第7話 愛田さんは、しゃべらなければいい人なんだと思うことにしますから
いつものように部屋に戻った俺を待っていたのは、激おこプンプン丸のヒーラーGとアルケゴスだった。
「昨日はどうしたのよ!無断外泊は補導するわよ!:」ヒーラーGが叫ぶ。おい、ヒーラーGよ25歳の男を捕まえて補導はないだろう。
「お魚が食べられなくて悲しかったわ。乙女の期待を裏切るもんじゃないわよ!」
アルケゴスも文句を言う。
まあ、実際のところは、昨夜不在で、話し相手がいなかったことにお冠らしい。
「昨日はロングだったんだよ。」俺は言う。
「ロング?」
「ああ。夕方4時から、朝の8時までの16時間シフトのことさ。バイトが足らないと、こういうことを頼まれる。特に夜中のシフトは人がいないからな。店長ができないと、誰もいないことも多いんだよ。だから俺も時々ロングでやってる。」
俺は説明した。ほんと、人手不足はなんとかならないものかな。
「まあ、仕事なら仕方ないわね。でも、次回から、帰ってこないときは事前に言うのよ。こっちにも都合ってものがあるんだから。」
人の家に勝手に押しかけておいて、何が都合だよ。と、思っても何も言わない小心者の俺だった。
「ああ、わかった。次回のロングの前には必ず伝えるよ。」俺は肩をすくめながら答えた。
「で、今夜のお魚は?」アルケゴスが聞く。
「ちょっと珍しい、さんま弁当だ。外の皮はかなり塩がついてるから、外すぞ。「
俺はアルケゴスに言う。
「いいわよそのままで。」アルケゴス答える。
「私は特殊個体だから、塩味がきつくても問題ないのよ。ちなみにケーキも食べるわ。」
アルケゴス、お前は本当に猫なのか?
まあいいや。
「っわかった。じゃあ、さんまそのまま温めなおすからな。」俺は答える。
「お願いね。ただ、できれば小骨は取っておいてちょうだい。ちなみに美似の分は何かあるの?」ぜいたくなことを言う一方、気配りのできる猫だな。
「今日もピーチサワー。あとはおにぎり2つってところだな。」
「おにぎりはどんなのなの?」ヒーラーGが聞いてくる。
「梅かつおと塩昆布だ。」
俺は答えあえる。 おにぎりの売れ残りは本当に日替わりだ。何が残るかはまったく予測がつかない。
「まあいいわ。両方頂戴ね。」ヒーラーGはあっけらかんと言う。
ま、いいか。
今日は二人、というか一人と一匹だけだった。そういえば昨日のゲストは誰だったのかな。
あとで聞いたら、ヤンデレの青鮫ヤミだったようだ。ある意味ラッキーなのかもしれない。
日曜日になり、有馬マリアちゃんの部屋を訪れることになった。
正直緊張する。何を持っていけばいいかわからない。
検索してみたが、よくわからかなかった。
だいたい、彼女の好みを知らないのだから、検索しても答えはない。
仕方なく、近所のケーキ屋で売っているスイーツのうち人気のものを選んでもらうことにした。 で、結局キャラメルマキアートメロンケーキと季節のフルーツタルト、というわけのわからないものプラス定番、という形になった。
ドアベルを鳴らすと、エプロン姿のマリアちゃんが出迎えてくれた。
「いらっしゃい。どうぞ。」中に通してくれた。
まあ、もともと狭い部屋だ。ソファ以外に座るところはベッドくらいなので、ソファに座る。そして、ケーキを手渡す。
一瞬、マリアちゃんの顔が曇ったような気がした。まずい。お菓子は用意していてくれたのか。
「ありがとうございます。あとで食べましょうね。」マリアちゃんはそういってケーキを冷蔵庫に入れた。その時、冷蔵庫にアップルパイらしいものがあるのを見てしまった。
やってしまった…。俺は内心頭を抱えるが、仕方ない。
「ちょっと手を洗わせてもらえるかな。」俺はそういい、何とかその場を離れた。
洗面台で手を洗うと、タオルを手渡してくれた。なんという気遣いだ。
マリアちゃんの彼氏は幸せものだろうな。
マリアちゃんが用意してくれたのは、パスタとスープ、そしてサラダだった。
定番といえば定番だな。パスタは蝶々の形をしたもので、赤いのではなくて白いソースがかかっている。グラタンの親戚みたいな感じだな。
スープはトマト味らしいミネストローネ。これがあるから白いパスタなんだな。サラダのドレッシング7はどうやら手作りのようだ。 いずれにしてもかなり手がかかっていると思う。
二人で並んで食べることになった。
「いただきます。」二人で声を合わせる。
「なんだか小学校の給食の時間みたいだね。」俺は感想を言う。
マリアちゃんはまた微妙な顔をした。
…まずいかな。
「もちろん、食事はむしろ高級レストランに匹敵するよ。」
俺は付け加えた。
ちょっと沈黙が場を支配する。
そして、マリアちゃんが笑い出した。「愛田さん、言いすぎ。それじゃあ褒められた気がしないよ。」まあそうかもな。。
「ごめんね。女性をほめるのに慣れてなくて。」
「もういいです。それで、おいしいですか?」
それはもう。
「本当に美味しい。パスタはちょうどよいやわらかさだし、塩加減も完璧。こしょうのアクセントも効いているし、ベーコンがいい味を出している。控え目にいって絶品だね。」
俺は味わいながら褒める。
マリアちゃんが嬉しそうな顔をする。。
「スープもいいね。野菜からいい出汁が出ているのかな。単なるトマトの単純な味じゃなくて、複雑な感じがするよ。セロリがいいのかな。 あと、サラダのドレッシングも酸味がきいていて美味しいね。これも手づくりなのかな。」
マリアちゃん、俺の横で赤くなってる。
かわいいな。
「本当においしいよ。これならサイ●リヤのセットとして出せるね、」俺が知っているイタリアンレストランはそこくらいだ。
マリアちゃんの顔がちょっと引きつったような気がした。
「本当に料理上手だね。マリアちゃんの彼氏さんは幸せ者だね。」
俺は褒めたつもりだった。
次の瞬間、マリアちゃんは泣きそうな顔をして台所へ走っていった。
また何か間違ったのだろうか。もしかして、彼氏に料理をディスられてるのかな。
「マリアちゃん、彼氏がなんと言おうと、君の料理はサイ●リヤで出せるくらいおいしいよ。」俺は付け加えた。
「もういいです。」マリアちゃんは微妙な顔をしながらもきっぱりと言った。。
「愛田さんは、しゃべらなければいい人なんだと思うことにしますから。」」
「え、それってどういう…」
「黙れ!」
ついに怒鳴られてしまった。
「これからは私が質問したときだけ喋ってください。いいですね?」
「でも…」「これ以上従わないならなら追い出します。」
「それはひどくないか?」
「警察を呼びますよ。」
さすがの俺も黙った。
もう、魔法少女どころではない。とにかく、これ以上マリアちゃんを怒らせないよう、気をつけるしかない。
「食事はもういいですか?」マリアちゃんが俺に聞く。
俺は黙ってうなずく。
「じゃあ片付けます。」そういって彼女は食事を片付けた。俺も手伝おうとしたが、「愛田さんは座っててください。邪魔です。」と言われた。
仕方なく座っている。
マリアが緑茶を淹れて持ってきた。
「どうぞ」
「ありがとう。」これくらいは喋ってもいいだろう。
マリアが横に座る。
「じゃあ、ヒーラーブームの話をしますね。質問があったら手を挙げてください。口は挟まないように。」
俺はうなずく。
「『癒し美少女ヒーラーブーム』は、今の戦闘系、あるいは正義の味方系の魔法少女アニメの礎となtった記念すべき作品です。」
おお、いきなり大上段で来たな。
「コミック、アニメとも売れ、主題歌もカラオケでよく歌われました。コミケではレイヤーが多数いて、現場での合わせも多数グループができたほどです。リリースから四半世紀を経て、いまだに人気があります。劇場版も作られたし、グッズも売れました。海外進出もしています。最近も記念にリメイクもされたし、いわゆる2.5次元ミュージカルにもなりました。ミュージカルも最近リメイクされています。」
なんだか専門的な単語が混じっていてよくわからないな。だいたい2.5次元って何だよ。2次元でも3次元でもないのか?
あ、ちょっと聞いてみよう。
「ヒーラーGっていうのは何?」
「質問は手をあげて、と言いましたよね。まあいいです。ヒーラーGというのは、ヒーラーブームの元になったとも言えるコミック、『コードネームはヒーラーG』ですね。ヒーラーGという少女が悪と戦うのです。それがある程度人気になったので、それなら増やせばもっと人気になるのでは、というのでチームに格上げして始めたのがヒーラーブームです。」
格上げされたのか。
「ただ、その時に設定が追加されたので、ヒーラーGはリーダーではなく、一人のメンバーになりました。ちょっと気を遣ってか、最初のほうの出番では優遇されましたが、途中からはワンオブゼムですね。ちなみに、ヒーラーGは仮面をつけていて、ヒーラーゴールドは素顔です。他の連中と合わせるためです。」
ふーん。そうなのか。美似もなんか可哀そうだな。
「その結果、大ヒットになり、設定追加は大成功です。その余波でヒーラーGのコミックも売れたので、それはそれで悪い結果ではないでしょうね。」」
そういうものなのかもな。
ーーー
ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
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ちょっとなりふりかまわず書いてみました。
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