第10話

川上もますます忙しいらしく、ヤッキの一家が直接感謝を伝えたがっているというメッセージを送ったが、返事も無いまま既に一ヶ月が過ぎている。


もう一度何か送った方がいいのかなぁ、とポケットからスマホを取り出そうとした時、波音に紛れこちらに向かって真っ直ぐに歩いてくる足音が聞こえて振り返ると、太い黒縁の眼鏡をかけた少女が、


「こんばんは、イナさん」


言いながら僕の隣へと辿り着き、腰を下ろした。


オペで剃った髪もだいぶ伸びて、冷たい海風に前髪が揺れていた。


「あぁ、亜衣加ちゃん。眼鏡の調子はどう?」


「はい。まぁ常に充電を忘れなければ問題無いです。眼鏡をはずすと何も見えなくなっちゃう感じにももう慣れましたし。あとでも……やっぱりちょっと重い……かな」


申し訳無さそうにうつむいてつぶやく亜衣加に、


「だよなぁ。でもこれだけの機器の軽量化って限界あるし……うぅーん……」


僕は抱えた課題に空を見上げ頭を巡らせ始める。


が、


「あの……ね」


と再び口を開いた亜衣加に、


「あ、あぁ、うん、ごめん、なぁに?」


我に返って振り向いた。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る