第4話 ユメ見る少女(2)


「(野良ロボット)なかなか出てこないな……」

 焦りを感じてるユメにヨウはのん気に声をかけてくる。

「何々? 狸でも探してるの?」

「ま、まあ! 動物と一緒にヨウさんを写すのもアリかなー? なんて思って!」

 ユメは笑って誤魔化すも、心臓はドキドキだった。

 ヨウは「おーい。狸さんやーい。一緒に写真撮らなーい?」

 子どものように拾った木の棒をバトンのようにクルクル回しながら、冗談を飛ばしてた。

 そのとき、ガサガサと物音がした。

 狸と呼ぶにはあまりにも大きい音だ。

 ヨウとユメに緊張がした。

(み、見つけた!)

 ユメが求めていた野良ロボットがついに現れたのだ。

 ユメは怖がるふりをして、わざと地面に尻もちをついた。

 いや、ユメ自身は怖がってるふりをしているつもりだが本当に怖かったのだ。

「よ、ヨウさん、あ、あれ……」

「……」  

 ヨウは珍しく何も言葉を発さなかった。

 野良ロボットは頭の部分が壊れているため、ヨウたちに気付かずに去っていった。

 ユメは助かったと思う反面、惜しいことをしたと思った。

「ユメちゃん、立てる?」 

「は、はい……ありがとうございます……」

「ここは危険だ。早く出よう」

「え、でも……」

「確かに危険なところに行くカメラマンもいる。でもそれは今やることじゃない」

(今やることじゃない……)

「今じゃないと……」

「ユメちゃん?」

「今じゃないとダメなんです!」

 涙を流しながらユメは走り出した。

(やっぱり、ヨウさんも大人なんだ! 私が子どもだから! 未来があるからって簡単に言う! 私が生きているのは今なんだ!) 

「ユメちゃん!」 

 ヨウの声が後ろから聴こえてくる。

 ヨウが追いかけてくるのをわかっていて、ヨウにワガママを言ったことも恥ずかしかった、でも、それより、ヨウが追いかけてくるのをわかっていて走り出してしまった自分がユメは一番恥ずかしかった。

 ヨウはあっという間にユメに追いつき、勢いで抱きかかえた。

「うわあ!」

「ごめん! 乱暴だけど許して!」

 ヨウは森の入り口まで走り出した。

 それはまるで風を切るかのようなスピードだった。

 しかし、これだけ早く走っても森からは出られなかった。

「おかしい。道順は合ってるのに……」

(ヨウさん、来た道を完全に把握していたんだ)

 写真を撮る事しか考えてなかったユメは自分の浅はかさに胸が痛んだ。

 ガサガサ。

 さっきと同じ音がまた聴こえた。 

 しかし、さっきと違う点があった。

 野良ロボットはまるで仲間を連れてきたかのように三体に増えていた

 ユメはカメラを握りしめた。

 ヨウの戦う姿をもう一度見ることが出来、しかも今度はもっと大きく三体との対決が見られると思った。

 しかしヨウはユメの予想とは別の行動を取った。

「ユメちゃん逃げるよ!」

 ユメは何を言われたのか理解ができなかった。

(なんで? なんで前みたいに戦ってくれないの?)

 走るヨウの胸の中でユメは頭が真っ白になり、手のチカラが抜け、カメラを落としてしまった。

「か、カメラ!」

 ヨウはユメを抱きかかえたまま、近くの木をジャンプ台にして、カメラが落ちたところに戻った。

「ユメちゃん! カメラは!」 

「あ、あった!」

「よし!」

 また、ユメを抱きかかえて走り出そうとしたとき、ギギギという不吉な機械音がすぐ側で聴こえた。

 一瞬の間にロボットに囲まれていたのだ。

「うぐ……」

「ヨウさん……」

 ヨウはロボットの隙間をぬぐい走り出した。

「ヨウさん! なんで戦わないんですか!?」

「さすがのアタシもあの手のロボットを三体、しかも、こんな狭い森で戦うのは厳しい」

 ヨウの顔を見る限り、余裕のなさが伺える。

「で、でも、どうやって森に出るんですか?」

「さっき、リクナに応援要請を出したからそれが来るまで持ちこたえる!」

「いつの間に!」

 ヨウのスピードに追いつこうと野良ロボットは容赦なく追いかけてきた。

 それは野良ロボットのスピードを超えていた。

「なんでアイツらあんなに早いんだ!」 

「ひょっとしたらロボットじゃないのかもね」

「例えば」

「怪獣……とか」

 ヨウの予想は当たっていた。

 野良ロボットの隙間や間接部分から筋肉のようなものが脈打っていたのだ。

(ロボットの中にもぐりこんで装甲にしたのか……)

「最近の怪獣は知能犯ばっかだな!」

 怪獣はロボットでは出せないスピードでヨウに突っ込んできた。

 ヨウは間一髪で避けたが、物凄い勢いで木々が凪倒されていった。

(アレにぶつかったら人溜まりもないな!) 

 しかも、それだけのチカラを持つのが三体いる。

 とても、ユメを守りながら戦える相手ではなかった。

「森から出られないのも怪獣の仕業なんですか?」

「かもしれない。アイツらどんな能力を持っているか戦ってみないとわからないから」 

 そのとき、ヨウは何かに足を取られたのか大きく転んだ。

 なんとかユメは無事に済んだが、ヨウのジャージはボロボロになっていた。

「なんなんだ、木の根っこってわけではなさそうだけど」

 ヨウの足には筋肉の塊が蔓のように伸びてからまっていた。

 見ると野良ロボットの腕から出ているものだった。

「アイツら自分たちが怪獣であることを隠すのやめたな」

 ヨウは手で筋肉の蔓をちぎると息を整えた。

「ユメちゃん、ごめん。戦うことになった」 

「えっ!」

 思わず、待ってましたと心が弾んだ。

「アタシがコイツら押さえるからユメちゃんは出来るだけ遠くに逃げて!」

「は、はい!」

 ユメは走り出し、逃げるふりをしてヨウから見えない繁みからカメラを構えた。

「これは大迫力の写真が撮れるぞ……!」 

 ユメは震えながらカメラを構えた。

 ヨウは先頭の怪獣に飛びつくと顔を引きはがそうと装甲を引っ張った。

 ブチブチという音と共に剝がされたパーツから血が滴り落ち、怪獣は叫びを上げた。

 引きちぎれて丸見えになった肉の部分にヨウはポケットから何かを出し、怪獣にぶち込んだ。

 ヨウが怪獣から離れると閃光が放ち、先頭のロボットは肉と装甲は巻き散らかした。

 血が周りに飛び散り、ユメの近くにも肉の破片が飛んできた。

「こ、これはすごいぞ……!」

 ユメは恐怖よりも興奮の方が高まっていた。

 もっと派手に、もっと残酷に戦ってくれと願うようになっていた。

 自分が恐ろしいことを望んでいるのはわかっているがその好奇心の衝動は止められなかった。

 二体目の怪獣はすんなりと倒せてしまったのは怪獣とロボットが完全に一体化していなかったためだろう。

 ヨウがホッと安心した反面、ユメは舌打ちをした。

 三体目はもはや、怪獣そのものだった。

 ロボット部分のパーツは小さな飾りでしかなく、怪獣本体が丸見えになっていた。

「律儀に一体ずつ出てくれて助かるよ!」

 怪獣に得意の拳を入れるが、怪獣は恐ろしく硬かった。

「いってぇーな! 折れたらどうすんだよ!」

 右拳を押さえて怪獣に文句を言うヨウだが、ヨウの右手は今のでかなりのダメージを負った。

「しばらく使いモノにならないな……」

 ヨウはジャージを脱ぎ、タンクトップになるとジャージを腰に巻いた。

 気合を入れるように。 

「すごい……どの瞬間も最高にカッコイイ! すごいよヨウさん!」

 ユメは何度もシャッターを押した。 

「小学校のスポーツ大会となんて比べ物にならない!」

 カメラを更にズームしたときユメは気付いた。

 ヨウの身体から血が出ていてボロボロだった。

 それはユメにとって絶好の姿だったはず。

 しかし、ユメはカメラを降ろした。

 自分が何をしてしまったか理解したのだ。

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