第17話 考えてごらんなさい。正義の味方が存在するためには、何が必要なのかって。
美似は、言葉を発しない。
そこへ、ヘレニアが口をはさんだ。
「あーあ、見ちゃいられないわ。ここからは私が説明するわね。」
悪の組織連合の副代表にしてセクシーグラマーなヘレニアが続ける。
「私たちも、対魔法少女・悪の組織/侵略者連合を作っている。それも互助のためよ。」ヘレニアが続けた。
「愛田さん、正義の味方の存在の矛盾ってわかるかしら?」ヘレニアが聞いてきた。
存在の矛盾?まったく意味がわからない。
「正義の味方。言うのは簡単よね。でも、正義って、本来は相対的なものよね。戦争なんて、大義同士のぶつかり合いだしね。 それはさておき、正義の味方、と名乗るからには、正義に対する敵が存在するっていうことよね。つまり、正義の味方たろうと思ったら、敵の存在が不可欠なの。敵がいるから存在できるのが正義の味方。だから矛盾しているのよ。」 :
ヘレニアは言う。
「魔法少女じゃなくても、宇宙からやってきた大きな赤と銀の人だって、怪獣が襲ってこなければ無用の長物。ただの粗大ごみ、無駄飯食らいの邪魔者よね。」
…それは、あまりにひどくないか?あの人、カップラーメン食べられないんだから。3分待てないから。
その辺の理屈はわからないでもないが、疑問が残る。
「なぜ、その話をするのかな?正義の味方が矛盾を孕んでいるってこと。」
ヘレニアは笑う。
「あら、まだ気づかないの? もう少し考えてごらんなさい。正義の味方が存在するためには、何が必要なのかって。」
俺はふと気づいた。
「まさか…正義の味方が存在し続けるためには、悪の組織も存在し続けなければならない…。だとすると…」
ヘレニアは俺に向き直る。グラマラスなロケットおっぱいが俺の視線を射抜く。だが、今はそれどころではない。
「例えば、アリクイはアリの天敵よ。でも、アリクイはアリを食べつくすことはない。食べつくしたら、自分の食べるものが無くなり、死んでしまうから。」
「もしかして魔法少女と悪の組織も…。」
俺はちょっと信じられなかった。
「そうよ。やっと気づいたみたいね。正義の味方の魔法少女は、決して悪の組織を根絶やしにすることはない。それどころか、いつ、どこでどのように出現するかを決めているの。その調整役が、ヒーラーゴールドこと美似と、私ヘレニアの役割なのよ。」」
俺は驚いて美似を見た。彼女はうつむいている。俺と目を合わせないようにしているようだ。
「美似、どうなんだ…。」俺は美似に問いかける。
彼女は、力なくうなずいた。やはりそうなのか。
「だいたい、番組の中でだって不思議に思わない? 悪の組織が、なぜ魔法少女のいるところにばかり出現するのよ。 遠いところに出れば、邪魔されることがないのに、あえて魔法少女が出てきそうなところで悪事を働く。 その裏には、こういう理由があるのよ。番組にいるときから調整を続け、終わってからも継続する。それが、魔法少女と悪の組織の関係なの。」
ヘレニアは不敵に笑う。
俺はまだ信じられないでいる。
「もしかして、壮大な出来レースってことなのか…。」
「まあ、言い方は悪いけど、そういうことね。」
ちょっと顔をしかめながら、ヘレニアは認めた。
「むしろ共存共栄と言ってほしいわね。
ヘレニアは俺の目をじっと見た。大きな瞳に吸い込まれそうだ。
「だいたい、悪の組織のほうが大変なのよ。正義の味方ってほうは、適当にのんべんだらり、キャッキャウフフと過ごして、悪が出てきたらやっつけて人々に印象を残す。でも悪の組織のほうが、ちゃんと自活しているのよ。」
意外な発言だ。
「自活?」俺は聞き返した。
「そう。自活。悪の組織が生き残るためには、それなりにコストがかかる。組織だったら戦闘員を含めた従業員が食べていかなければならないし、怪獣、魔獣をあやつるならそのための餌代もかかる。」
怪獣の餌代って…そんな発想はなかったな。
ヘレニアは続ける。
「怪物たちは体に合わせた大飯食らいが多いしね。設定によっては、魔獣の餌が人々の恐怖心とか、敵が集めるのがピュアな心だとか、そんなものある。それを集めるために組織的に動いているのよ。」
俺は不思議に思った。
「どうやってそれを集めるんだよ。」
「それこそ、まっとうな方法ね。たとえば戦闘員、下っ端たちの生活のために、人材派遣会社を作っているの。運転免許も取って、物流やったり、ITに強い連中をシステム会社に送りこんだり。上流工程から現場まで何でもできるわ。PMもコードレビューもこなせる人材がそろってるのよ。あとは、建設会社とかね。こちらも現場監督から施工管理、玉掛に、コンクリ打ちから足場組み、飯場やプレハブ設置まで何でもこなせるわ。」
何だかよくわからないけど、人を派遣しているみたいだ。
「あとは、大規模アトラクションの運営とかもやってる。そこで恐怖心を集めたり、ピュアな心を少し分けてもらったり。でも、来る人たちの生活に支障を与えるようなことはしない。もちろん、コンプライアンスはきっちりしているわ。正しい悪を貫くためには、変なところでつまらない犯罪で捕まるわけにはいかないからね。」
何だか、悪の組織のイメージが変わってくるな。
「ついでに、司法試験を受けて弁護士になったり、公認会計士になる連中もそろえているわ。ちゃんと組織としてね。こうやって集めtあお金で、魔法少女たちと戦っている。むしろ養ってあげていると言ってもいいわね。」
「さすがに、養うは言いすぎでしょ!。」美似がやっと抗議する。
「愛田さんの弁当かすめとっているのに、よく言うわね。」ヘレニアが笑う。
「もちろん私たちは悪の組織だから、裏社会ともうまくやっているわ。お互いに共存できる範囲で、風俗とかも運営しているの。」
え?風俗?まあそのほうが、悪の組織っぽいな。
「風俗ってことは、キャバクラとかも一応あるんだけど、もちろん、本番もありよ。キャバクラよりも、本番ありのほうがお金になるかっらね。ちゃんと管理して、お金や健康、安全についてはしっかりと見てるわ。まあ、女の子たちはお金目当てじゃないから、そっちのほうも考えながらね。」
女の子の目当てがお金じゃない?じゃあ、なぜ風俗をやるんだよ。
俺はまたわからなくなった。
美似はうつむいたまま黙っている。
俺は、貧乏社会人だし、童貞だ。風俗のこともよくわからない。キャバクラも行ったことがないので、どんなものかわからない。たぶん、女の子がお酒をついでくれて踊ったりするのかな。触ったりするのかな。あれ、それは違うのか。うーん。知識がないから見当がつかないや。本番の意味はわかるけど、風俗でそれなしというのがどういう意味なのかもよくわからない。
「そこからは、僕が説明するよ。」
突然、白く、可愛くない猫だかうさぎだかわからない動物が現れた。
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