第4話 トレジャーハンター vs 怪盗薔薇仮面

「なんだよ!薔薇仮面なんて名前!安直!軽薄多感症!姿を見せろ!」

「もどかしい言葉を並べ立てる少年だな。私の名は手向けの花の代わりなのだよ。それに私は既に、先ほどから君らの目の前に居る。このあたりだよ」

 咄嗟にまことを押しのけたはまやは、後ろ腰のベルトに挿した、月形の透明な物体が放つ水色の光をほのかに帯びて、面前に掲げた両手で鉄球を一つづつ掴み取っていた。

「ほお!レールガンの金属弾を素手で受ける留めるとは」

 空中戦艦の砲身の付近から届く男の声が、はまやへと切迫する。

「両手利きだからね」

「さっきの戦艦と同じだな!透明になって隠れてる!」

「そのとおり。この距離ならその弾丸は、第二宇宙速度を軽く超えるのだよ。せっかく君らのために用意した宇宙旅行への片道切符だったのだが、君は何か特別な鍛え方をしているのかね。それとも私の興味をそそる物でも使っているのか。よければ教えてはくれないかな」

「お互い目を見て話せればね」

「大した紳士振りだ!私も紳士でありたいと思っている。では仲間になろう。なってお互いの力をもっと高め合おうではないか」

「ひとりでやれば、なんでもできるさ」

「その万能感、私にも経験がある。孤高の美学を抱いたまま、仲間に囲まれて過ごすようにはなったが、若者にとって、とても自然なことだと思う。君の心の一端を理解出来たようで私もうれしいが、相手がいればこそ出来る事もある」

 はまやは黒薔薇の蜜の香りを、潮風の中に感じ取る。

「そこにいるな!」

「この香り、憶えがあるだろう。黒い獅子の移り香だ。あれは私の持ち駒でね。今から仇をとらせてもらうとしようか!」

 はまやは顔前をぬぐうように、全砲門から放たれたレールガンの弾丸を両手で受け止める。はまやの背後で、海の家の残骸が宙へはじけ飛ぶ。男が叫んだあたりで砂煙が蹴立てられ、はまやは堤防壁に上体を押しつけられる。はまやの腰に、精悍な男の体が跨乗している重みがある。

「やはり手数が多いと、衝撃波は消し残すようだな。そら」

 はまやの頬の横の壁面が弾けて、薔薇の形にえぐれ落ちる。はまやは立て続けに打ち込まれ続ける強烈な当て身を、両腕を立てて防ぐ。

「私の拳は、自然石も容易く砕くのだがね」

(この男、強い。手数が増え続ける上に、古流の「落とし」で、こっちに伝わってくるはずの技の起こり、技を繰り出すきざしを消している)

 はまやは拳圧に狭まる構えの中で男の力量を看破する。

「今どんな気分かね?私は久々に心身が熱くなって来たよ」

「月まで飛び蹴り入れてやりたいよ」

「こしゃくだな!とどめと行こうか!」

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