第8話

外科手術には既に、人間が映像を確認しながらロボットを操縦して行うオペ技術がある。


操縦者は同じオペ室にいることもあるが、通信が充分に保たれている環境であれば、はるか遠隔地から施術することも可能となる。


川上が言った「世界初の試み」とは、ほぼ地球の裏側のような他の国からのオンラインオペによって、この稀有けうで高難度な治療法を成功させることだった。


世界各国から訪れた記者や医療関係者などが病院の広い会見室に集められ騒々しい中、彼らをシャットアウトした病室では、ヤッキ夫婦がベッド上に座る愛娘まなむすめを長らく抱き締めていた。


が、やがてその腕を離すと涙をぬぐい、


「イナ……本当にありがとう……色々手を尽くしてくれて」


僕に向かって深々と頭を下げた。


「いや、まだオペは終わって無いんだから……。それに、いいんだよ。そりゃ地元の仲間を助けたいってのが一番だったけどさ、個人的にも自分の会社のこととか仕事のこととか色々あったし、そこにたまたま僕が川上と知り合いで、たまたまこういう話が来たもんだから、やらない理由が無かったんだ」


照れ臭さもあって、言い訳のように経緯いきさつを語る僕に、


「それでもイナさん、本当にありがとう。……あのね……初めてイナさんがうちに来た日、海で、イナさんがいるのはわかってたの。でも暗くて顔が見えなかった。うちに着いてからも、イナさんはお父さんとお母さんと一緒に懐かしいお友達同士のお話をしてたから、邪魔しちゃいけないなって、あんまりそっちを見れなかったの。だから私、まだイナさんの顔……」


と、亜衣加が言い掛けた言葉を、


「すみません、お時間ですので、お願いします」


病室に現れた看護師の声がさえぎった。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る