第8話 愛田さん、これ以上口をきいたら水をぶっかけます
マリアちゃんの話は熱を帯びてきた。
「ヒーラーブームのメンバーは、主に5人です。それ以外もあとから出てきますが、当面の理解には不要です。」
ふむふむ。
「メインキャラクターは、ヒーラーブーム。中学2年生の女の子、次野うねりが変身して、ヒーラーブームになります。彼女は軽い予知能力があり、流行をある程度おしはかることができます。彼女のフレーズ『次に流行って、驚きよ!』というのが予想の決めセリフですね。技はいろいろありますが、ヒーリングエスカレーション、というのが有名ですね。敵を癒して浄化します。 ちなみに、5人の中で一人だけ彼氏がいます。サイタマタモツくんという男の子で、ランニング仮面、として時々彼女を助けます。」
サイタマってワンパン●ンかよ。ランニング仮面って山下清か?
突っ込みたいが、我慢する。
マリアちゃんが続ける。
「二人の間には、ちびうな、という娘ができます。」
おいちょっと待て。中学二年生だよな。
俺は手を挙げる。
「はいどうぞ。」マリアちゃんが指名してくれる。
「中学二年で子供を作るって、そんなの受け入れられるの?」
俺は聞いてみた。
「ちゃんと設定があって、二人が未来に結婚して娘が生まれ、その娘が現代にタイムトラベルしてきた設定です。」
うーん、よくわからない設定だな。
まあいいか。中二で明らかにやっているわけではないんだな。
「少女漫画ですから、あまりハードなシーンは出てこない、といいたいところですが、実は原作ではきわどいシーンも出てきます。まあ、そうじゃなくてもキスシーンあたりはありますね。 恋に恋する少女の憧れってとこでしょうか。」
だから、美似が「色ボケバカ」と言っていたのか。
ちなみに、性格は基本的にバカだがみんなに支えられてリーダーとして頑張るんだそうな。
ヒーラーブームの話がひとしきりあり、その後メンバーの青鮫ヤミ、赤身レア、緑野タマキの説明が続いた。
マリアが続ける。
「最後にヒーラーゴールドですね。さっき言ったように、元からいたキャラクターです。少女漫画の主人公だったこともあり、女の子に人気です。ヤミちゃんとかレアちゃんは、男の子、というか大きなお友達にファンが多いですね。」
なんだよ、大きなお友達って。
「ヒーラーゴールドは金色のミニスカートを履いています。だから名前も金乃美似(きんの みに)、となっています。
しっかり者で可愛いので女の子に人気ですね。美に対して貪欲、とも言われます。たぶん5人の中では一番かわいいと言ってもいいでしょうね。」
おお、そうだったのか。やっぱりなあ。
「でもキャラとしてちょっと弱かった。だから、バカだけどパワーがあるヒーラーブームをリーダー0にしたんですね。」
…そうなのか。美似も大変だなあ。。
マリアちゃんは時計を見て言った。
「時間切れです。今日はこれまで。」
もう4時になっている。仕方ないな。
「スイーツはあとで私がいただいておきます。愛田さんにはお土産があります。」
彼女はそういって、俺に平たい箱を渡した。
「傾けないでくださいね。部屋に戻ってから開けて下さい。ではお引取りください。」
俺はうなずいて、箱を持って部屋を出る。
「今日はどうもありがとう。話も参考になったし、パスタもサイ●リヤで出せるくらいおいしかった。」
「愛田さん、これ以上口をきいたら水をぶっかけます。とっとと帰って下さい。」
「え?」俺は耳を疑った。
「帰れ!」彼女はそう叫んで、俺を蹴りだしてドアを閉めた。とりあえず手に持った
土産は無事だった。鍵とチェーンを掛ける音がした。
何で怒らせたかわからない。このまままでは、魔法少女まさか★マジかの話が聞けないかもしれないな。
俺はとぼとぼと部屋に戻った。
4時半になったところだ。
突然携帯が鳴った。見ると店長からだ。
「愛田くん、休みのところ悪いんだけど、いまからシフトにはいってくれないか。会社員バイトの人が急に来られなくなったんだよ。」
ほかならぬ店長の頼みだ。俺はもらった箱を冷蔵庫に入れ、そのまま店に向かった。まあ一分で着くんだが。
「愛田君、ありがとう。」白髪の店長は、本当に嬉しそうに言う。
まあそうだろう。俺が来なければ、いきなりロングになるところだ。
「じゃあ、僕は休ませてもらうよ。:そういって店長は家に戻った。
ここのコンビニは、夕方から夜にかけて客が多いので、ワンオペはきかない。8時を過ぎれば落ち着くので、バイトの人はそこまでのことが多い。もちろん俺は職住隣接なのと店長に恩があるので、いつでもOKだ。
…体よく使われているワーキングプアだ、と言えなくもないんだが、それはそうは思わない。何故なら、店長が同じくらい、いや俺以上に働いているからだ。
70近くで夜のワンオペは当たり前。人繰りがつかなければ朝でも夕方でもシフトに入る。店長って管理職で、命令だけしたらいい気楽な職業かと思えば、全然そんなことはない。
店長の健康が気になるところだ。店長が倒れてしまったらこのコンビニは回らない。だから、店長にはできるだけ休んでほしいし、俺はできるだけ店長を支えたい。
それが、自分の職を保障することにもなるのだから、結局自分のためなんだよな。
弁当とおにぎりとピーチサワーと発泡酒といかくんを買って(ただし弁当とおにぎりは廃棄分をもらっている)帰宅する。
今日も美似とアルケゴスだけだ。
「いっちー、お帰り~」美似が言う。
「おいおい、いっちーはないだろ。」俺は呆れる。
「いいじゃん。一郎だからいっちーで。可愛い女の子にいっちーとか呼ばれて、嬉しいでしょ!」美似が押しつけがましく言う。
うーん。
「確かに美似は可愛い。それは認めよう。でもな。美人は三日見れば飽きるんだよ。」
俺はストレートに言った。
「ひどおい!」美似は膨れる。
「そんなこと言うから、パイにあんなこと書かれるのよ!」アルケゴスが言う。
なんのことだろう?
俺が不思議そうな顔をしていると、美似が言う。
「あなた、これ見てないんでしょう!」
そう言うと、冷蔵庫から箱を出してきた。
開けてみると、アップルパイではなくて、チーズケーキのようだ。、全体的に白い。
ただ、その上に、赤いソースのようなもので字が書いてある。
シンプルに 「バカ」と。
…マリアちゃん、そこまで俺のことを怒っていたのか。
「ねえ、いったい何したの?」
美似が聞いてくる。
俺は、事情を話した。
できるだけ忠実に再現してみた。
話をすればするほど、美似が微妙な顔になっていった。
だいたい話終えると、美似は言った。
「私なら、ゴールドチェーンの必殺技であなたを八つ裂きにしていたわ。」
…そうなの?
「あなたね。フラグをすべてへし折って相手を褒めるふりをして貶めて、何が楽しいの?どうしてそこまで、人としてそんなことができるの?」
…マリアちゃんの被害妄想じゃないのか。
「正直、あなたは死んだほうがまし。女の子の敵ね。魔物よりたちが悪いわ。精神攻撃の超能力者かと思うわ。」
うーん。よくわからない。
「平たく言えば、あなたはまともに女の子と話ができないってこと。」
…ひどくないか。
「美似だって女の子だよね。」俺は反撃を試みる。
「そうよ。でも、あなたにはまったく期待をしていないからいいの。ゴキブリと話をしてると思えばいいかしら。」
…そこまでか…。
「少しだけ教えてあげる。女の子の手作り料理を大量生産のチェーン店の物に例えるのは、『お前の飯を食うより、大量生産のレストランではした金で食える安っぽい料理を食ったほうがマシだ』って言ってるのと同じよ。」
「ひどい男だな。そんなことを言う男がいるのか?」
「…あなたはそう言ってたのよ。」
そうなのか…。
「あと、女の子と一緒にいるときに、彼氏の話なんかしたら絶対にダメ。」
「…そうなの?」
「当たり前でしょ、この唐変木。」
…知らなかった。
[だいたい、彼氏とラブラブだったら、絶対に男を部屋に入れないわよ。」
「そうなのかもしれないな。俺には彼女がいないからよくわからないけど。」
俺は正直に答える。
「本当にそのとおりね。彼女がいないというか、女の子と付き合ったことがないのはよくわかったわ。だいたい、手料理をふるまってくれるのにケーキを買っていくっていうのは、『お前の料理じゃどうせ満足できないからせめてデザートは市販のもので口直しさせろよ。』って言っているのと同じよ。相手から頼まれたのならさておき、そうじゃないなら、花束でも持っていきなさい、このアンポンタン。」
…なんか懐かしい単語が出てきたな。
「とにかく、いっちーは今日、女の子を一人ものすごく不快にさせて傷つけた。たぶん彼女は、あんたを『死ねばいいのに』って思ってるわ。」
美似は平然と言う。
「どうすればいいんだよ…。」俺は頭を抱えた。
「とりあえず、余計なことは言わずに謝りなさい。変に説明すると、あんたは絶対に相手を傷つける。悪気無くても、不快にさせるんだから。」
だからどうすればいいんだ。
「たから、悪かった、不快にさせてごめん。それだけでを言い続けなさい。あれはああ言う意味だった、なんてことを言ったらまた地雷を踏むわ。」
そうか。説明しようとしたけど、止めたほうがいいのか。
「わかった。肝に銘じておくよ。美似は、女心がよくわかってるんだな。さすが年の効だ。」
パシッ。俺の頬にヒーラーGのビンタが飛んだ。
「いい加減にしなさい。口を慎め。ちょん切るぞ!」
どこをだかわからないけど、これは確認しないほうが良さそうだ。
ーーー
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
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他には何もいりません(いや、それはウソです、レビューもコメントも嬉しいです。でも★が欲しい!)
ちょっとなりふりかまわず書いてみました。
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