ガンボ

 ガンボ。

 ガラティン王国から東にあるロッグ王国に生まれた少年。

 岩石地帯であるロッグ王国は、鉱山資源こそ豊富だが、決して豊かな国とは言えない。

 ガンボの生まれた家は騎士爵。一代限りの爵位で、ガンボの父が亡くなれば平民に戻る家庭だ。

 父が何をしたのか? ガンボは詳しく知らない。

 だが、ロッグ王国のために貢献し、爵位を得たことは誇らしかった。

 ガンボにとって、父は憧れだった。

 だから、毎日のように言っていた。


「俺の父ちゃんはすごい騎士なんだ!!」

 

 と───ロッグ王国の城下町で、毎日言っていた。

 毎日自慢していたせいで、態度も身体も大きくなったガンボは、ガキ大将になっていた。

 ガンボを馬鹿にする者は容赦なく殴った。

 いつの間にか、周りが───と言っても子供だが───恐れていた。

 そんなガンボが十歳のころに授かったのは、『硬化』というスキル。

 身体を硬化させることができる戦闘系スキルだ。

 ガンボは、嬉しかった。

 スキルを鍛えぬき、レベルを上げ、父のような騎士になれる。

 だが……環境が悪い。

 ガンボは、家族に相談した。


「いいだろう。ガンボ、お前をガラティン王国へ留学させる」


 父は力強く言った。

 こうして、ガンボはガラティン王国へ留学することになった。

 入学式の半年ほど前にガラティン王国へやってきたガンボは、ガラティーン王立学園の見学会に参加。そこでガラティン王国で男爵位のマルコスに出会う。

 騎士爵のガンボ、男爵のマルコス。

 ガンボは、マルコスがガラティン王国での貴族社会に入る繋がりになると思い、下に付いた。

 マルコスのために拳を振るった。

 そして、ガラティーン王立学園へ入学。

 ガンボは、出会った。


「念動力? なんだお前、カススキルじゃねぇか!!」


 念動力を使う少年、エルクに。

 そして……ガンボは、エルクと戦い敗北。

 平民、さらに念動力という『ハズレスキル』に負けたガンボは、マルコスから見放され、クラスメイトたちからも馬鹿にされる。

 もうすぐ授業が始まる。

 ガンボは一人、廊下で立ち尽くしていた。


「ガンボ……」


 そんなガンボに声をかけたのは、ガンボを負かしたエルクだった。


 ◇◇◇◇◇◇


 ガンボは、エルクを見て睨み───すぐに目を反らした。


「なんだテメェ。馬鹿にしに来たのか?」

「違う。教室に戻ろう」

「うるせぇ!! なんだテメェ、アレか? オレを憐れんでんのか?」

「違う」

「オレをこてんぱんに負かしたせいで、オレはこうなってんだぞ!?」

「……なぁ」

「あぁ!?」


 エルクは、ガンボをまっすぐ見て言った。


「それ、俺のせいか?」

「…………は?」

「そもそも、お前が俺の自己紹介中に茶化したのが原因だろ? 俺は『念動力』をはずれスキルだなんて思ってないし、俺の念動力がすごいのは、お前が一番よく知ってるはずだ」

「…………」

「俺はお前に勝った」

「…………」

「正々堂々と勝負して、お前に勝った。互いに合意の勝負だったし、なんの横やりもない、卑怯な手もない、まっすぐな真剣勝負だった」

「…………」

「これで終わりのはずだ。でも……そうじゃないんだろ?」

「…………」

「わかってんだろ?」

「…………」


 ガンボは、俯いた。

 エルクはまっすぐガンボを見て言う。


「悪いのは周りだ。今朝、お前を馬鹿にしたやつにお前は反抗しようとした。俺はそれを止めた。そして、周りが『お前は悪』って決めつけて断罪の声を上げた。そして、クラスの連中はそれに乗った……はっきり言う。俺は今、あのクラスの連中を嫌悪してる」

「…………!」

「確かに、お前のことはムカついた。でも……今は、そうでもない。どんな形でも、俺にまっすぐ意見をぶつけて、それでも折れることなく向かってくる姿勢、嫌いじゃない」

「……お前」


 ガンボは、ようやくエルクを見た。

 そして、エルクはガンボに手を伸ばす。


「仲直りしようぜ。その、喧嘩してたわけじゃないけど」

「…………」

「あとさ、お前が何考えてるのかわからないし、目的あるんだろうけど……あんな、お前のことなんとも思っていないような貴族に付き合うなよ。そんなの、友達じゃないぞ」

「…………」


 友達。

 考えたこともなかった。

 上に付くか、下を率いるか。それだけの人間関係だった。

 ガンボは、エルクの手を見つめ、エルクの顔を見た。

 エルクは───ニカッと笑った。


「ば、ば……馬鹿じゃ、ねぇの」

「いや、頭はけっこういいぞ。それに強いし」

「けっ……ああクソ!! 悪かったよ、お前の念動力を馬鹿にしたこと、謝る!! ちくしょうが!!」

「いでっ!?」


 ガンボは、エルクの手をバシッと叩いた。

 エルクは痛そうに顔をしかめる……やはり、人間だ。

 痛みもあるし、顔だってしかめる。

 それが、ガンボには面白かった。

 すると、予鈴が鳴る。


「やべ、教室戻るぞガンボ!!」

「ああ───」


 ガンボは、「ふぅ」と息を吐き───。


「行くぞ、エルク・・・

「───おう!」


 二人は、教室に向かって走り出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 教室に戻ると、クラスメイトたちがワッと騒ぐ。


「お前、よく戻ってこれたな」「エルク、そいつから離れろよ!」

「へへ、お前なんかこわくないぜ」「エルク、やっちゃって!」


 聞くに堪えない、エルクは思う。

 ガンボも、もう気にしていないようだ。

 エルクは右手をクラスメイトに向け、念動力を発動させる。

 すると、クラスメイトたちの口がいきなり閉まった。ピクリとも動かない。


「「「「「「「「「「……ッッッ!?」」」」」」」」」」

「あのさ、俺にあーだこーだ言わないで、自分でガンボに挑めよ。一対一、正々堂々と戦えばいいじゃん。みんな、戦闘系スキル持ってんだろ?」


 エルクは、心底つまらなそうに言う。


「寄ってたかって、一人を集団で貶めるようなこと言う奴のが俺は嫌いだね。あんまり騒がしくすると……」


 エルクは左手を見せつけ、五指を思いきり開く。

 何かが起きるわけではなかったが、それでも脅しになったのかクラスメイトたちの顔は青くなった。

 念動力を解除すると、クラスメイトたちは自分の席に戻って黙り込んでしまう。

 すると同時に、教師のシャカリキが入ってきた。


「おんや? 何かあったんですかねぇ?……まぁいいや。じゃ、授業始めまーす」


 こうして、授業が始まった。

 隣に座るヤトが、面白そうに言う。


「やるじゃない、あなた」

「ん?」

「まさか、あの狂暴そうなやられ役を懐柔するなんて思わなかった」

「なんだよその《狂暴そうなやられ役》って……」

「ふふ、チームメイト、一人目ね」

「え」


 武道大会、チーム戦。

 三人一組チームの、一人目。

 そんなこと全く考えていなかったエルクは、ハッとなりガンボを見た。

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