第7話

ほとんど記憶も無い程の目まぐるしい一年半の後、川上は一度だけ日本を訪れ、完成した製品を見て、


「いいね。流石だよ、ありがとう」


と僕に握手を求めた。


そしてオペの現場となる母校の大学附属病院を訪れ、そこに招いた、不安げに僕と川上をうかがうヤッキとエイ、既に視界が光で満たされながらも、


「よろしくお願いします、川上先生、イナさん」


と微笑んで頭を下げる亜衣加と初めて対面し、オペの説明を始めた。


中途半端な希望を持たせて上手く行かなかった時の落胆らくたんを思うといたたまれないため、ヤッキたちには連絡も取らずずっと内緒で進めてきたのだが、僕が開発したのは、まず超小型の高精細カメラを内蔵した黒縁の眼鏡だ。


これでも最大限に小型化したのだが、カメラや電源、映像送信回路、そして脳内に埋め込む装置に無線で電力を供給する機構を組み込んだため、一般的な眼鏡よりだいぶ重くフレームも太い。


川上は亜衣加の後頭部に小さな穴を開け、そこからレーザーメスを搭載した直径五ミリ程度の内視鏡を挿入し、症状を引き起こす部位を切除する。


そして切除した部位に厚さ百分の一ミリのフィルムを貼り付ける。


フィルムは、全体に超微細な電子回路がプリントされ、片面に剣山けんざんのような細かく大量の接続端子を配された受信装置であり、ICカードと同様、外部から、つまり眼鏡からの電磁誘導によって動作する。


と、ここまでは僕が開発した範囲内のことでもあり理解ができるのだが、その後の、どうやってその人工物が脳と接続されて生身と同様に視力を得ることができるのかという脳医学的な部分は、前にも聞いたが改めて説明されてもやはりよくわからなかった。


ヤッキ夫婦も同じくと思われ、神妙な顔つきでうなずいたり首をかしげたりしていたが、亜衣加はただじっと、川上の声がする方へと耳をかたむけていた。


「ま、細かいことなどわからなくても治るものは治るんだ、気にするな」


そんな僕らのことなどお見通しというような顔で、話し終えた川上が笑い掛け、


「脳に人工物を埋め込むという治療法自体はまぁまぁ以前からあるんだよ。担当する医者の腕さえ良ければ失敗することは無い、安心してくれ。しかし一応国家プロジェクトだから、オペそのもの以外にも色々とこなすべきノルマや残すべき功績があったりするものでね。ちょっとだけ、そういう打算的要請による『世界初の試み』が加わることになるが、許容してもらえるかな」


そう言って亜衣加に歩み寄り、その手を取って優しく握った。








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