


『それでは、最終戦!! 最強の新入生チームは果たしてどのチームなのか……最終戦、初めッ!!』


 瞬間───ロシュオが消え、エルクの目の前で剣を振り下ろした。

 速い。そう思いながら両腕を交差し剣を受け止める。


「……っぐ」

「ははははははっ!! 一刀両断してやろうか!? でもまずは」

「───ッ!?」


 エルクは両手を外し、後ろに飛んだ。

 服が少し切れた。

 ロシュオの狙いは、エルクの腕。

 四肢を切断することが、目的のようだ。


「へへへ。腕、落ちなくてよかったな?」

「…………そんなに、斬りたいのか?」

「ああ。肉を切る感触、気持ちいいぜぇ?」


 人前では見せない笑みを、剣ごしに浮かべるロシュオ。

 変わっていない。

 エルクを斬った時と、変わらない笑み。

 エルクは、笑った。


「ははは、はは……はははははっ」

「あ? なんだお前」

「変わらないな、ロシュオ」

「あぁ?」


 エルクはフードを脱ぎ、眼帯を外し、マスクを外す。

 素顔を晒し、ロシュオをまっすぐ見つめた。


「?………………………………………………………………???………………………………えっ………………………………───はっ?…………はぁぁ!?」


 最初は首を傾げ、まじまじ見つめてもう一度首を傾げ、何かに気付いたのか顔を青くし───もう一度エルクをまじまじ見つめ、叫んだ。


「あ……あ、あに、兄貴……!?」

「久しぶりだな、ロシュオ」


 こうして、エルクとロシュオは再会した。


 ◇◇◇◇◇◇


 青くなり震えていたのは、ロシュオだけではない。

 エルウッドの隣で、サリッサは青くなり震えていた。

 様子がおかしいことに気付いたエルウッドは、サリッサの肩に手を置く。


「ひっ!?」

「サリッサ? 大丈夫か? あいつがどうかしたのか?」

「い、いえ、その……」


 そして、エルクがサリッサを見た。

 何を言うわけでもなく、ニヤリと笑ったのだ。

 それだけで、サリッサは声が出なくなる。


「う、噓だ。兄貴なわけねぇ!! 兄貴はあの日、間違いなく死んだ!!」

「死体は?」

「え……?」

「心臓、ちゃんと止まってたか? 死体の処理は?」

「そ、それは」

「じゃあ答えは一つ。俺は死んでなかった。それだけだ」

「───……ッ」


 ロシュオは歯を食いしばりながら、エルクを睨む。

 そして───「ふぅ」と息を吐いた。


「だから?」

「……?」

「兄貴だからなんだ? 生きてたから? それがどうかしたか?」

「…………」

「公爵家に戻りたいのか? 残念だな。キネーシス公爵家の後継者はこのオレだ。今さら出てきたところで、お前には何の権限もねぇんだよ!!」

「…………ぷっ、く、はははっ!! あははははっ!!」

「な、何がおかしいんだテメェ!!」

「いや~……ロシュオ、お前さ。俺が公爵家に戻りたいと、本気で思ってんのか?」

「な、何ぃ?」

「考えてみろよ。あの決闘は、キネーシス公爵が仕向けて、お前とサリッサにやらせた茶番だろ? 今更俺が戻ったところで、俺の居場所なんてない」

「だ、だったら」

「だったら。答えは一つだろ?」

「…………っ」


 エルクは両腕を広げ───ゆっくりと、右手をロシュオに向ける。


「復讐だよ、ロシュオ。俺は、俺を陥れたキネーシス公爵家……クソ親父、お前、サリッサを許さない」

「ふざけたこと言ってんじゃねぇぞ!! 忘れたのか? テメェのスキルは『念動力』!! 物をチョイと動かすだけの、カススキル───」


 ブチン!! 


「え……───っっっ!? づあぁァァァァァッ!?」


 ロシュオの右親指・・・・・・・・の爪が・・・弾け飛んだ・・・・・

 念動力によって、無理やり剥がし飛ばされたのだ。

 ボタボタ落ちる血。ロシュオは右親指を押さえ、涙目でエルクを睨む。


「ロシュオ……もう少し、話をしよう。久しぶりの再会なんだ」

「う、う……」


 エルクの念動力が、ロシュオに牙を剥いた。

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