模擬戦
学園の敷地内に、武道場があった。
円形で、石畳が敷かれている。観客席もあり、今はFクラスの生徒たちが座っている。
石畳のリングの上に立つのは、エルクとガンボ。
エルクは制服のままだが、ガンボは着替えていた。
全身濃紺のタイツ、両拳に金属製のナックル。顔にはマスクを付け、マントまで付けている。
意味のわからないファッションに、エルクは顔をしかめた。
すると、審判のシャカリキが言う。
「エルクくん。きみ……戦闘服はないのかい?」
「……戦闘服?」
「パンフレット、見なかったのかい?」
「…………」
入学証書が届いたときに、いろいろ書類が入っていたような気がした。
実はエルク。入学証書だけしか見ていない。
シャカリキは察したのか、苦笑して説明してくれた。
「戦闘服は、自分のスキルに合わせる機能を持たせた衣装のことだよ。やっぱり冒険者や騎士、傭兵を目指すならカッコいい衣装を着なきゃね」
「は、はぁ……」
「ふふ。ま、きみは大丈夫だと思うよ」
「はい「おい!! さっさと始めるぜ!!」……うるさい奴だなぁ」
「よし!! では、模擬戦を始めよう。アイトくん、ガンボくん、準備はいいかな?」
「おうよ!!」
「大丈夫です」
「では───始め!!」
シャカリキの合図で、模擬戦が始まった。
◇◇◇◇◇
ガンボは、両拳を『鋼鉄化』した。
拳から腕にかけて銀色に輝き、美しく見えた。
「オレの『鋼鉄化』レベルは19!! あと一つレベルを上げれば『スキル進化』する!! 見てろ……ここでテメェを倒して、経験値に変えてやるぜ!!」
「スキル進化……」
「いっくぜぇぇぇぇ!!」
ガンボが走り出す。
せっかくなので、エルクも試すことにした。
右手をリングの石畳に向けて念動力を発動させると、石畳が一気に十枚ほどめくれ浮き上がった。
「何ぃ!? ここ、鋼鉄化、『全身』!!」
ガンボは全身を鋼鉄化。
両腕を交差させ、防御態勢に入る。
「行け」
エルクはひっぺがした石畳を回転させ、ガンボに向けて放つ。
回転した石畳は十枚全てガンボに直撃。砕け散る……が、ガンボは無傷。
「はっはっは!! この状態のオレは今まで傷付いたことがねぇ!!」
「ふーん……じゃあ、試してみるか」
念動力を発動。
金属の彫像と化したガンボが地上五十メートルほどまで上昇。
エルクは右手をスナップさせる。すると、ガンボは頭から石畳のリングに激突した。
さらにエルクは、左手で念動力を発動。
リングの石畳を全て引っぺがし高速回転、ガンボに向けて発射する。
全て直撃したが、ガンボはやはり無傷だった。
「効かん効かん効かん!! ぎゃはははははっ!!」
「じゃあ、これならどうだ?」
───キィン。
エルクの念動力が再びガンボを浮かす。
「何をしようがオレには───ぁ、ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
ガンボは、超高速で回転を始めた。
ぐるんぐるんぐるん、ぐるんぐるんぐるんぐるん……と、少しずつ、少しずつ回転が速くなる。
「お、ぉ、ぉ……ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
ぎゅるるるるるるるるるるる。
ギュイィィィィイィィィィィィィィイィィィン!!
超高速で回転し、数分が経過……エルクは回転を止める。
すると、ガンボは。
「───うぼぉげっ」
真っ蒼な顔で盛大に吐き、そのまま倒れた。
「いくら硬くても、中身は人間だしな。あんだけグルグル回されたら酔いもするだろ」
「勝者、エルクくん!!」
シャカリキがエルクの勝利を宣言。
模擬戦は終わり、ガンボは医務室に運ばれていった。
◇◇◇◇◇
ヤトは、エルクの戦いを見て笑っていた。
「面白い……念動力、ね」
魔法系スキルの亜種と考えたが、魔法系スキルは発動させるために『詠唱』は必須。だが、念動力にはそれがない。
手をかざすだけ───それだけで、発動する。
今の戦いでわかったのは、『手をかざすだけで発動』することと、『発動させるには相手を視認しなければならない』ということ。
それなら……ヤトには勝機がある。
「あの王太子も中々強そうだと思ったけど、こっちのが面白い」
ヤトは、己の武器である『刀』にそっと触れる。
「『六天魔王』……久しぶりに、斬りがいのある相手よ」
かつて、ヤマト国に『人斬り夜叉姫』という、人斬りの少女がいた。
齢八歳で剣を握り、十歳でスキルを得て、十五歳までに数々の戦場を渡り歩いた少女。
ヤマト国に敵はもういない。
なら……ヤマト国の外に行くしかない。
ヤマト国の外で、合法的に剣を振うには、冒険者になるしかないと知った。
冒険者になるには、ガラティン王国にある学園に入るのが一番の近道と聞いた。
だがらヤトは、ガラティーン王立学園へ入学した。
愛刀の『六天魔王』と、ヤトの身に宿る『三つ』のスキルと共に。
さっそく出会ったのは、なんとも斬りがいのある……念動力のスキルを持つ少年だった。
「そういえば、武道大会……個人戦もあるのよね」
ヤトはニヤリと笑い、六天魔王を優しく撫でた。
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