第16話 私たちが残るためには、条件があるの。

^第16話 私たちが残るためには、条件があるの。




翌日、店長は俺に話しかけてきた。

「昨日はありがとう。助かったよ。 結局、えエリアマネージャーの勘違いだったようで、更新しても解約しても出費はないってことみたいだよ。」


俺はほっとした。

「良かったですね。これでこのコンビニも安泰ですね。」

と店長に言う。


ところが、店長はちょっと暗い顔をして答えた。


「いや、そこなんだけど、そろそろ潮時かと思っているんだよ。」


え?


「すみません、潮時ってなんのですか?」俺は確認してみた。


「いや、このコンビニをたたもうかな、と思っているんだ。」


やはりそうか。

「そんな…契約は延長できるんでしょう?」

俺は一応聞いてみる。


7「ああ、それはそうなんだけどね。今僕は70歳近いからね。これから5年間コンビニの店長はきついよ。結局、人が集まらないと自分で夜勤しないといけないしね。もう体が限界だよ。」


それは…そうだろうなあ。



「実はね。愛田くんに店長を任せること考えたんだ。」店長は意外なことを言ってきた。


「え、そうだったんですか?」うーん。それにしても受けられるかどうかわからないけど。



店長は続けた

「ただね。このコンビニは儲かっていないから、君に店長の給料を払ったら、オーナーにお金が回ってこないんだよ。平たく言えば赤字なんだ。だから、このコンビニを続けるのは難しいんだよ。」


そうだったのか。だから、バイトの数をあまり増やさなかったんだな。。


売上とか収支についてあまり考えていなかった自分を殴りたくなる。



「この際、この家とか土地も売ろうかと考えているんだ。ゆっくり田舎暮らしでもしようかと。」


それは一大事だ。俺の職場だけでなく、家さえも無くなってしまうかもしれない。こんなボロアパート、次の人が買ったら確実に建て直しだ。


「そ、そうなんですか…」俺は力なく言った。いままで安泰だった生活が、足元からがらがらと崩れていく。


上の空のバイトを何とか終えて、部屋に戻る。いつも通り、ヒーラーGの美似と、猫のあるけどスが居た。


「何、いっちー、元気ないわね。どうしたのよ。」美似が目ざとく気づいた。



「ああ、実は…」と話し始めようとしたとき、ドアのチャイムが鳴った。


誰だろう。まさかかナミさんあたりかな。


出迎えに行く間もなく、ドアが勝手に開いて、一人の厚化粧したナイスバディの女性が入ってきた。

「お邪魔するわよ!」


胸の開いたブラウスに革のミニスカートとピンヒール。香水の香りも漂う。

入ってきたのは、なんと、悪の組織の幹部、ヘレニアだった。


「ヘレニア!また平和な世界を荒らしに来たのか!」俺は叫んだ。

だとしたら、俺ではなくて正義の味方の魔法少女たちの出番である。


だが、ヘレニアは首を横に振った。

「違うわ。ヒーラーゴールドに用事があって来たのよ。」


ヒーラーゴールドこと美似が嫌そうなな顔をした。

「何よ。今じゃなくたっていいでしょ。」


おや、戦うだけじゃなくて、本当に用事があったりするのか。


ヘレニアは笑った。

「あら、まだ彼に話してなかったの? そろそろいいんじゃないの?潮時だし。」

ここでも潮時か。一遍に物事が動くなあ。


「うるさいわね。そろそろとは思っていたのよ。」

美似が答える。


何だかこれ、いわゆる「今やろうと思ってたのに、やれって言うんだもんなあ。」

みたいな感じだ。


「私から愛田さんに教えてあげちゃおうか?」ヘレニアが楽しそうに言った。



「そんなのダメよ。説明はちゃんと私がするわ。それがけじめってものよね。」

美似がきっぱり言った。


けじめとか説明とか、いったい何のことだろう。


美似は俺に向き直って正座し、話しはじめた。



「ねえいっちー、私たち魔法少女がどうしてこの世界にとどまっているんだと思う?」

美似が俺に聞く。今日はヒーラーGではなくてヒーラーゴールドとして、可愛い素顔を出している。金髪が風もないのに揺れている。


「え、前に言ってたよね。作品が終わっても敵が残っているから、平和を守り続けるために、魔法少女はこの世界にとどまっているんだって。」


美似はちょっと寂しく笑った。

「うん。それは間違ってない。でも、それは一面でしかないの。」


俺はよくわからなかった。


「どういうこと?」


美似はちょっとうつむいて、それから決心したように顔を上げた。

「私たちが残るためには、条件があるの。」


「条件? どんな条件なのかな。」俺は聞いてみた。


「私たちがこの世の中に残り続けるためには、人々の記憶の中に残っている必要があるのよ。」


それだけ言われても、よくわからない。俺はまごついていた。それを見てとった美似は、そのまま続けた。


「私たち魔法少女は、もちろん人の作り出した、空想の産物よ。そして私たちが具現化してこの世の中にいる。それが可能なのは、人々の記憶に支えられているからなの。」


つまり、人が覚えているから、皆が存在していられるっていうことか。


俺はおそろおそる尋ねた。

「じゃあ、人々が忘れてしまったら…_?」


「そう、いっちーの想像する通り。消えてしまうの。」

美似は淡々と答えた。


「私たちヒーラーブームのように、強いコンテンツはなかなか消えることはない。それだけ、人の心に深く刻まれているからね。でもそれでも完全に大丈夫とは言えない。」


そうなのか。永遠ってことはないんだな。


「私たちメインキャラ5人は、5年も続いているし、忘れられることは無い。でも、6番目の子は目立たないからわからない。7,8,9はマニア的な人気があるんだけどね。」


そういうものなんだろうか。


「まさかたちもよ。あの番組は、続編はすぐに出なかったから、ほんの1クールで終わったの。主人公のまさかはいいとして、次は最後に全部をさらっていったもむらもまあ安泰ね。その次にみんなに覚えられるのは、最初に死ぬことで強い印象を残したナミなのよ。」


だからナミさんは元気なのかな。


「もっとマイナーな魔法少女たちは、なおさらよ。 だから、私たちは魔法少女連盟を作ったの。」」


俺は聞いた。

「じゃあ、連盟の目的は何なの?」


美似は答えた。

「もちろん、皆の生き残りよ。みんなの継続的な存在そのものが目的になっているの。」


生き残りたい、生き残りたい。ただ生きてたくなる。


まあ、誰でも死ぬのは嫌だし、消えるのも嫌だ。俺だって消えたくないもののあ。


あれ?前は、悪が残っているから、正義の味方の魔法少女たちもこの世に残っているって言っていたけど、ちょっとひっかかるな。



「あれ、それじゃあ、悪の組織が居てもいなくても、みんな残っていたいっていうことなの?」


浮かんだ疑問を、率直に聞いてみた。


その途端、美似の美しい顔が、驚くほど歪んだ。苦しそう、辛そうな顔だ。


ヒーラーブームのメンバー中の人気者、ヒーラーゴールドの人気の理由は、そのチャーミングな外見だ。金色に輝き風になびく長い髪、長くはっきりしたまつげと大きな目、抜けるような白い肌。小さく可愛らしい口。彼女の魅力はなかなか短い言葉では言い表せないくらいたくさんある。 


だが、その特徴が色あせるほど、彼女は辛そうな顔をしていた。


「美似、大丈夫かい?」俺は心配になって尋ねた。


美似は何とか答える。

「いっちーは優しいね。そういうところ、本当に大好きよ。だからこそ言えなかった。そして、そろそろ潮時なのもわかっているの。でも…」


美似の美しい瞳に涙が浮かぶ。

その姿を、アルケゴスがじっと見ていた。


ーーー

久しぶりの更新になりました。

ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。


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