第4話

「イナ、お前映像の専門家なんだろ?お前のとこで、なんかこう、亜衣加の目をどうにかできる技術とか無いのか?」


そう言って結局自分も涙をぬぐいながらのヤッキが見送る中、歩き出した海沿いの遊歩道で、冷たい冬の海風に酔いを覚ましながら考える。


確かに、カメラの撮影原理と人間の視覚の原理は基本的には同じだ。


目の前の光景をレンズもしくは眼球がとらえ、反転した像がフィルム、網膜もうまくに映し出される。


それをどちらも大量の細かな受信素子で認識すると、電気的な信号に変換して導線や神経を伝わり頭脳へと届け、像を再び正位置に反転し直すなどの色々な処理を施して光景を再現する。


亜衣加の目は、この過程のどこに問題があるのか。


眼球に何らかの異常が生じて、視界がせまくなったり、光では無く影が増殖していく症状なら聞いたことがある。


カメラで言うとレンズの汚れや損傷に当たるが、しかし亜衣加のケースとは違う気がする。


配線の接触不良や断線で起きることでは無いし、となるとやはり頭脳の方に何かあるのか。


などと思案に暮れていると、


「おっと」


月明かり以外に街灯も無い夜道に、うっかりつまづき、足を止めた。


ふぅ、と息をつきながら目を向けた遠く水平線には、イカ漁の漁火いさりびが幾つも浮かんでいた。


「そしたら……ちょっと海の向こうの専門家にでも聞いてみるか」


僕はポケットからスマホを取り出し、通話アプリを開いて「川上紗理那かわかみさりな」をタップした。







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