模擬戦終わり、一日目も終わり

 模擬戦が終わり、一日目は終わった。

 あとは寮に戻るなり、学園内にあるショッピングモールで買い物するなり、城下町へ出て遊ぶなり、生徒たちは自由時間となる。

 教室に戻り、エルクはシャカリキから貰った『ガラティーン王立学園のご案内』用紙をカバンに入れ、教室を見渡してみた。


「ひっ」「おい、こっち見たぞ」「あいつヤベーぞ」

「ガンボとかいう奴、大丈夫か?」「近づかない方がいい」


 軽視から恐怖の対象になっていた。

 馬鹿にされたりするよりはマシだが、やはり寂しい。

 早く教室を出てエマたちと合流しよう。そう思い、カバンを背負うと。


「ねぇ」

「ん?」

「今日、これから暇かしら?」

「え……」


 なんと、ヤトが話しかけてきた。

 ポカンとするエルク。

 ヤトはエルクにグイッと近づき、もう一度言う。


「これから、暇かしら?」

「え、あ、いや……待ち合わせしてる」

「そ。じゃあ、あたしも行っていい?」

「……え?」

「あんたに興味が湧いたの。それじゃダメ?」


 黒髪ポニーテールを揺らし、腕組みしたまま言う。

 色っぽい話ではないことは確かだ。

 エルクは少し悩み、小さく頷く。


「まぁ、いいけど……ちょっと話をして帰るだけだぞ」

「それでもいいわ。行くわよ」

「お、おう」


 ヤトの後に続き、エルクは教室を出た。


「おい、どういうことだよ」「あの子、大丈夫か?」「やばくね?」

「助けに行った方がよくない?」「無理、殺されちゃうわ」


 エルクは、聞こえないふりをして教室を出た。

 ちょっとだけ……涙が出そうになった。


 ◇◇◇◇◇


「あ、エルクさー……え?」

「マジかよ……」

「……嘘」


 エマ、ニッケス、メリーの反応は予想通りだった。

 エルクが生徒代表挨拶をしたエマを連れて来たのだ。当然だろう。

 三人と合流すると、さっそくニッケスが言う。


「で、どういうことだ?」

「えっと……」

「こいつに興味があるだけよ。妙な勘繰りしなくていいから」

「わお、毒舌」

「むむむぅ……エルクさん、さっそくお友達ができたんですね」

「友達、なのかねぇ」


 エルクが苦笑する。

 メリーはヤトをじっと見つめている。

 すると、ニッケスが言う。


「あのさ、学園内ショッピングモールってあるよな。そこでお茶でも飲もうぜ。学園初日をみんなで振り返ろうじゃないか」

「学園内ショッピングモール……」

「お前、マジで学園案内とか読めよ」


 ニッケスに呆れられるエルク。

 エマとメリー、ヤトも当然知っているようだ。

 帰ったら学園案内をしっかり読もうとエルクは決意した。

 というわけで、五人は学園内ショッピングモールへ。

 ニッケスの案内で向かったのは、驚いたことに地下だった。


「ち、地下にあるのか?」

「ああ。地上は学ぶための私設がほとんど。ショッピングモールは地下にある」


 地下へのゲートをぐぐると、そこは別世界だった。

 まるで地上のような明るさ。天井も高く、とにかく広い。

 ショッピングモールというだけはある。学校生活を送るために必要な消耗品関係の店はもちろん、飲食店、武器屋、防具屋、鍛冶屋に道具屋、魔法商店、パン屋や宿屋もある。


「宿屋なんて必要あるのか? 学生は寮があるだろ」

「生徒の関係者とか泊まるんだろ。親とか」

「あ、そっか」


 エルクが興味深そうにショッピングモールを眺めていると、女子たちが話していた。

 いつの間にか、エマの手にはショッピングモールのマップがある。


「ね、メリー、どのお店がいいですか?」

「そうね……ケーキのおいしいお店がいいわ」

「ケーキですか。あ、えっと……ヤト、さん? ですよね。どこか行きたいお店あります?」

「……お団子のお店。あと抹茶が飲めるお店」

「おだんご、まっちゃ……?」

「聞いたことあるわ。確か、ヤマト国のお菓子ね」

「わぁ、ヤマト国のお菓子ですか。気になります」

「エマ、マップ見せて……あ、ここ。ヤマト国のお店ね」

「見せて……うん、そうね。『茶屋』って書いてある。ここにするわよ」

「はい! じゃあ行きましょう!」


 いつの間にか、女子三人は歩きだしていた。

 ニッケスは、エルクの肩を叩く。


「こういう時、女子のパワーってすげぇと思うよな」

「同感」


 エルクとニッケスは、エマたちの後に続く。

 到着したのは、木造の平屋だ。

 のぼり旗に『茶屋』と書かれ、竹でできた長椅子に木製テーブルが並んでいる。

 店に入り、六人席へ座ると、店員が注文を取りに来た。


「三色、みたらし、ずんだ団子。それと抹茶。あんたらもそれでいいでしょ」


 ヤマト国の菓子はわからなかったので、全員が了承する。

 運ばれてきた団子を、エルクはさっそく食べてみた。


「うわ、甘い! このタレ? みたらし? すっげぇおいしい」

「へぇ、色違いの団子か……お、うめぇ」

「わぁ、この緑色の……なんでしょう? 食べたことあるような。ずんだ? でしたっけ」

「う、お茶……ちょっと渋いかも。でも、おいしい」


 初めて食べる味に、四人は楽しそうだった。

 ヤトだけは、食べ慣れしているのか、三色団子をモグモグ食べている。

 しばらく、団子を味わった。


 ◇◇◇◇◇


 スキル武道大会。

 戦闘系スキルを学ぶ生徒を対象とした『武道大会』である。

 開催は一年に三回。新入生を対象とした一回目、学年対抗の二回目、年度末最後となる三回目。

 三回目の大会は、進級後のクラス分けにも影響する。


 スキル学芸大会。

 商業・開発・一般系スキルを持つ生徒を対象とした『文化祭』

 自分が開発したオリジナル製品の発表の場であり、商業系スキルを持つ生徒とチームを組んで『模擬店』を開き、商品などを売ることができる。

 文化祭には、各国から有名商家や貴族などが多く来るため、商人や開発希望の生徒にとってはまたとないチャンスの場でもある。


「と───デカいイベントはこの二つだな。オレ、エマちゃんは『文化祭』で。エルク、メリー、ヤト……ちゃん、いやヤトさんは『武道大会』がメインの活躍場となるだろうな」

「なるほどな」


 団子を食べ、茶を啜りながらニッケスが説明してくれた。

 武道大会。スキルを使った戦いの場。


「な、危なくないのか? その大会」

「安心しろよ。参加者には特別な魔法をかけて戦わせるらしい。さらに、この学園の『保健室』には、死者すら蘇らせる最高の保険医がいるって話だ。たぶん、医療系スキルなんだろうな」

「……怪我を恐れてたら戦えないわよ」


 と、ヤトが言う。

 メリーは、拳を握る。


「私、武道大会を楽しみにしてたんです……今の私の『剣』が、どれほど通用するのかを」

「やめときなさい」

「……はい?」

「あなた、剣を使うのね?」

「そうですけど……」

「匂わない」

「は?」

「血の匂いがしない。あなた、実戦経験は? 殺しをしたことある?」

「なっ……」

「お遊びの剣を振り回した程度じゃ、すぐに殺されるわよ」

「…………」


 ぴしっと、メリーの持っていた団子の串が折れた。

 メリーはヤトを睨みつける。


「お遊びの剣かどうか、試しますか?」

「別にいいけど……」


 メリー、ヤトの手が、腰に下げた剣の柄に触れた瞬間───。


「やめとけって」

「「!?」」


 二人の手が、ピクリとも動かなくなった。

 エルクの手が、二人に向いていた。

 念動力で動きを止めたのだ。

 ヤトは実感した。エルクの念動力の拘束力を。


(ぜんっぜん、動かない……!? あの力自慢の馬鹿でも動かせないのは納得かも)


 力自慢の馬鹿というのは、ガンボのことだ。

 エルクは指をピッと動かすと、ヤトとメリーの腰にあった剣がふわりと浮かぶ。

 そのまま視もせずに指を動かし、外に置いてあった傘入れに剣が入った。

 と、ここでニッケス。


「おい、ショッピングモールでもスキル使用は校則違反だぞ」

「マジで!? やべっ」


 慌てるエルク。

 笑うニッケス。曖昧にだが笑うエマ。

 不穏な空気になりかけていたが、なんとかなった。

 メリーは息を吐き、ヤトに言う。


「遊びの剣かどうかは、武道大会の……個人戦で確かめてもらいます」

「そうね。楽しみにしてる」

「なぁなぁ、個人戦ってことは、他にもあるのか? 例えばチーム戦とか」


 エルクが言うと、ニッケスが言う。


「チーム戦ならあるぜ。三人一組で参加する『フラッグバトル』が」

「三人一組かぁ……」

「「?」」


 エルクは、ヤトとメリーを見て、ニヤリと笑った。

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