弟、妹、そして貴族
Aクラス教室に、とある兄妹がいた。
長身、細身でルックスが抜群。彼の周りには十名以上の男女がいる。まるで、王族を護衛する親衛隊のような集まりだった。
妹は、ツインテールを揺らし手には扇を持っている。
こちらもルックスは抜群。スタイルもよく、取り巻きの男子は十名以上いた。
二人は、のんびり話をしている。
「ね、兄さま……学園初日、どうだった?」
「ま、フツーだね。見た感じ、大したことない連中ばかり。そういうお前は?」
「兄さまと同じよ。ふふ、世界最大の学園っていっても、こんな感じなのかしら?」
少女は扇を広げ、口元を隠す。
すると、少女の背後にいた男子生徒が、カバンの中からティーセットを出した。
さらに、熱湯の入ったポット、高級茶葉、クッキーと、カバンの大きさからはあり得ない物が出てくる。
少女はニッコリ笑った。
「ありがと、ポケットくん」
「い、いえ。サリッサ様」
少女の名はサリッサ。兄の名はロシュオと言った。
ポケットと呼ばれた少年のスキルは『収納』で、ロシュオは「へぇ」と言う。
「収納系スキルか。レベルは?」
「はい。レベルは10になりまして……『スキル進化』して、『収納』が『収納レベル2』に進化しました」
「レベル2か。確か、収納したモノの時間も止まるんだったな」
「はい」
「ふふ、ポケットくんがいれば、いつでもお茶が飲める。ありがとね」
「い、いえ!!」
ポケットは、真っ赤になり照れていた。
サリッサの取り巻き男子たちが歯を食いしばっている。
ロシュオは面白そうに笑い、息を吐く。
「そういえば……ね、兄さま。王太子様とお友達になったんでしょ?」
「エルウッドか? ま、そうだな。他国の貴族、次期公爵のオレと仲良くしたいってのは当然の判断だろ」
「そっかー……」
「なんだお前、王太子妃の座でも狙ってんのか?」
「それもいいかもね」
と、サリッサの取り巻きたちから、やや困惑した雰囲気が。
すると、教室のドアが開く。
入ってきたのは、数名のお供を引き連れたエルウッドだ。
「あ、いた。おーいロシュオ、まだ教室にいたのか?」
「おう、エルウッド。愛する妹と楽しいお話してたんだよ」
「妹?」
と、サリッサは立ち上がりスカートをちょこんと摘み一礼。
エルウッドも習い、一礼した。
「初めまして。デオ王国、キネーシス公爵家長女サリッサと申します。ガラティン王国王太子エルウッド様。お噂はかねがね」
「初めまして。ガラティン王国王太子エルウッド……と言いたいけど、学園ではエルウッドでいい。普通の生徒として接してくれ」
絶対に無理。サリッサはそう思った。
基本的に、学園に入学した者は『貴族』だろうと『平民』だろうと『生徒』という扱いだ。だが、あくまで建前であり、実際には政治が絡む。
目の前にいるのが、世界最大の王国ガラティンの王太子であることに変わりない。
エルウッドは、楽し気に笑う。
「オレの噂って、デオ王国にも伝わってるのか?」
そう言うと、ロシュオは言う。
「生まれつき三つのスキルを宿した『天才』の話は、デオ王国にも伝わってるぜ?」
「それを言うなら、デオ王国に生まれた『生まれながらの剣聖』のことも伝わってるよ。剣聖って……あり得ないだろ。普通、スキル進化して初めてたどり着く境地だぞ?」
「知らねぇよ。そういう生まれなんだからさ」
「それに、妹さん。サリッサ嬢、あなたのことも」
「えへへ……恥ずかしいです」
エルウッドは苦笑する。
スキルは、進化する。
スキルには『レベル設定』があり、一定のレベルに達するとスキルが進化するのだ。
スキルのレベルは、『スキル鑑定』のスキルを持つ者にしか見ることができない。
エルウッドは言う。
「剣士、剣士レベル100、剣豪、剣帝……からの、剣聖だろ? 段階無視して剣聖になった天才剣士と、同じく段階を無視して『魔聖』のスキルを持つ魔法の天才。いやはや、デオ王国はすごいね」
「茶化すなって」
「えへへ。お兄さま、照れてらっしゃる?」
「うるせっ」
エルウッド、ロシュオ、サリッサは笑った。
だが───ここで、エルウッドは触れてしまう。
「そういや、キネーシス公爵家って三兄弟だよな? 確か、一番上の……」
と、エルウッドが言った。
ロシュオはつまらなそうに、だが唇を歪めて言った。
「ああ、アニキがいたけど死んだわ」
「え」
「ああ、お兄様……不慮の事故で亡くなったお兄様。今もきっと、天国で私たちのことを見てくれていると思いますわ」
「そ、そうなのか……済まない」
「気にすんな。もう六年も前だ。それより、そろそろ帰ろうぜ」
「あ、ああ。あ、そうだ。実は話があってな。武道大会のチームメイトに誘いに来たんだ」
「ああ、三人一組のやつ? オレはいいぜ」
「あ、私も出たいです!」
「よし決まり。オレ、ロシュオ、サリッサ嬢……ふふ、優勝が狙えるな」
「当然だろ」
三人は、雑談しながら教室を出た。
密かにロシュオとサリッサを誘おうとしていた二人の取り巻きたちは、がっくりと肩を落としていた。
◇◇◇◇◇
その日の夜。
自室に戻ったロシュオは、大きな欠伸をしてベッドに倒れた。
「そういや、もう六年か。クソ念動力しか使えない兄貴が死んだの」
死んだの、ではない。
ロシュオは己の手を見つめ、ニヤリと笑う。
「ああ、オレが『斬り殺した』兄貴か。へへへ……あの時の肉の感触、今でも覚えてるぜ。そういや、アレのおかげでオレは『人を斬る』っての覚えたんだよなぁ」
十歳で人間を斬ったロシュオは、その後メキメキと成長した。
やはり百の訓練より一の実戦のがいい経験、強さに繋がる。
顔も思い出せない兄に、ロシュオは言った。
「兄貴。オレ、頑張ってるぜ?」
それは───斬り殺した兄に対する、侮蔑の言葉だった。
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