第9話 秘剣の戦士

 はまやが、階神社の神庭に駆け出す。

 ゆりかが握り構えて白い細腕に延長する宮風の刀身に、白糸がまつわる様に細く輝く電光が、そよ風が移ろうゆりかの全体と黒髪とを照らしている。

 はまやの上着で、磁性体を選んであつらえた箇所の宝石釦だけが震えている。

(全ての雲が七色の彩雲に!宮風からの磁界が全天に及んで、雲が浴びる光線の反射角度を変化させているんだ!夏祭りで余人に落雷と思えていたものは、やはりゆりかが宮風から発したもの。あの銀の糸も宮風の一部!)

 はまやが、ゆりかの剣舞に振るわれる宮風の剣先から鳴り渡る、優美な音色にほだされて薄まった、己の警戒心の落差を自覚した瞬間、百の剣が飛来して、はまやとゆりかを囲み、神庭の白玉砂利にぼやけた影を落としつつ立ち浮かんだ刹那、ゆりかの姿が消える。

 はまやは、金色に底光りする眩しく青い光で視界を明滅させる御伽月の孤の中峰で、背後からのゆりかの斬撃を受け止めており、瞳へ伸び込むように振り返る。

 ゆりかが両掌の内を絞めて反動を更なる衝撃として打ち込むまでの一瞬に、はまやが握る御伽月の把持部が、金色の刀鍔柄を生成させてゆく。

 ― かりそめに 思い宿せることわりも、にわかに操れ 真南らしかわ ―

(ゆりかの声。超新星が見えた。電界を意識していた)

 はまやは、宮風の太刀筋の前照と磁界の変化とを感知した瞬間に、識覚が虚数抵抗と星々のありようへの知見を演繹させて、己の剣技と御伽月の機能とへ一斉に直介し、直面する状況を考慮するための短期記憶を省略しつつ、至短時間で防禦に転じたのだと究明する。

 はまやは次いで、先の瞬間に伝わっていた、全身への剣戟の衝撃と、心裡へのゆりかの黙示とから、御伽月は一端を柄に包まれていることに因って能力が制限されていること、御伽月と同じ素材が宮風にも用いられており、接触している者同士の意思を疎通させていることとを直感する。

(虚数空間か。御伽月は、放電している宮風の虚数抵抗に感応した。虚数空間はいかなる高次元をも超越し、すべての円同士は、実数空間でいかに離れていても虚数空間の虚円点を交点に持ち、半径零の点円は虚直線となる。遠方の恒星を縮退させて超新星を群発させたのは、鍔と柄との素材に用いる為の星間物質を爆発直後の爆心付近に同心球状に生成した上で、虚元素として虚数空間の虚円点と虚直線とを瞬時に介した射影変換の、虚実の空間座標計算を容易にするため)

 ― 舞い上がる あまたの星と行かしかれ 真南風に 吹かるるまにまに ―

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