修行②

 神殿内は、空っぽだった。


「あれ、何もない」

「そりゃ適当に作ったし。ゴールっぽい建物でしょ?」

「そうかな……」


 まず、ゴールっぽい建物、というのがよくわからない。

 巨大な神殿の外に出て少しだけ歩いた。

 到着したのは森。神殿がよく見える。

 ピピーナは、小石を拾った。


「念動力の修行、そのいち。まずはこの石を浮かべる」

「浮かべる?」

「そ、浮かせるの。こんな風にね」


 ピピーナが小石を弾くと、小石はフワフワ浮く。

 これにはエルクが驚いた。


「う、浮いてる!? 念動力って、引き寄せる能力じゃないのか!?」

「そんなわけないでしょ。念動力っていうのは、『物を支配する力』だよ。浮かべたり」


 小石がフワフワ浮く。


「力で包み込んだり」


 小石が見えない力に包み込まれる。


「飛ばしたり」


 小石が恐ろしい速度で飛び、近くの岩を貫通した。


「念の壁を作ったり」


 念……念動力の力の源で壁を作り、小石をぶつけると、カンッと小石が弾かれた。

 ピピーナは、人差し指をエルクに見せる。

 そこには、白いモヤのような物がまとわりついていた。


「念動力ってのは、『念』……思いの力。これ見える? これが思いの力。この力が、いろんなことをしてくれるのよん。引き寄せたりするのは序の口。みんな、それだけしかできない力って思ってるみたいだけどねぇ」

「すごい……」

「エルクくんもこれくらいやんなきゃ。最終的には───見てて」

「え?」


 ピピーナは、手を神殿へ向けた。

 すると、信じられない光景が。


「───…………噓ぉん」


 神殿が、ベキベキメキメキと音を立て……浮き上がった。

 念動力で、浮かんでいるのだ。


「ま、あれくらい寝ながらできるようになれば、人間の世界でエルクくんに敵う人間はいないと思う。剣聖でも魔聖でも、デコピンで爆散できちゃうよ」


 想像したらグロすぎた。

 だが、念動力の可能性をエルクは見た。


「とりあえず、百年!! ここで念動力の修行ね」

「ひゃ、百ねん……」

「その後は、もう一回マラソンね」

「え」

「来た道をそのまま引き返すよー。目標は五年以内!!」

「…………」


 エルクの本当の修行が、始まった。


 ◇◇◇◇◇◇

 

 何年、経過しただろうか。

 走り、崖を登り、崖を降り、泳ぎ、走り……時間の感覚なんてない。

 ピピーナは嬉しそうに言う。


「マラソン、二年切るようになりましたね!!」

「…………そう」

「むー、精神的に疲れちゃったかな? じゃあ、ちょっとご褒美あげちゃおう!!」

「……ん?」

「はい、チョコレート」

「……チョコ?」

「あまいよ~?」

「あむ……ん!? アマッ、うま、甘ァァァァァァ一!!」


 甘味という刺激でエルクは自我を取り戻した!! 

 マラソンの終了後に、定期的にチョコが出るようになった。

 もう、何度マラソンを繰り返したかわからない。

 そしてついに、修行も残り二百年を切った。

 ピピーナは、クラッカーを鳴らす。


「ぱぱぱ~んっ!! 修行も残り二百年になりました!! 最後の二百年は……スペシャルメニュー!!」

「……スペシャル、メニュー?」

「そう!! 最後は……実戦形式」

「!!」


 ピピーナは、ふざけた雰囲気を消し……背中の翼をバサッと広げた。


「これから二百年、わたしと実戦形式で戦うよ。休みなしの二百年はかなりきついと思うけど、今のエルクくんの念動力なら、わたしに手傷くらい負わせられるかも?」

「ピピーナ……」

「さぁ、エルクくん!! おもいっきりかかってきなさい!!」

「よぉーしっ!!」


 エルク、最後の修行が始まった。

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