自己紹介
「え~……初めまして皆さん。ワタクシは、このFクラス担当教師。シャカリキと申します」
ホームルームが始まり、入ってきたのは疲れた感じの男性だった。
猫背に、べっ甲縁眼鏡。手には分厚い本を持ち、ボサボサの髪をボリボリ掻いている。
教師っぽくない。誰もがそう思った。
「はいはい。このFクラスの人数は五十名ほどなので……今日は自己紹介をしましょうか。名前、出身地……は言いたい子だけで、スキル……も、言いたい子だけで。あとは趣味とか適当に」
適当なのはお前だろ。誰もがそう思った。
だが、教師の指示に逆らう者はいない。
シャカリキは、教室の上段席の端に座る生徒を指さす。
「じゃ、そこから……はいどうぞ」
「え、あ、はい」
指さされた生徒は立ち、自己紹介をする。
名前は当然言う。出身地は「隣国の~町」や「ガラティン王国出身です」が多い。言わない子もいたが、田舎出身というのが恥ずかしいのだ。貴族の生徒は当然言う。
そして、ヤト。
「……
それだけ言い、座った。
ヤマト国では、国民全員が苗字を持つ。本来、苗字を持つのは貴族階級だけだ。
黒髪、赤い髪紐、すらっとした身体。まるで、まっすぐな棒のようだ。
「オレ様はガンボ!! ロッグ王国出身!! スキルは『鋼鉄化』よ!! このスキルを鍛えまくって、この国の騎士になる男だ!!」
……アホみたいな自己紹介。
エルクはそう思った。だが、ガンボのように馬鹿丸出しの方が好まれる場合もある。
いい意味でも、悪い意味でも、ガンボは目立っていた。
そして、最後……エルクの番。
「エルクです。出身は……デオ王国「スキルは『念動力』です、ってか!? ぎゃははははっ!!」
と、ガンボの馬鹿にしたような声が教室に響く。
シャカリキは眼鏡をくいっと上げ、生徒たちからもクスクス笑うような声が聞こえてきた。
だが、エルクは気にしない。
それどころか、誇らしげに言った。
「ガンボの言う通り、俺のスキルは『念動力』です。この国……というか、一般人の認識では『念動力』はハズレスキルって思われてますけど。俺はそうは思いません」
「ぎゃははははっ!! 軽い物を引き寄せるだけのクズスキルじゃねぇか。ほれほれ、この鉛筆引き寄せてみろよ。ほれほれ……ああ、軽い物しか引き寄せられねぇんだっけ? この鉛筆も無理か。ぎゃははははっ!!」
これでもかとガンボがバカにする。
クラスメイトたちも笑っていた。馬鹿にしていた。
なので、エルクは───見せてやった。
「え?」
「ほれ、これでいいのか?」
ガンボの持っていた鉛筆が、アイトの指先で浮かんでいた。
念動力による引き寄せ。
それも、ほぼ一瞬で引き寄せたのだ。
「返すよ」
「えっ───」
エルクは鉛筆をガンボに向けて
尖った鉛筆は空を切り、ガンボの眉間すれすれで止まる。そして、念動力を解除されたのか、ぽとりとガンボの机に落ちた。
教室中が静かになる。
すると、シャカリキが言う。
「素晴らしい……念動力の限界レベルは10のはずですが、それ以上の力を感じます。エルクくん……アタシが許可します。もう少し、何かを見せてくれませんか?」
一人称が「アタシ」なんだ……と、エルクはどうでもいいことを思った。
せっかくなので、『念動力』は役立たずスキルという不名誉を払拭しておくことにした。
エルクは、ガンボに右手を向ける。
「ガンボ、馬鹿にしたお詫びに付き合えよ」
「え、ちょ」
ふわりと、ガンボの身体が浮く。
巨体のガンボ。態度だけの馬鹿かと思いきや、身体も相当鍛えてある。身長190センチ、体重は100キロを超えるか超えないかくらい、とエルクは持ち上げた感じで計った。
そのまま、右手を軽く動かす。
「うぉぉぉぉぉぉっっ!? おぉぉぉぉぉぉっ!? おぉぉぉ───ッ!?」
ガンボは教室内を空中旋回した。
さらに、急停止。上下左右。ローリングと、空中で踊る。
誰もが驚いていた。ヤトですら目を見開いている。
エルクは少し楽しくなってきた。
さらに左手を教室全体をなぞるように動かす。すると、クラスメイトたちのテーブルに置いてあった鉛筆が一斉に浮き上がり、ガンボと一緒に踊るように動き始めたのだ。
「たたたすけてぇぇぇぇぇっ!? 助けてぇぇぇぇぇっ!? ギャァァァァーーーーーッ!?」
「はははーっ、楽しくなってきた」
エルクは指揮者のように手を動かす。
教室中が唖然としていた。
すると、シャカリキが手をパンパン叩く。
「ありがとうございます。もう結構です!!」
すると、鉛筆は生徒たちの机に戻り、ガンボも自分の席へ戻った。
シャカリキは興奮したように言う。
「素晴らしい!! 念動力とは『小さな物をほんの少しだけ引き寄せる』だけのスキルかと思いましたが……その本質は『物体操作』だったのですね!! いやぁ実に面白い!!」
「ぐぐぐ……で、でも!! そんな物を動かすだけの役立たずスキルじゃねぇか!! ぐおぇっ……本当の戦闘スキルには遠く及ばねぇし!!」
「だったらガンボくん。彼と戦ってみますか?」
「……あ?」
「模擬戦です。新入生の優劣を決める『武道大会』がありますし……個人的な怒りもあるようですしねぇ」
「面白れぇ……!! おいお前、逃げんじゃねぇぞ!!」
「……あの、俺の意志は?」
こうして、エルクとガンボの模擬戦が行われることになった。
「…………へぇ」
ヤトが、面白い物を見つけたような顔で、エルクを見ていることに気付かぬまま。
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