第9話 たぶん、その夢はかなってないようだね。
第9話
今日もマリアちゃんがシフトに来た。といわけで、俺は彼女を送る。
何も言わないほうがいいだろうか。だが、先日のお詫びもしないといけないと思う。
というわけで、帰り道に俺はマリアちゃんに話かけた。
「マリアちゃん、この前はご馳走様でした。そして、ごめんなさい。いろいろ変なことを言ったみたいで申し訳ない。」
「もういいです。」マリアちゃんは言った。
「愛田さんは、これ以上余計な口をきかないでください。それがお互いのためです。」
かなり冷たい。
「そんなことを言われても、俺としては謝りたいんだ。」
「だからもういいんです。愛田さんは、謝るとかいってもナチュラルに人を怒らせたり傷つける天才です。あなたが何を考えていても、結果として私は不快になる可能性が高いです。だから、必要最低限のこと以外は黙っていてください。」
ぐうの音も出ない。たしかに、俺は自分で意識しないのに変なことを言ってしまいそうだ。
「じゃあ、今日は魔法少女まさか★マジかの話をしましょう。」
おお、ありがたいな。ただ聞いていよう。
「5年も続いたヒーラーブームとは違い、まさか★マジかはただの1クールです。ワンクールは12-13回です。言ってみれば季節一回分ですね。このほんの短期間で、このアニメはブームというか論争を巻き起こしました。」
「それは、どうしてかな?」
俺は聞いてみた。
「本来は、ネタばれは厳禁なんですが、この部分だけは説明しておきましょう。最初は、普通の魔法少女アニメだとみんな思いました。可愛い女の子が魔法少女になって、魔物と戦う。そんな正義の味方、大人も子供も楽しめるアニメ、だと。」
「…ちがったの? 」
「だいたい深夜アニメがただの子供むけになるはずありません。しかも作っていたのが、可愛い絵でひどいホラーチックな作品『血だまりスイッチ』を作った人なのです。」
「そんなタイトルのアニメなんて作れないよねえ?」俺は確認してみた。
「実は、血だまりは通称で、本当はひだまりです。」
そうするとなんだかほのぼのとした感じだな。
「このアニメは途中で急展開します。主人公のまさかを導く先輩、ナミさんがいきなり魔物に食われてしまうんです。」
「…まさか、マジか。」俺はナチュラルにこのタイトルを口にしていた。
「でしょ?』マリアちゃんは言う。
「当時、魔物に食われることを『ナミられる』とまで言われたほどです。ものすごいショックですよね。 ちなみに、その後、ダイジェスト的な劇場版が作られました。そのとき、何も知らない小学生がお母さんとかおばあちゃんに連れられて見に行って、トラウマになったなんて話もありました。」
「…そんなの、絶対おかしいよ。」俺はそう言わざるを得なかった。
「でも、その次の次の劇場版ではナミさんも復活したしね。」マリアちゃんは言う。
そういえば、ナミ自身もそんなことを言っていたような気がする。
「それに、この前に見たのは、やっぱりナミさんだと思う。だから、彼女は生きている。少なくとも、私の心の中には生きているんです。」
何だか、自分に酔っている感じがする。まあ、いいんだけど。
「マリアちゃんは、魔法少女が大好きなんだね。」俺は言ってみる。これくらいなら別に傷つけることにはならないだろう。
「そうなんです!」彼女は意気込んで言う。
「魔法少女は、女の子に夢を与えてくれるんです。」
暗いから良く見えないけど、たぶん彼女の瞳はきらきら輝いているのだろう。
「夢かあ。マリアちゃんが、魔法少女からもらった夢は何なのかな?」
興味深いので聞いてみた。
「笑わないでくださいね。」マリアちゃんが言う。
「もちろん、笑わないよ。」俺は答える。というか、それ以外にどう言えと?
「一番は、魔法少女になりたかったんです。」
ここ、笑うトコなのかな?でも別に笑うようなものでもないよな。俺だって仮面●イダーやウルトラなんたらになりたかったしな。ただしなあ…。
「たぶん、その夢はかなってないようだね。」俺は言う。
「…そんなこと、わざわざ指摘しなくてもいいです。」
ぶすっとしながらマリアちゃんが言う。
…またやってしまったのか。
「二番目以降はなにかあるのかな?」話題を変えるつもりで聞いてみた。
「魔法少女に会いたい、というのが二番目です。それは、この前ついにかないいましたね。あれは絶対にナミさんです。」
うん、君は正しい。俺からは言えないけど。
「そうなのかもしれないね。」俺は何となく答ええる。
「それから、もう一つの夢は、魔法少女とお友達になることです。」
マリアちゃんは続けた。
「魔法少女とお友達になって、魔法少女の戦いの話を聞かせてもらうんです。もちろん、恋の話も。」
そういえば、セーラーブームにはサイタマとかいう彼氏がいたんだっけな。
そうこうしているうちに、彼女のアパートに着いた。
さすがに今日は部屋に入らないか聞かれることもなだろう。
アパートの下で、俺は言う。
「じゃあ、今日はこれで。」
マリアちゃんは言う。
「愛田さんに対するペナルティも考えておきますからね。」
「…お手柔らかにお願いします。」
俺はなんとか店に戻った。
それからも毎晩のように、俺の部屋には魔法少女たちがやってきた。
コミュ障っぽい「明手もむら」という女の子が来たときには、会話に困った。
彼女は赤面して口ごもり、まともな話が出来ない感じだったのだ。そして帰る前に突然、「今とは違う自分になろうだなんて絶対に思わないことね。さもなければ、すべてを失うことになる。」という謎のセリフを残して去った。あわあわツンツン、あわツンさんだ。
あと、クリピュアが来るようになってから、人数が多くなるので、持ち帰る弁当も、常備する飲み物も増えていった。一遍に6人とか来るなよ。こんな狭い部屋に。
でも女の子たちは仲良くこたつに並んで座り、お喋りしている。
楽しそうなのでちょっと聞いてみよう。
「●●ちゃん、闇落ちしたらしいよ。」
「あ、私も聞いた。アキバの外れでお客取ってるって噂ね…。:」
何か、聞かなかったことにしよう。
ここにいるうち、一人は一昨日も来ていたな。
「そういえば、あなたは一昨日もいらしてましたね。ピュアイエローさんですよね。」
一人に声をかけた。
彼女は真っ赤になって怒った。
「何を言っているんですか!失礼ですよ!私は初めて来ました。私の名前はピュアバナナです! イエローみたいな無芸なやつと一緒にしないでよ! 今度間違えたら、バナナプッシュで窒息させてやるから!」
「す、すみません失礼しました。」俺は土下座して謝った。
…何で、俺は自分の部屋で土下座しているんだろう?
」
ところで、バナナプッシュって何だろうなあ。可愛い必殺技だなあ。でも必殺だから殺されちゃうのかもしれない。どんなものか聞くのはやめておくことにしよう。
美似が手招きしてきた。
近付くと、こっそり教えてくれた。
「クリピュアのみんな、他のシリーズの連中と間違えられるのが一番嫌なのよ。実際似てるのもいるのよ。同じ色で、服のデザインも似ていて、顔も似てたり。シリーズ長いとしょうがないんだけどね。違う名前を言うよりは、もう一回聞くほうがまだいいから。」
そうなんだな。シリーズ変えれば問題解決とは限らないんだなあ。
ーーー
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
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他には何もいりません(いや、それはウソです、レビューもコメントも嬉しいです。でも★が欲しい!)
ちょっとなりふりかまわず書いてみました。
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