一人目、そして二人目

「いいぜ」

「マジで!?!?」

「うおっ!?」


 放課後。

 ガンボをショッピングモールのカフェに誘い、武道大会のチーム戦に誘うと……実にあっさり、ガンボはチーム入りを承諾した。

 エルクはガンボの手を握ろうと手を伸ばすが、ガンボは拒否。


「き、キモイぞお前……」

「あ、悪い。確かに気持ち悪い。それより!! いいのか、チーム入り!!」

「ああ。マルコス様……マルコスに誘われてたし、オレ自身、チーム戦にも興味があったしな。でも、オレの後釜はいるみたいだし、お払い箱。個人戦で大暴れしてやろうかと思ったが……まさか、お前に誘われるとはな」

 

 ガンボはミックスジュースをゴクゴクのみ、おかわりを注文。

 ちなみに、ここはエルクの奢りだ。


「よっし。あと一人!!」

「そろそろ武道大会の申し込みが始まる。さっさと見つけた方がよさそうだぜ」

「ああ。な、いい人いないか?」

「目ぼしい連中はみんな組んじまってるよ。こういうのは、入学前にすでに決まってる場合がほとんどだ」

「そうなのかー……」

「ワリーが、クラスの連中はゴメンだぜ」

「わかってるよ」

「それと、武道大会に出れるのは戦闘系スキル持ちだけだ」

「それもわかってる。もう一回、ヤトに頼んでみるかな……それかメリーに」

「お前のがアテありそうだな。ま、任せるぜ」

「ああ……って、お前も探せよ」


 ガンボと、自然に会話できるようになった。

 それだけでもエルクは嬉しかった。

 すると、ガンボが言う。


「じゃあ、訓練場行くか?」

「訓練場?」

「ああ。スキルの訓練する場所だ。放課後は一般生徒にも開放されている」

「へ~」

「……お前、学園案内見てないのか?」

「み、見てるし!!」


 エルクとガンボは、訓練場へ向かった。


 ◇◇◇◇◇◇


 訓練場は、学園の敷地内に二十か所ある。

 二人がやってきたのは、ショッピングモールから一番近い訓練場だ。

 巨大なドーム状の建物で、中はとても広い。

 余計な物がほとんどない。訓練する場所、長椅子くらいしかない、まさに訓練場だ。

 訓練場には、三十人以上の生徒がいる。


「おお、けっこういるな」

「みんな冒険者になるため頑張ってんだ。当然だろ」

「……冒険者、ね」

「……お前、まさか」

「し、知ってるし!! 冒険者ってのは……その、ダンジョンとか迷宮の調査をする、国が認めたスキル持ちのことだろ!!」

「まぁそうだけどよ……お前、言い淀んでたな」

「うるせっ」


 ガンボはクスクス笑った。

 この世界には、数多くのダンジョンが存在する。

 ダンジョンの最奥には、国一つ買える秘宝が眠っていると噂される。その秘宝を手にするべく、冒険者というスキル持ちが調査しにダンジョンへ潜るのだ。

 このガラティーン王立学園はいうなれば、冒険者の育成、スキルのレベルアップをする場所。


「で、どうするんだ?」

「チーム戦に興味ありそうな、フリーのやつ探す。んで、オレとお前が納得できるようなスキル持ち」

「…………そんなやついるのかよ」

「だから探すんだよ。ほれ、行くぞ」


 と───話をしている最中だった。


「あぶねぇ!!」

「ん?」


 スキルで生み出した『巨大鉄球』が飛んできた。

 エルクが手をかざすと、鉄球は空中で止まる。そのままふわふわ浮かし、ゆっくりと床へ置いた。


「相変わらず、とんでもねぇな……」

「そうか?」


 鉄球を飛ばした男子生徒はポカンとしている。

 すると、一人の女子がエルクに向かって歩いてきた。


「ね、今のキミのスキル?」

「え、ああ。そうだけど……こほん」

「すっごい!! なんのスキル? 魔法スキル? 武器スキルには見えなかったし……もしかして、特殊スキルかも!! ね、ね、教えて!!」

「あ、あの……近い」


 女子はグイグイ来る。

 亜麻色ショートヘアの女の子だ。手にはグラブをはめ、けっこうな汗を流している。さらに……タンクトップにスパッツというスタイルなので、露出が多い。近づいたせいで胸の谷間が見え、エルクは動揺してしまった。

 女子は気付いていないのか、さらに近づく。


「ふんふん……かなり鍛えてるね。でも、拳は綺麗だから格闘家っぽくない。スキルに依存してる戦闘力っぽいけど、それだけじゃないような……ふぅむ」

「おい、なんだお前は」

「そっちのあなた!! ん~!! あなたはいい身体してる!! ムキムキじゃん!! ね、腹筋見せてくれない!?」

「…………エルク、帰ろうぜ」

「…………ああ、俺も同じこと考えてた」


 妙な女からササーっと離れ、エルクとガンボは訓練場から出ようとした。

 だが、妙な女はニヤリと笑う。


「ふふふ。アタシから逃げられるとでも?───『加速アクセル』」

「「えっ」」


 なんと、妙な女は一瞬でエルクたちの前に立ちふさがる。

 床が焦げていた。

 一瞬のダッシュで、ここまで距離を詰めたのだ。


「今の……」

「アタシのスキル、『加速アクセル』よ。スピードでアタシに敵う奴はいない!!」


 断言した。

 妙な女は、エルクに言う。


「ね、ね、アタシのスキル見せたしさぁ……アンタのも教えて!! アタシ、上腕二頭筋みたいに、気になることがあるとトコトン知りたくなるの?」

「……念動力だけど」

「え」


 ガンボが「上腕二頭筋みたいに……?」と言っていたがエルクは無視。

 妙な女ががっかりしたように言う。


「なーんだ……念動力か。でも、念動力であんなの無理だよね。アンタ、そこまで教えたくないの?」

「いや、だから……念動力が俺のスキルだって」

「えー?」

「おい、そいつの言ってることはマジだぜ。オレが保証する」

「筋肉自慢のアナタが言うなら信じてもいいかな~」


 理屈は不明だが、妙な女は信じた。

 そして、質問する。


「ね、訓練するなら一緒にやらない? いい筋肉なら大歓迎だよ」

「「遠慮します」」

「あはは。ざんね~ん」

「俺たち、訓練しに来たんじゃないんだ。武道大会のチームメイトを探しに来たんだ」

「え、そうなの?」


 妙な女は少し考え込む……そして、ポンと手を叩いた。


「ね、アタシがチームメイトになってあげよっか?」

「え、まじで?」

「うん! 個人戦には出ようかと思ってたけど、キミたちいい身体してるし、一緒に出れたらアタシもいろいろ捗っちゃう!」

「「…………」」

「ね、ね、どう? 今ならお安くしときますよ~?」


 エルクとガンボは少しだけ離れ、顔を合わせる。


「どうする?」

「いや、都合良すぎだろ……いきなりヒットしたぞ」

「でも、ちょうどいいよな。三人目」

「そうだけどよ……なんだよ筋肉って」

「ま、まぁ。俺よりお前のがガタイいいし、いざというときは」

「なんだそれ!? ぜってー嫌だし。ってか、オレの好みは年上で」

「まぁまぁ。それに、こいつのスキル見たか? スピード重視……お前がパワーだとしたら、かなりバランスいいぞ」

「まぁ確かに……」

「というわけで、決まりで!!」

「「うおっ!?」」


 妙な女は、エルクとガンボの間に割り込んだ。

 

「というわけで、よろしくね! アタシ、Bクラスのフィーネ!」

「俺はエルク」

「ガンボだ」

「エルクに、ガンボ! この出会いは運命。よろしくっ!」

「「よ、よろしく……」」


 こうして、エルクとガンボのチームに、フィーネが加わった。

 武道大会のチームが、完成した。

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