第6話

翌朝、周囲に高層ビル群の立ち並ぶ大きな港に着くと、僕は真っ直ぐに自分の会社へと向かった。


予定していた休職期間が終わるよりもはるかに早く出社した僕に、周囲が色々と声をかけてきたが、僕は答えることも無く廊下を突っ切り階段を駆け上り、そして社長室の扉を叩いて勢い良く開くと、


「社長!会社の命運、僕に賭けて頂けませんか!」


簡素な椅子に腰掛け作業着姿でこちらをにらむ白髪の老技術者に、床に着きそうなぐらいに深く頭を下げた。


その後、勢いに任せて何の資料の準備もして来なかったまとまりの無い僕の話を、するどい目つきで眉間みけんしわを寄せながら、社長は無言でずっと聞いていたが、やがて大きく息をついて立ち上がると、


「人も仕事も減って、場所と時間が余ってる。今何か動かなければ大事なものをさらに失う一方だ。開発資金の方は私がなんとかしよう、それが経営者の仕事だからな。やろうじゃないか。苦境だからこそ新しいことに挑戦し、全力以上の力を発揮して乗り越えるのが、本当のデキる仕事人ってもんだろう?」


そう言って僕の肩を力強くつかみ、小さく笑いながらも真剣な眼差まなざしを向けた。


それから僕は、ろくに家にも帰らず休みも取らず、たまに川上に連絡を取りながら、取り憑かれたように求められる製品を開発し続けた。


カメラ本体は自社の技術で充分に事足りたが、問題は脳に埋め込む受信機の方だ。


最初はカメラからの映像を無線で受け取る単純な装置を想定したが、脳に埋め込むには大き過ぎるし、それなりの電力を消費するため電源を体外に有線で設置しなければならなかった。


「そういうレトロな方法では通らないよ。それにお前、うら若き乙女の頭からそんな配線が出てたりするなんて、かわいそうだと思わないのか?」


僕の提案をあっさりと切り捨てつつも、川上は、


「うぅーん、やはり……では、我々が必要としている装置デバイスについて、本当はまだ部外秘なんだが、ちょっとだけ話しておこうか」


と続けた。








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