チーム戦トーナメント②
エルクは、案内役の上級生と話をしていた。
「あの、俺……ずっとここにいないとダメなんですか?」
「決まりだからね。ここからじゃわからないでしょうけど、外はすごく盛り上がっているわよ? キミやガンボくんの戦いだって、すっごく盛り上がったんだから」
「はぁ……見たいなぁ」
「ごめんね。不正防止だから……」
上級生の女子は、手を合わせて片目をパチッとつぶる。
エルクは、なんとなく聞いてみた。
「あの、先輩」
「そういえば名乗ってなかったわね。私は二年のエレナ。よろしくね」
「よろしくお願いします」
「よろしくね。それと、決勝戦ではちゃんと仲間に会えるわ。闘技場で、最後の戦いがあるからね。さすがに、そこでは自分たちで出場者を決めて、みんなの前で舞台に上がるようになるから」
「それはそれで緊張しますね」
「そうかもね。でも、新入生の試合なんて、みんな緊張するものよ」
エレナは長い髪をかきあげ笑う。
二年生ということは、エレナも武道大会を経験したのだろうか。
「先輩も、武道大会に出たんですか?」
「ええ。チーム戦だけね。私のスキルは戦闘用じゃないから、個人戦には出なかったわ……ふふ、私に興味津々?」
「え!? あ、いや、その、暇つぶし……じゃなくて」
さすがに「暇つぶし」は失礼だ。
そう思い、何か言い訳しようとするエルク……だが、エレナはクスリと笑った。
「いいのよ。退屈でしょ? 私でよければ話し相手になるわ。でも、対戦相手のことなんかは言わないからね?」
「わ、わかってますよ」
「ふふ」
エレナは、一つ年上なだけなのに、ずいぶんと色っぽかった。
せっかくなので、学園について質問する。
「あの、先輩。先輩は冒険者を目指しているんですよね?」
「ええ。この世界にはまだまだ未知のダンジョンで溢れているわ。冒険者の資格を得て、未知なるダンジョンへ挑戦して、お宝ゲット!……なんてね」
「あはは……」
「ま、お宝はけっこう本気よ? ね、エルクくん……『遺物』ってわかる?」
「いぶつ? 異物……ヤバそう」
「遺物ね、遺物。ダンジョンの秘宝や、『神様の落とし物』なんて呼ばれているわ。冒険者協定で、ダンジョンの秘宝は第一発見者が所有していいことになっているの。この決まりは国王陛下ですら覆せないの」
「神様の、落とし物……」
ピピーナの落とし物だろうか?
エルクは首を傾げた。
「ポセイドン先生が持ってる『杖』もダンジョンの秘宝なのよ? 他にも、『五星』はみんな、ダンジョンの秘宝を持っているの。ん~~~……憧れるわぁ」
エレナは目をキラキラさせていた。
ほんの少しだけ、エルクも興味が出てきた。
もっと詳しく聞こうとエレナを見ると……エレナは、耳に手を当てる。
「あらら、早いわね。さらに……残念なお知らせ。エルウッド殿下のチームが決勝進出みたい」
「…………」
「決勝は二時間後。お昼を食べて食休みしたら、闘技場に転移させるから」
「わかりました」
エルクは静かに返事をして、頭を下げた。
◇◇◇◇◇
二時間後。
エレナと昼食を食べ、のんびり話をして───……時間になった。
エルクは装備を整え、エレナに向き合う。
「では、闘技場に転移します。会場はもう生徒や教師でいっぱいだから、緊張しないでね」
「はい」
「ふふ。公平さが大事なんだけど……エルクくん、がんばってね」
「はい!!」
エルクは頭を下げた。
すると、エルクの持つ『転移球』が輝きだす。
そして、一瞬の浮遊感……からの、大歓声に包まれた。
「「「「「ワァァァァ───ッ!!」」」」」
「おお……すごい」
「決勝だからな」
「あ!! やっと会えた~!!」
エルクの傍に、ガンボとフィーネがいた。
ガンボは腕組みをしてフンと鼻を鳴らし、フィーネは嬉しさいっぱいでエルクの背中をバシバシ叩きながら今にも泣きそうだ。
エルクはフィーネから離れ、嬉しさを隠さず言う。
「お疲れ。それと、おめでとうガンボ」
「はぁ?」
「いや、勝ったじゃんお前」
「それを言うならオメーもだろ。つーか、あんなの通過点にすぎねぇし」
「アタシなんて全然戦ってないし!!」
「あはは『さぁ!! 両チーム揃いました!! それではルールの説明です!!』
と、解説の生徒が叫ぶ。
拡声魔法が付与されたマイクに、唾を飛ばしながら叫んでいる。
『ルールは超シンプル!! 一対一で戦い、先に二勝したチームが優勝です!!』
「わかりやすいな」
『さらに、決勝戦に限り、参加者はチームで話し合って決めることができます!! 簡単すぎて説明いらなかったかもな!! じゃ、試合始めます!! 両チーム、最初の選手を出してくれっ!!』
エルクは、チラッと相手チームを見た。
エルウッド、ロシュオ、サリッサ。
エルウッドはともかく、ロシュとサリッサはやりたかった。が……どちらか一人しか戦えない。
すると、闘技場に上がった───サリッサだ。
「アタシが行くよ」
「……フィーネ」
「ごめんねエルク。どっちもやりたいよね」
「…………」
「でも、女の子を殴っちゃダメだよ」
「…………」
「少なくとも、アタシが見てる前ではやめてほしいの」
「…………わかった」
「うん」
フィーネはガンボをチラッと見る。ガンボは静かに頷いた。
そして、フィーネが舞台に上がり、拳を構える。
だが、サリッサは微笑を浮かべたまま動かない。手には扇を持ち、バッと広げて自分を仰いだ。
『それでは、準備はいいかな?───はじ「棄権します」……え?』
サリッサが挙手。
扇に魔法をかけ───会場全体に聞こえるよう、言った。
『わたしは、棄権します』
一瞬、静かになり……ドヨドヨと、困惑の声が響き渡る。
だが、サリッサは続けた。
『わたしのスキルは魔法系。前衛がいてこそ、わたしの真価は発揮される。なので……一対一では、誰にも勝てる気がしません。なので、わたしは棄権します』
『え、えー……ということらしいので、勝者……フィーネ』
「ええええええ!? アタシ、何もしてないんだけど!!」
フィーネが地団駄を踏む。
さらに、サリッサは続ける。
『わたしがこうして棄権を選択できるのは、この後に控えている兄と、エルウッド殿下がいるからこそ、ですわ。皆さん……残り二戦、お兄様とエルウッド殿下の勝利を約束しましょう!!』
「「「「「おぉぉぉぉーっ!!」」」」」
ガンボが舌打ちをする。
「チッ……自分の無能をあえて正直に晒し、他二人の評価を上げやがった。仲間を信じる健気な貴族令嬢渾身のお芝居か……ムカつくぜ」
「…………」
サリッサは、昔からそうだった。
周囲の空気を読むのに長けていた。
父は、世渡り上手と評価していた。
前衛がいてこその魔法。その発言も本心に違いない。
フィーネはぷんすか怒っていた。
「くっそー!! アタシ、マジで何もしてないんだけど!!」
「次は……フン、王太子エルウッドか」
エルウッドが、剣を持ち舞台にあがる。
ガンボは、迷わず前に出た。
そして、言う。
「まず間違いなく勝てねぇ……でもよ、オレにも意地があるんでな」
「ガンボ……」
「ま、見とけ」
そう言って、ガンボは舞台に上がっていく。
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