第4話 ユメ見る少女(1)


筋町すじまちユメは自分の部屋で日課のカメラのメンテナンスを行っていた。

「あの姿を撮れなかったのは不覚だった……」

 ユメはある光景を思い出していた。

 ヨウが野良ロボットを倒した瞬間だった。

「とくに回し蹴りしたところとか良かったな……」

 ユメはカメラを構え、そのときの映像を思い出しながら、もし、自分があのとき怖がらずにカメラを構えることが出来たらと思いを馳せていた。

 ユメの夢はもちろんカメラマンだった。

 一瞬一瞬の時間を切り取り後世に残す素晴らしい機械だとユメは思っている。

 小学六年生でこんなことを言うと笑われるから決して人には言ったことがなかった。

 クラスの足が速い子や部活の試合に見学と称して写真を撮りに行った。

 ユメは小学生写真部門で賞を撮ったこともある。

 自分の腕前にもちろん自信があったが、ユメは自分の技術より理想の被写体を求めるようになっていた。

 ユメはまたヨウと野良ロボットの対決が見たかった。

 次はもっと大きな野良ロボットが現れてほしかった。

 それはユメの理想的被写体だったからだ。

ユメは一人で野良ロボット危険地帯をメモしたいわゆる『ハザードマップ』を作った。

「ここだ!」

 以前の野良ロボットより少し大きいのがさまよっているのをユメは確認した。

マヤコ、ヨウさんいつ空いてるかわかる?」

「んー。毎日空いてんじゃない? アイツ、エセ大学生だし」

「じゃー明日とか大丈夫かな?」

「大丈夫じゃない? ヨウに何か用?」

「それはもちろん写真の被写体しかないっしょ!」

 マヤコはふーんと興味のない返事をした。

「めちゃくちゃ良い場所見つけて、これはヨウさんにぜひ被写体になってもらいたいと思ってね!」

「あーわかったわかった。ヨウに言っておくよ。目立ちたがりだから喜ぶと思うよ」

「よっしゃ!」

 このときからユメの心の中に小さなトゲが生まれ始めていた。

「ヨウ、明日空いてる?」

「明日は閉まってるー」

 居間で寝っ転がりながら漫画雑誌を読みふけりながらヨウは返事をした。

「何かあるの?」

「ゴロゴロしたり、ダラダラしたり」

「働け家政婦」

「でも、マヤちゃんがアタシの日程訊くなんて珍しいね? 何、企んでるの?」 

「企んでない。何かユメがヨウに写真の被写体になってほしいんだって」

 ヨウはガバっと起きて、準備体操の動きを始めた。

「そんなことなら早く言ってよー。もう、もったいぶっちゃって」

「都合の良いヤツ……」

「えーじゃー、オシャレしなきゃじゃん! はっ! ひょっとしてヌード!?」

「知らない! ユメに訊いてみれば! じゃあ、私、伝えたからね!」

 マヤコはリクナに宿題を教えてもらうために客間へ行ったがリクナはいなかった。

「あれ、ヨウ、リクナさんは?」

「なんか研究所から呼ばれたみたいだよー」

「そうか、あの人も一応仕事してる人なんだ」

 いつも家にいるから何してるかわからなかったが、普段やってる実験も仕事の一つだったのかもしれない。

「好きなものに囲まれているからって働いていないとは限らないか……」

 リクナも働いている、ヨウもなんやかんや言って、家が常に綺麗に保たれているし、料理も美味しいしでちゃんとやっているのだ。

 ユメも将来カメラマンになりたいと言っている。

「みんな働いていたり夢を持っていたりしてうらやましいな……」

 次の日、ヨウはいつものダボダボジャージと派手な運動靴といういつもと変わらない格好で出掛けようとしていた。

「なんだいつもと同じじゃん」

「よく考えたらアタシ、ジャージしか持ってなかったわ」

「ああ。うん、そうだね」

「じゃあ、行ってくるねー」

 ヨウは鼻歌まじりにスキップして行った。

「そういえば約束場所とか時間とかわかってんのかな?」

「あ、そういえば、約束場所とか時間聞いてなかったや。まあ、ユメちゃん家近いし、直接訊こう!」 

 ヨウがユメの家の前に行くとユメは待ち構えていたかのように立っていた。

「あ! ユメちゃん」

「ヨウさん、おはようございます!」

「ちょうど、今、ユメちゃんに約束場所と時間訊こうと思ってたんだー」

「手間が省けましたね」

「そうそう。で、どこに行くの?」

「ふふ。とっておきの場所です」

 ユメはバッテンがたくさん書かれた地図を広げた。

 それはユメが作ったハザードマップだった。

「なんかいっぱいあるね」 

「ヨウさんをもっと輝かしい被写体にするため、事前に下調べしておきましたのでね!」

「おお! それはすごい! さすが未来のカメラマン!」 

「は、はは。それじゃ行きましょう!」

 照れ笑いを浮かべながらユメは歩を進めた。

 人気の無い公園、曰く付きの廃墟、解体中のビルなどで写真撮影は行われた。

 ロボットの気配がなくても、怪しまれないように写真を撮った。

 ヨウは頼んでもいないのに様々なアクションポーズを撮ってくれた。

 ポーズ集として出せば売れそうなほどのバランス感覚だった。

(これはこれですごいんだけど、私が求めるのはもっと上だ)

「なんか、変わった場所で撮るねー。ついでに心霊写真でも狙ってる?」

「ヨウさん! とっておきの場所に行きましょう!」

「お! 更なるベストスポットが登場ってわけね!」

 そこは本来『立ち入り禁止』『KEEPOUT』などの看板が立てかけてあった場所なのだが、ユメが事前に撤去した森の入り口だった。

「ここはヨウさんをもっとも魅力的に写してくれる場所のはずです!」 

「ユメちゃん……ここって……」 

(やばい! 気付いた?)

「いや、ここってなーんかあった気がするんだよねー。確か、立ち入り……」

「何言ってるんですか! ホラ! マップにも書いてありますよ! 家族、友達、恋人にオススメのベストスポットって!」

 偽造した観光マップを出し、ヨウの目の前に広げた。

嘘を並べたマップに書いてある事と現在目の前に広がる森の入り口は立ち去れと言わんばかりの雰囲気をかもしだしていた。

「おお。確かに確かに」

「ここ、夜とか絶景なんですけど、ヨウさんも夕飯の支度とかあると思うので急いで撮影しちゃいましょう!」

「やっぱ写真撮影とか映画撮影って時間が大変だよねーアタシも映画のエキストラやったことあるんだけど一月の寒い時期に外に待機。で、参加のお礼が映画のタイトルが書かれたタオル! しかも、その映画、酷評でおまけに滑ってんの」

「はは。そうなんですよ。スケジュールとか陽の光が出てるときに撮れないとかで時間にうるさいんですよね……って私、まだ経験したことないですけど」

「いやいや、ユメちゃんは立派なカメラマンだよ」

「さ、さあ、時間もないですし、行きましょう!」 

 ヨウに『未来のカメラマン』と言われ恥ずかしくて真っ赤になった顔をユメはを見られないように正面を向いて森の中に二人で入っていった。

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