第9話

やらなければ僕も殺されるのだろう。


僕は受け取った大鉈おおなたを大きく振りかぶった。


狩りを何度も繰り返してきたせいか、目隠しをされて後ろ手に縛られひざまずき、声も無く震えている兵士の姿にも、不思議と何も感じない。


だけど、なんだろう、それとは別の、違和感、矛盾、不快感。


文明に逆らうとか言ってるくせに、こいつらはなんで、気象制御船のおかげでこうてん天をまぬがれているこのわんで、ぬくぬくと平穏へいおん謳歌おうかしてやがんだ?


それにこの状況。


こんなのは、こんなことは……。


僕は大鉈おおなたを足元に投げ捨てて、上級真人    シンジンたちの方へと振り返った。


「こんなのは、違います。真人シンジンとも、生きるってこととも違うと思います。これは『狩り』と違って、生きるために殺すんじゃない、殺すために殺すだけです。こんなのは『人間』のやるべきことじゃありません。だから僕にはできません」


これでもう殺されるのだろうけど、僕は最後まで僕という『人間』として生きて死ぬ道を選ぼうと思った。


そんな僕の真っ直ぐな目にいらついた様子の一人が、無言で腰から大鉈おおなたを抜いて構えながら、驚いたような表情を浮かべているコウを押しのけて、僕の前に立った。


「この堕人ダジンが!!」


大鉈おおなたが振り下ろされ、僕は静かに目を閉じた。


が、同時に、突然海が沸騰し始め、盛り上がった海面が激しい津波のように浜辺へと押し寄せて、そいつを含めた上級真人    シンジンたちを飲み込み、声を上げる間も無い一瞬で煮殺にころした。


さらにわんは、海底から湧き出すように発生してきた猛烈な嵐により、荒れ狂い始めた。


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