第3話

その二人、ヤッキこと八槻道隆やつきみちたかと、その妻であるエイこと旧姓・仲海栄子なかみえいこと僕は、島の中学の同級生だった。


島から出ない者、島には無い高校だけ都会で通ってすぐ戻って来る者たちの結婚は早い。


中学時代から付き合っていた二人も、高校卒業後に島に戻ってすぐに結婚し、既に三人の子供がいて、その末子である亜衣加は今年で十二になるという。


「亜衣加を都会の盲学校に入れるかどうか迷ってるんだ。このままずっと島で暮らしてても、俺たち家族や島のみんなが守ってはいけるだろう。でも亜衣加の人生、それでいいのかとも思うしな」


「都会なら色々と援助施設もあるし、就職先とかも見付けてくれるのよ。こんな何も無い島でただ波音聞いてるだけで一生を終えるより、そっちの方が幸せなこともあるんじゃないかなって。あの子、成績もけっこういいんだし」


二人は僕を家に招き、酒を片手に、島ではごく当たり前でもある豪勢な魚料理をつまみながら、事情を話し出した。


「治せないのか?それこそ都会には最先端の大病院があるじゃないか。僕の出た大学にも医学部があって、世界的に有名な医者もけっこういるよ」


尋ねながら、奥の部屋で上の兄弟と並んでテレビを観ている亜衣加をちらりと見やる。


画面の中では、数人の若い芸能人が何やら争うくだりのようで、その一人が密かに小狡こずるい表情を浮かべて笑いを誘うと、二人の兄弟はげらげらと盛り上がっていたが、亜衣加は少し遅れて合わせるように微笑んだ。


「色々回ったんだがな、費用とかを度外視しても、そもそも症例としてかなり珍しいらしくて、日本では治療法が無いんだそうだ」


ヤッキが眉間にしわを寄せながら、濃い焼酎を一気にあおる。


「亜衣加が言うには、目の前に小さな光の点がいっぱい浮かんでて、それが日増しに増えていくんだって。最初は気にもならなかった程度のものが、今では視界の八割ぐらいが埋め尽くされてて、たぶんこのままだとあと一年もしたら全部が真っ白になる……って……」


拳を握り締めて涙を落としたエイの肩を、


「今さら泣くな」


とヤッキが叩き、抱いた。







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