第9話

それから半年が過ぎた、冬。


僕はまた、二年前と同じ入り江の階段で、透き通った空を横切って淡く輝く天の川を眺めていた。


「多少条件付きにはなるけど、亜衣加は都会の普通の高校に通わせるつもりなんだ。お前の会社のすぐ近くだから、何かと面倒見てやってくれよな」


立ち寄ったヤッキの家で、上機嫌で酒をあおるヤッキが、いかにも漁師らしい丸太のような腕で荒々しく僕の肩を抱いて笑った。


「それにお前、いい歳してまだ独身なんだろ?あと二年も経てば亜衣加も結婚できる年齢だし……どうだ?お前になら安心して任せられるんだが」


などと絡んでくる酔っ払いに、


「あんな年頃の子とこんな歳の差で結婚なんかできるかよ。せめて高校出てから考えろって」


僕は苦笑しながら別れを告げてここへおもむいた。


プロジェクトの成果によって僕の会社も僕の名も一躍有名になり、僕は異例の抜擢ばってきで若き技術部長に就任した。


開発時以上の蜂の巣をつついたような忙しさの中、一度だけ先輩から、


「俺のおかげでもあるからな、俺が辞めて会社がヤバくなったおかげでお前の無謀な企画が通ったんだからな」


とよくわからない連絡が来た。


「先輩は戻って来ないんですか?今なら優秀な人材は大歓迎ですけど」


僕は本心からそう言ったのだが、先輩は自嘲じちょうのような皮肉のような小さな笑いと共に、


「お前の部下でなんか働けるかよ」


と電話を切った。








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