第6話 いい死に方じゃなかったわね。教えてあげましょうか?
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翌日店に行くと、普段どおり女子大生の有馬マリアちゃんが働いていた。
レジに入っていた俺の顔を見ると笑顔を見せた。
結構可愛いな、と改めて思う。制服で隠しきれない胸の大きさも魅力だ。
客が一段落したとき、マリアちゃんは言った。
「本当に昨日はありがとうございました。あとから怖さがよみがえってきてちょっと心細くなりましたけど、何かあったら愛田さんが来てくれると思ったら、落ち着きました。
改めてお礼をさせてください。」
そういって頭を下げた。
「シフトのことは大丈夫なの?店長から聞いたかな?」
俺は聞いた。
「はい、聞きました。夕方は忙しいので一時間延長になりました。9時までですね。」
「そうなんだ。バイトは当分続けてくれるんだね。良かった。」俺も笑顔になった。
これで店長もほっとしているだろう。
「今日も送ってくださるんですよね。」マリアちゃんが尋ねる。
「うん、当分そうなると思うよ。」俺は答える。
「休み時間なくなっちゃってごめんなさい。」
マリアちゃんが言う。
「そんなのはいいさ。9時ならどうせあと3時間だけだしね。さあ、仕事しよう。バックヤードの飲み物を冷蔵庫に入れてくるよ。」俺はそういって彼女から離れた。
この時間にシフトに来ている近所のおばちゃんの三石さんが、興味深そうな顔で見つめていたが、気にしないことにした。
おばちゃんの好奇心につきあってなんかいられないからね。」
9時になり、店長がやってきて、マリアちゃんがあがった。
「店長、一時間弱、ワンオペお願いしますね。」俺は言う。
「まあ、慣れてるからね。廃棄は君が帰ってきてからやってね。」
さすがわかってらっしゃる!
マリアちゃんを送っていく道すがら、マリアちゃんが俺に言う。
「改めてお礼させてくださいね。あまり高いものはお渡しできないけど、気持ちの問題なので。」
ありがたいことだ。まあ、まあり高いものは経済的にきついだろうし、彼氏がいるなら申し訳ないしな。
「それならお願いがあるんだ。他の女の子じゃなくて、マリアちゃんなら簡単にできることなんだけど。」俺はもったいをつけて言った。
「何ですあ、それ?」マリアちゃんが不思議そうに言う。
「俺に、魔法少女のことを教えてくれるかな。とくに、「癒し美少女ヒーラーブーム」と、「魔法少女まさか★マジか」を中心にして。」
これは結構重要なんだよな。ヒーラーGたちからは都合のいいことしか聞けないような気がするからな。
マリアちゃんは嬉しそうに言う。
「そんなのでいいんですか?何時間だって何日だってお話できますよ。」
「まあ、基礎的な知識を教えてくれたらいいよ。あとは、時々質問に答えてくれればね。」これで情報源は確保できそうだ。
「わかりました。日程を決めて時間をとりましょう。愛田さん、お休みは日曜日でしたっけ?」
マリアちゃん、よく知ってるな。週末は副業的なバイトの会社員とかOLがいるので、土日は休みのことが結構あるのだ。
「うん。基本的にそうだね。まあ、日曜の夜中から月曜の朝までシフトは時々あるけどね。」
さすがにその時間は、副業社会人は絶対来られないからな。
「よければ、今度の日曜、1時くらいに部屋に来てください。お昼を食べて、いっぱいおしゃべりしましょう。」
何か、ノリノリだな。
「うん、ありがとう。楽しみにしておくよ。」俺は答える。
話ながら歩いているうちに、マリアちゃんの部屋に着くと、お茶でも、というマリアちゃんの誘いを断って、俺は店に戻った。長く開けると店長に申し訳ないからな。
「ただいま戻りました。」
「おや、早かったね。彼女とお茶でも飲んで来たらいいのに。」店長が笑いながら言う。
「事件でもない限り、夜に女の子の部屋に入るのは良くないですよ。セクハラで訴えられたら大変です。店長まで管理責任問われますよ!」俺はちょっと脅した。コンプライアンス万歳。
「おお、怖いねえ。」店長は笑う。」
俺は店長に言う。
「じゃあ、廃棄作業してきます。」
「ああ、お願いするよ。」
さあ、今夜は何を食べようかな。
それから毎晩、アルケゴスとヒーラーG はやってくるようになった。
アルケゴスは鮭、サバ、アジフライのローテーションにご満悦だ。
ヒーラーGはスイーツとピーチサワーでいいらしい。
ゲストは毎日変わった。
一人だったり、複数だったりいろいろだ。
翌日来たのは、ヒーラーレッドさんだ。普段は巫女の姿をしている。セーラー服も着るらしいが、巫女のほうがいいみたいだ。
その夜は、俺よりもあとに皆がやってきた。巫女姿のレッドは、俺の部屋に入るといきなり、「悪霊退散!」と言ってお札を投げつけた。
俺にではなく、部屋の隅にだ。
「挨拶がわりの除霊よ。もう大丈夫だけど、念のためアパートごと燃やしておく?その火で焼肉パーティやりましょうか?」」
ヒーラーレッドは楽しそうに言った。
「絶対やめてくれ。」:俺は言う。
「この部屋、悪霊がいたわね。前に住んでた二人、いい死に方じゃなかったわね。教えてあげましょうか?」
「勘弁してください。」俺は答えた。
そうか。前の住人ふたり、ここで死んだのか。だから家財道具が残っていたんだな。
それで借り手がいないから、俺に安く貸してくれたんだな。
でも、俺からすると、実害はないし、ありがたいことに変わりはない。
「レッドさん。」
「巫女姿の時は、赤身レアよ。レアちゃんでいいわ。」
レアがウインクする。
「わたしのこともミニって呼んでいいわよ。アルケゴスもそう呼んでるでしょ。」
ヒーラーGが負けじと声をあげる。
なんか、モテてると勘違いしそうだ。まあ、魔法少女に逆らったら消し炭になる未来しか見えないので、当然承諾する。
「あたしの分の弁当はないのか?」レアが聞いてくる。
「誰がくるかわからないのに準備はできないよ。あ、一応焼肉おにぎりがあるよ。具材が肉なんだけど。」
「あ、それでいいや。ちょっと台所借りるね。」
いい香りがしてきた。
赤身レアは、火の能力を持つ巫女型の魔法少女だ。自分の火で、焼きおにぎりを作っている。
肉は取り出して別に焼いたようだ。
何にしてもうまそうな匂いだな。
「おにぎり、二つとももらったよ。」もう一つは明太子だった。
「ああ、お祓いしてもらったお礼としては大したものじゃなくて悪いね。」
「おいしく出来たからいいよ。」赤身レアは笑う。
「今度来るときは前もって連絡するよ。その時には食べ物を用意しておいてね。チャーハンくらい作ってあげるから。」
巫女の火で作るチャーハンか。なんかご利益がありそう。
「ねえ、この辺で、誰も住んでなくて迷惑っぽいぼろ家とかないかしら?」
レアが聞いてきた。
「うーん。俺もあまりこの近所のこと知らないから、わからないや。何で?」
俺は聞いてみた。
「迷惑なら、跡形もなく燃やしてあげるから。その時は一緒にやりましょう。肉も焼けるわよ。」
…マジモンの放火魔じゃないか。これ、本当に正義の味方なのか?
「ちゃんと、延焼しないようにやるからさあ。よろしくね。」赤身レアがウィンクする。
いやいやダメでしょ。
「真に受けちゃダメよ。」ヒーラーGが言う。
「あ、単なる冗談だったのかな」俺はちょっとほっとする。
「延焼しないって言って、結局ブロック一角全部焼いちゃった奴がそこにいるのよ。」
ダメ。絶対。
「まあ、空き家と物置しかなかったけど、それでも持ち主とか探さないといけないし、警察や消防を誤魔化すのも大変だったのよ。」
魔法少女放火魔とその仲間たち、ってことかよ!魔放火少女か。
「もちろん人的被害はないし、むしろ焼けて保険金で儲かった、とか撤去費用がかからないですんだ、とか喜んでいる人も多かったわね。それに、火災保険がうまく働いて、そのうえケガ人はいなかったわ。結果オーライよ。」
…それでいいのだろうか? とにかく、赤身レアが来るときには気をつけよう。
「ちなみに、水の魔法使える人はいないの?その人がいたら、火を消せるんじゃないの?」俺は聞いてみた。
ヒーラーGは答える。
「そうね。消せると思うわ。 だけど、あれはあれで問題なのよね…青鮫ヤミっていうんだけど、彼女が来ると雰囲気が暗くなるのよ。」
名前からして青ざめる闇だもんなあ。
「頭が切れる賢い子なんだけど、暗いのと、男性に対しては惚れっぽくてヤンデレになるから注意してね。手錠かけられたり、包丁持ち出して、好きって言ってくれないとあなたを刺して私も死ぬ、とか言い出しかねないからね。」
勘弁してくれ。大丈夫なのか、ヒーラーブームのメンバーは。
正義の味方、というステータスにちょっとした疑問を持ってしまう俺だった。
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ここまで読んでいただいて、ありがとうございます。
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他には何もいりません(いや、それはウソです、レビューもコメントも嬉しいです。でも★が欲しい!)
ちょっとなりふりかまわず書いてみました。
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